第30話
第30話 エルタティア山と夢斬貮型 朝陽:前編
【エルタティア地下避難壕 朝陽達の部屋 16回目の朝昼刻】
『朝陽よ、16日目の夢覚めの時だ、起きるがよい』
――もう朝なの……、起きなきゃ……。
「ふぁぁぁ! おはよう、夢鬼理」
『おはよう、朝陽よ。昨日の夜は災難だったな』
「はぁ、昨日まで二十八枚あった金貨も残り十枚……、あの後、シャリアさんと弥乃葉は謝ってくれたけど……まぁ、私も温泉に入っちゃったしさ、しゃーないよ」
――あの二人も一人の人間だし、ピリピリした空気のまま、奴らと戦闘になったら、最悪命を落としかねないもの。
「ふあわわわ!」
――シャリアさんも起きたみたいね。
「おはよう、シャリアさん」
「おはようございます、朝陽様、夢鬼理様」
『うむ。おはよう、シャリアよ」
「あれ? 弥乃葉さんはどちらへ?」
『シャリアよ、弥乃葉ならおそらく……』
《ガチャ!「ぜぇぜぇはよー! ぜぇせぇヒー! ぜぇぜえアさん! ぜぇぜぇキリさん!」》
――なんで朝から汗びっしょりで、息も上がってんのよ……。
「おはよう、弥乃葉」
「ぜぇはよ、ぜぇぜぇ」
「アンタ、息が上がってるけど、今まで何をしていたの?」
「ちょっ、その前にみ、水を……」
「はい、弥乃葉さん、お水です!」
「ぜぇぜぇ…………ぷはぁー! 助かったよ、シャリアさん!」
――いくらなんでも回復早すぎでしょ。
「でっ? 今まで弥乃葉は何をしていたの?」
「えーとね、『鍛錬、それはランニングから始まりシュッと躱して! シュッと躱す!! ヒョイと避けて! ヒョイと避ける! それが死にゲーたるエクソダスソウルと正義の夢斬士の共通点なのさ……』って感じで、二人が起きるのを待つために地下シェルターの中をランニングしてきた!」
――エクソダスソウル? 向こうの世界で弥乃葉が暇さえあればやってたゲームの名前だったわね。
『朝陽よ、もうそろそろエイアスが来るのではないか?』
「あー、エイアス君なら先にバニングさんの所に行ってるから、後で来てくれって!」
「分かったわ。私とシャリアさんは今から支度するからちょっと待って」
「はいはいー!」
◇十数分刻後◇
【エルタティア地下避難壕 中核部 バニング工房内 16回目の昼刻】
「おはようございます、エイアスさん」
「おはよう、朝陽殿達」
「あれ? バニングさんは?」
「バニングなら氷溶の腕輪とシャリア殿と弥乃葉殿の武具を俺に渡した後、地下の工房へ入って行ったよ」
――あれっ、XIIが無い!
「朝陽殿の新しい武具はもうしばらく時間がかかるらしい」
「そうなんだ……、でも氷溶の腕輪があればエルタティアの山頂まで行けるなら、夢斬貮型を抜いて帰る頃には出来上がってるかも」
「そうだな、ではエギリスの元へ行こうか」
「ええ、分かったわ」
――あの高さなら二日ぐらいかかりそうね……。
◇エルタティア地下避難壕 治安維持隊室◇
「おかしいな……エギリスがいないな」
「近衛騎士エイアスか、エギリス隊長ならエルタティア地上部へ偵察に行ったぜ、夕方には戻って来るんじゃないか」
――エルタティア地上部? この地下シェルターからエルタティアの地上へ行けるの?
「分かった。エギリス隊長に俺達はエルタティア山へ罵倒神の守護剣を抜きに行くと伝えてくれ」
「本当にあの山を登るのか?」
「ああ。それがメリディ様とエルタティアの民を邪なるモノ達から解放する術であり、俺が巫女近衛騎士としての名誉を取り戻す術だ」
「まあ、俺達治安維持隊から一言だけ言うなら……、近衛騎士エイアス、生きて帰って来いよ!」
「ああ、ありがとう。朝陽殿、では行こうか?」
「ええ、分かったわ」
◇一刻時間後◇
【エルタティア山の麓 16回目の雪昼夕刻】
――寒っ……くない! 氷溶の腕輪のおかげかな……、でも風が強すぎて吹雪いてる、気をつけて登らないと。
「ここがエルタティア山の麓か……、風と雪がすごいね」
《『チッ! やっと来たのか、朝陽! フン!』》
――この声は夢斬貮型?
