第29.5話 幕間
第29.5話 幕間 エルタティアの地下避難壕にて
【エルタティア地下避難壕 朝陽達の部屋 15回目の夜刻】
「シャリアさん、弥乃葉、なんで先に……って、いないわね」
――確かに治安維持隊の人は、この部屋に案内したって言っていたわよね。
「それにしても地下シェルターの一部屋なのに、妙に豪華な造りなのよね……、シャンデリアっぽいのもあるし……」
――どこへ行ったのかしら……まったく二人共、勝手なんだから!
《「あわわわ! ダメですよ、弥乃葉さん! シャリアのどこを触っているのですか! あわわわわぁーん!」》
――ん? シャリアさんの声?
《「やぁーばり! エル……いいやエクスアリア族のシャリア・エクス・ア・ロッテちゃんはー! ほんとーに! 羨ましい身体してるなー!」》
――今度は弥乃葉の声……部屋の奥?
『朝陽よ。どうやらこの奥から二人の声がするようだ』
「部屋の奥? 何もないけど……」
『朝陽よ。戸に窪みがあるようだ』
「ん? 窪み……本当だ……、よし開いた! うわっ、熱ッ!」
――これは煙? ……これってもしかして!
「あちゃー! 見つかってしまったかー!」
「ちょっと二人共、勝手にいなくならないでよ!」
「すみません、朝陽様!」
「ごめんねー、朝陽。でもバニングさんに預けた武装が出来上がるまで、わたし達なんにもできないじゃん」
「そ、それはそうだけど……、ていうかこの温泉を使っていいかぐらい聞い――」
「聞くわけないじゃん! だってエギリスさんが用意してくれたこの豪華な部屋に備えられている『僕は見つけてしまった、これは地の聖なる力を持つドワ……いやスレイアアリア人の聖域だ』な温泉だよ! 大丈夫でしょ、朝陽も入りなよ」
――まったく弥乃葉は弥乃葉なんだから! 『……でも温泉かー、久しぶりに疲れも取れそう!』
『朝陽よ、このおん――』
「夢鬼理、部屋着セット・冬をお願い!」
『……了解した』
◇エルタティア地下避難壕 朝陽達の部屋 ユウリョの湯◇
――このミントの香りがする温泉……、やっぱり癒されるなー、疲れも取れてきたような……。
「ひゃはー『朝陽も相変わらず! ほんとーに羨ましい身体だぜー! 正義の温泉浸かり士たる弥乃葉様にも少し分けてもらいたいぜー!』……ってイッタァ!」
「いきなり触ってきたアンタが悪い!」
「でも朝陽さ、まさかこの世界で生まれたシャリアさんと向こうの世界で生まれたわたし達が一緒に温泉に入るなんてねー」
「シャリアも朝陽様と弥乃葉さんとおんせんーに入るとは、考えてもいなかったですよ」
「そうだねー、でも弥乃葉はこの世界に来て良かったの?」
「うん、最初は家族に反対されたけど……わたしが決めたことだから最終的には納得してもらったよ!」
「ごめんね、弥乃葉まで巻き込んでしまって」
「いいんだよ、わたしがもし明日を救う正義の夢斬士の道を朝陽に作ってもらえていなかったら、朝陽ともシャリアさんとも繋がることも無かったんだし!」
――弥乃葉……私も弥乃葉と同じ想いだよ。
「シャリアも朝陽様と弥乃葉さま……あれっ? なんだか目が――」
「シャリアさん、どうしたの?
「あっちゃー、やっぱりのぼせちゃったかー!」
――やっぱりのぼせた? ……もしかして!
「あのさ、アンタに聞きたいことがあるんだけど」
「えっ? 『正義の温泉浸かり夢斬士たる夢月弥乃葉シェフになんでも聞きたまえ!」だよ、朝陽」
「じゃあ、この温泉にいつから浸かってるの?」
「えっ? 『そりゃ旦那、一時間半ぐらいだ、だって温泉だか――』あれ? 目の前がぐるぐ……」
《バチャーン!》
――まったく、二人共勝手なんだから!
