第6話 終章
第6話 ヴェルレストの村にて 後編
【ヴェルレストの村 中央広場 夜刻】
「……つまりユメキリ殿、我々がいつ殺意の夢喰とやらの力に呑み込まれてもおかしくないはないと…………そういうことでしょうか?」
『少しだけ違うなアイリアよ。シャリアの夢領域に現れた夢喰を、シャリア自身が夢領域で討滅し、夢喰が夢領域に遺した邪想の力を少しずつ取り込んでいたのだ』
「確かにシャリアは身体を休めた眠りの中で、村を襲う邪なるオーガを倒すと、眠りから覚める事を繰り返しておりました」
「シャリア! なぜ黙っておったのだ!」
「あわわ、申し訳ございません、アイリア様。こんな事、信じる訳がないと思っておりましたので」
――シャリアさんが黙っていた気持ちは分かる、私も最初はそうだった。
お父様もお母様も最初は信じてくれなかった、でもユメキリを見せたら、私の話を信じてくれた。
「アイリアさん。私も夢喰の力に呑まれていたシャリアさんを直接見ています。そのシャリアさんが私に対して発した『首を殺めていい?』という言葉、夢喰に呑まれた者が主に使用する言葉の1つなのです」
「あわわ……私が殺めるなんて言葉を使っていたなんて……あわわ」
――まっ、そういう反応が普通なんだけどね。
「シャリアさん。あなたは夢の中で、私達の世界に存在しない聖なる力で、夢喰を討滅しただけ」
「なるほど……朝陽殿、あなたの目的を聞きましょうか? あなたはこの世界で何をする、おつもりですか?」
――やっぱりそうなるよね……いきなり『別の世界で、夢の中で鬼を倒しています! この世界に鬼が逃げたので、鬼を放った腑抜け達を連れて帰るついでに、鬼退治もしますよ!』なんて言われても、アイリアさん達からすれば、異物に見えるだけ……。
「アイリアさん。私の目的は、夢喰と人を繋ぐ夢領域の門を最終的に閉じる……それだけです」
「なるほど、どうやってその門を閉じるのですかな?」
「それはまず……私がエクスアリアで旅をしながら、夢喰から明日を護り続ける為の仕組みを作ります」
「その仕組みを作られた後は?」
「仕組みができたは、私達の世界と繋がる夢領域の穴を塞ぎ、穴を開けた武具とヒューマアリアと一緒に、私の世界へ帰ります」
――それが明日を救う力を持つ、夢覚市から来た夢斬士の夢宮朝陽が、この世界でするべきことだ!
「なるほど……朝陽殿の目的は理解しました。あなたとユメキリ殿が違う世界から来た事もあなたの話が嘘ではない事も、シャリアが纏っていた白緑光の鎧と白緑光の穹が証となっている」
「ありがとうアイリアさん」
「朝陽殿。朝陽殿のエクスアリアの旅は、おそらく長旅になりましょう、ですから朝陽殿の旅の拠点の1つとして、ヴェルレストの村をいつでもご利用ください。朝陽殿に迷いの聖なる力が及ばない様にしておきます」
「ありがとうございます! アイリアさん」
「朝陽殿、今日は疲れたでしょう。村の者に朝陽殿の部屋を用意させましたので、そちらでお休みください」
「アイリアさん、ありがとうございます」
「シャリア! 朝陽殿をお部屋へご案内しなさい」
「分かりました! アイリア様」
私達はアイリアさんが用意してくれた部屋へ向かった。
【ヴェルレストの村 朝陽の部屋 夜刻】
「すごーい! いいミントの香りがする!」
「朝陽様、お気に召した様で良かったです!」
――ファンタジーの作品に出てきそうな立派な家……、シャワーは無いけど、お風呂はある! なんて快適な空間!
「ありがとうシャリアさん!」
「いえいえ、朝陽様。お礼なんてとんでもない! エクスアリアで長旅をされようとしている朝陽様の安心して休息できる場所の一つを提供する、それが今の私達にできることですから」
「ありがとう!」
「ふふふ、では朝陽様! また何かありましたらいつでもユメキリIVさんを通じてお声がけください! シャリアは守護騎士隊の元に行ってきます!」
「分かった! 行ってらっしゃい!」
ガチャ、バタン!
――やっぱりこの流れ……でも私は、明日を救う力を持つ夢斬士、夢宮朝陽、この地でやるべきことをやり遂げて、夢覚市に帰るだけ。
『朝陽よ。今更、今の流れについて考えても仕方がない』
「そぅだよね、ユメキリ……まさかさー、ファンタジーのそのままの現実世界で過ごす事になるなんてね…………ユメキリもそう思わない?」
『朝陽よ。この様な世界、普通は来ることはできぬぞ』
「だよね! よし! とりあえずお風呂に入ってくる! ユメキリ、着替えをお願い!」
『朝陽よ。了解した』
【夢鬼理ガジェットから部屋着セット・春を召喚しました!】
◇お風呂場 浴刻◇
《ポン! …………ポン! …………ポン!》
「この世界に渡ってから、たった数時間でこんなクタクタに疲れなるなんて……でもこれは夢じゃない、長い旅になりそう……、夢覚市に帰った時、向こうはどれぐらいの月日が流れてるのかな……」
《ポン! …………ポン! …………ポン!》
「この世界も理が違う現実世界なんだ。だからシャリアさんもアイリアさんもあの蒼いスライムさんも生きているんだ」
《ポン! …………ポン! …………ポン!》
「えっ? ちょっと待って! なんで浴槽の底から泡が出てくるのよ! あわわわわわ」
――なんだろう……さっきまであったはずの疲れが取れて、良い気分だ……しかも!