《『なーに余所見してるんだよ! 夢斬貮型! ……ん? 今、朝陽って言わなかったか?』》
《『チッ! そうだ、腑抜ケミツ! 明日を奪う力へ堕ちたお前を滅するために朝陽は来たんだ! ハァッ!』》
――この声はタケミツ……、なんで夢斬貮型がタケミツと戦っているのよ!
《『あははは! 朝陽ちゃんが僕を滅するだって? 無理無理!』》
《『チッ! 腑抜けが! 仕方がない!』》
――えっ? こ、これは……、こんな所で何やってんのよ! 夢斬貮型!
『朝陽、シャリア、弥乃葉よ! 我達を纏え!』
【夢宮朝陽がユメキリバトルスーツを装備しました!】
「あわわわ! 目の前が眩しいです!」
「……わたしは朝陽の剣、わたしは朝陽の剣……」
「なんだ? この光は!」
――これは……、まずいことになったわね。
【夢斬貮型夢領域 エルタティア山:麓域へ強制転送されました】
――夢斬貮型の夢領域……、夢斬貮型の今が作り出している夢領域……。
「夢鬼理、これって……」
『朝陽よ、どうやら我達はタケミツによる誘導の罠にハマっていたようだな』
《『正解ー、管理者夢鬼理! 久しぶりだねー、あ、さ、ひちゃん!』》
――立派な兄と違い、黒丸型眼鏡と似合わない黒髪オールバック……それと夢宮ヶ丘高校の夏服……、あの時、A.Yルームで見た時と同じ腑抜けタケミツ! でも何かおかしい……。
「アンタ、ここで何してんの?」
「あはははっ、そりゃ勿論! 夢斬貮型を僕の物にして、邪滅の刀にしてやるためさ!」
――何を言っているのコイツは……チッ、腑抜けが!
「アンタの思い通りにはさせない! 私と夢鬼理が初めて造った明日を救う力、それが夢斬貮型だ!」
「明日を救う力がなんたらとかいう掟だっけ? あんな掟、僕が手に入れたじゃめ――ぐはっ!」
「ウッセーな、腑抜ケミツ! さっきから黙って聞いていれば……ってあれ? 黒霧のカーテン?」
《『残念でしたー! 夢月弥乃葉を邪滅コロシアムへご招待ー!』》
「えっ、弥乃葉が消えた……弥乃葉、弥乃葉!」
《『朝陽、大丈夫だから!』》
「ダメ、私も戦う!」
《『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ! 明日を救う力を持つ正義の夢斬士たる夢月弥乃葉は、目の前にいるこんなやつらには負けないから! さあ来い!』》
――チッ! 弥乃葉がどこにいるのかも分からない!
《『あはははは、そうだったー!『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ』が掟だったけ? あははははー笑わせてくれる! 大いなる邪滅の力の前では無力な力なり!』》
――チッ! 夢宮の血が流れていながら、夢宮の掟すら愚弄するのか、この腑抜けが!
《ふっ、朝陽よ『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ……』だろ?》
――えっ? 今の声、もしかして……。
《あの掟には『力に溺れ、夢覚ない夢宮一族の者は、明日を救う力を持つ夢宮の者による無醒殺滅の刻が、必ずや訪れるであろう……』の続きが綴られておるのではないのか?》
――えっ、どこにいるの? タケミツには聞こえていないみたい……じゃなくて! それは限られた夢宮の者しか知らない裏の掟……、でも明日を奪う力に溺れている夢宮タケミツは、明日を救う力を持つ者の夢宮朝陽が斬る!
第30話
エルタティア山と夢斬貮型 朝陽:前編 完。
第31話へつづく!
*2026年10月4日(日) 一部内容の改訂を行いました。