《「朝陽殿……、確かに治安維持隊員がこの部屋を案内したと言っていたんだがな……ん、扉が……」》
――エイアスさんの声? まだ服を着てない!
《「まさか! ……朝陽殿!」》
――ちょ……ちょっと! 『夢鬼理! バトルスーツをお願い!』
『朝陽よ、仕方あるまい』
【夢宮朝陽がユメキリバトルスーツを装備しました】
「朝陽殿、無事か! はぁ……なぜその姿なんだ?」
「あ……エイアスさん……、これはその……」
「ん? 朝陽殿、髪が濡れているようだが……」
「えっ? そうかな……気のせいじゃない」
――なんでそんなとこまで見てるのよ!
「もしや朝陽殿はその温泉へ入ったのか? そこで気を失っているシャリア殿と弥乃葉殿も……」
――もうこの状況を見たら温泉に入ったって言うしかないじゃない……。
「うん。さっき部屋に戻って来たら、シャリアさんと弥乃葉が先に入っていたから……、何か不味かったかな?」
「はぁ……、やはりエギリスとの話が終わった後に、この部屋について先に言っておくべきだった……」
「えっ、それってどういうこと?」
「朝陽殿、この温泉は有料だ……、というより浴場の手前の壁に代金提示板が貼ってあっただろ?」
――はっ? 有料? 代金提示板? そんな物、見た記憶がないわ!
『朝陽よ。我は伝えようとしたが、朝陽の頭の中は温泉ばかりだっただろう、違うか?』
「そ、そうだけど……」
「実際に見てもらった方が早いな、こちらへ来てもらおうか?」
◇朝陽達の部屋 浴場扉前◇
「ほら朝陽殿、この提示板にちゃんと書いてあるだろ?」
――本当だ、しかもちゃんと扉の前に付いてるし、だけど読めない!
「もしかして文字が読めないのか?」
「そ、そうだね……夢鬼理、翻訳して」
『仕方あるまい……』
[地然都エルタティア地下避難壕名物 ユウリョの湯]
あらゆる疲れを癒すエクスアリア有数の万能湯温泉、ユウリョの湯。
故にこの温かなる泉へ浸かりし者には、一刻一人当たり金貨六枚を頂戴いたす!
利用分の金貨は、エルタティア治安維持隊以上の者へ渡すべし!
[エルタティア地下避難壕運営組合 一同]
――はぁ……もうッ、最悪!
「シャリア殿と弥乃葉殿が湯に浸かった時を俺は見ていないが、あののぼせ具合からすると約一刻、つまり二人合わせて金貨十二枚……」
――はっ? なんで二人分の入浴料を私に言うのよ!
「それと朝陽殿も同じく、俺は朝陽殿が湯に浸かった時を見てはいないから、約一刻分の金貨六枚を戴く、つまり……」
――はっ? 私が入ったのはせいぜい二十分ぐらいよ! それとつまりじゃないのよ……、ありえないんだけど!
「金貨十八枚を支払ってもらおうか?」
――金貨十八枚? なんで私が払うのよ! ありえない!
『朝陽よ、提示板が備え付けられていた以上、仕方があるまい』
「はぁ……分かったわ」
【夢宮朝陽が金貨十八枚!を所持しました!】
「はい、どうぞ! 金貨十八枚!」
「…………確かに金貨十八枚だな。朝陽殿、この世界にはこの世界の理がある、別の都で同じ様な部屋があったら提示板を探すことだ」
「うん……分かったわ……」
「俺はこれで失礼する、明刻日の朝にまた来るよ」
「……分かったわ」
――もう最悪! この二人には後で金貨十八枚分働いてもらうんだから!
第29.5話
幕間 エルタティアの地下避難壕にて 完。
第30話へつづく!
*2026年10月2日(金) 一部内容の改訂を行いました。