《ポン! …………ポン! …………ポン!》
「身体の汚れも無くなってる! スライムの夢喰を斬った時についたネバネバも取れてる! こんなお風呂、初めて!」
――すごい! でもどんな仕組みなんだろう? 不思議な体験をした気分……。
《ポン! …………ポン! …………ポン!》
◇朝陽の部屋◇
――さてと! サッパリしたし、ユメキリと今後の事を相談しないとね。
「お待たせ、ユメキリ!」
『朝陽よ、長かったな……シャリアとアイリアが朝陽に話があるそうだ』
――なんで椅子があるのに正座して待っているの?
「朝陽様! お待ちしておりました!」
「えっ? なんで二人とも正座して待っていたの?」
「それはですね……、朝陽殿の長旅について、お話とご相談がありまして参りました」
「えーと、旅の話とその相談って?」
「朝陽殿。ヴェルハラの森の守護騎士が一人である、シャリアを朝陽殿の近衛として、これからの長旅に同行させる事は可能ですか?」
「うーん……、私は一人で大丈夫だよ、ユメキリもいるしさ」
「でも朝陽殿は、数刻前にエクスアリアに来たばかり……」
――確かにアイリアさんの言う通りだ。
「ですから、朝陽殿とユメキリ殿がいくら武力が優れていても、武力だけでは解決しない事も当然あるのですよ」
「確かにね……、でもまた夢喰がこの村を襲ったり、夢喰の力に村の民が呑み込まれたら、その時はどうするの?」
「なるほど。そ、それはですね……」
『朝陽よ。それは夢斬士のお前にとっては、普通に返答できる問いだが、この世界の住人であるアイリアには、酷で返答しづらい問いだぞ』
――確かに。私にとっては普通、でもアイリアさん達にとっては普通じゃない。
『朝陽よ。夢鬼理ネットワークシステムVer.エクスアリアを作るのだろう? ならば、アレを使うしかない』
「あっ! ユメキリII型……ユメキリII型ね」
『左様だ、朝陽よ。夢宮コンツェルンに分け与えた分体である夢斬参型の原型、ユメキリII型を使えば良いのでは?』
――『確かにユメキリII型を使えば、科学の力ではなく、想いの力で稼働してくれる』
『左様だ、朝陽よ』
「ユメキリ、アイリアさんにII型をお願い」
【ユメキリが夢鬼理ガジェットからユメキリII型・主を召喚しました】
『ではアイリアよ。これをどこか誰の目もつかぬところに納めるといい。この村に危機が訪れし時、朝陽とシャリアを呼び戻す仕組みが発動するだろう』
「朝陽殿とシャリアを呼び戻せるからくり?」
『左様だ、アイリアよ。それとこの森に溢れる聖なる力とユメキリII型がある限り、この村の住人達を繋ぐ夢領域の出入口からの夢喰の侵入を護る事ができる』
「そこまで我々にしてくださるとは……朝陽殿、ユメキリ殿、本当にありがとうございます」
『礼には及ばん、アイリアよ。其方には邪なる想いを一切感じぬ、この世界の主である女神エクスアリアに感謝することだ。朝陽の支えとなる者は、我の同胞である』
「ユメキリ殿……かたじけない」
◇ヴェルレストの村 女神エクスアリアの泉◇
『朝陽よ。この泉の底から聖なる力の素が湧き出ている、この場所であれば女神エクスアリアの御加護により、ヴェルハラの森の命ある魔物達の夢領域を護る効率が上がるだろう』
「うん、そうだねユメキリ……アイリアさん、お願いします!」
「分かりました、朝陽殿…………、どうか女神エクスアリアの御加護と共に……」
《ボチャン!》
「あわわ朝陽様! 泉の底から綺麗な白き光が!」
「うん! これがこの世界の夢鬼理ネットワークの始まりになるんだよ、シャリアさん!」
「はい! 朝陽様!」
【ユメキリII型・主のエクスアリアの泉底への設置が完了:稼働状態良好】
「さあ朝陽殿、お腹も空いたでしょう。お部屋に食事を用意させております、さあ行きましょう」
「ありがとうございます、アイリアさん!」
私はその後、シャリアさんたちと食事をした。
ファンタジー世界の定番であるエルフさん……いやエクスアリア族の料理を食べた感想は、ただ新鮮な感じで美味しかった。
――私の住む世界では絶対食べられない料理だったし、なんだか心の疲れも取れた様な感覚……。
◇しばらく後◇
お腹もいっぱいになったし、明日の朝早く、この森を抜けよう。
――それにしても、ミントの香りがするふかふかのベッドね……、眠くなってきた……、むにゃむにゃ……。
《『俺様は……異……いて……やっ……る!』》
――あれ? ここはヴェルハラの森? しかもあれタケミツ?
《『俺様は……、日本……来た……、神レベル……勇……様だぞ!』』
――何が日本から来た神レベル勇者様よ! アンタは……。
《『不……の……バリ……嘘だろ!』》
――当たり前でしょ! そんな腑抜けた技、夢斬士は知らない!
《『あなた……殺……て……?」』
――あれは? 夢喰だった時のシャリアさん?
《『ここは……、殺……のファン……世界だ!』》
――殺意のファンタジー世界? だからアンタは夢宮分家の腑抜けタケミツなんだよ! 腑抜ケミツが!
第6話 ヴェルレストの村にて 完。
第1章
夢鬼理ネットワークとファンタジー現実世界 終章。
次章 ファンタジー現実世界を旅する夢斬士
第7話につづく。
*2026年 4月11日(土) 内容の再構成改訂を行いました。
*2026年8月28日(金) 一部内容の改訂を行いました。
*2026年8月30日(日) 一部内容の改訂を行いました。
*2026年9月7日(月) 一部内容の改訂を行いました。




