第29話
第29話 エルタティアの鍛治職人 後編
【エルタティア付近 地下避難壕 バニング工房 15回目の昼刻】
「はーい、こちらからどうぞー」
私達はエルタティアの鍛冶職人であるバニングさんの工房にいる。
プシュー! プシュー! プシュー! プシュー!
「おっー! ねぇ朝陽朝陽、やっぱり『僕は、数多の属性を宿す様な光を放つ宝玉を飾る、凄腕ブラックスミスの工房に来た。しかし暑いなー』みたいな感じの工房だね!」
「はいはい、茶毛の小娘ヤノハ……それじゃあアサヒ、あなたの白き聖なる力の一つを貸してもらえる?」
「分かりました、バニングさん。ユメキリ、XIIをお願い」
『朝陽よ、了解した』
【夢宮朝陽が夢鬼理XIIを装備しました】
「これがアサヒの始まりの白き力……カゲロウの鬼理刻とは違う……」
『左様だ、バニング。これが幼き朝陽と我が約束した十数年前の原初の力である』
十数年前の私は、幼くもユメキリのお陰で、夢斬士の一歩を踏み出した。
ユメキリと契約後、最初の想いの力であった夢鬼理一文字だった夢鬼理XIIは、夢斬士として成長していく私の想いの力に耐えられなくなったのか、いつしか反応が消えてしまった。
だから私が使用している夢鬼理一文字は二代目なのだ。
「ほほー、でもアサヒさー。この子は『幼くも独りぼっちだったアサヒを支える為の役目は終わった』って言ってるわよ」
「バニングさん! XIIの言葉が分かるの?」
「当然でしょー、私は鍛冶職人バニングだよ。カゲロウが持つ長剣キリコクではない、もう一つの力である鬼裡祓滅刻刀・醒を造ったのが、私だからねー」
「鬼裡祓滅刻刀・醒? 陰楼さんが腰に据えていた鬼理刻ではないあの長き刃は……あなたが造った刀だったのですね」
「そうよー、カゲロウの話は意味不明過ぎて訳が分からなかったわー……でもカゲロウが渡してきた鬼理刻のヒトカケラが意志を持っていたから、ウチはカゲロウの話を信じて造ったのー」
――だから陰楼さんは、フェルレト支部周辺と私達が訪れていない場所は、俺に任せておけって言っていたのかな……
「ウチが作ったあの長剣は、邪なるオーガである夢喰が残す邪気を消滅させ、邪気に呑まれる事なくエクスアリアの夢喰を斬ることができる」
「エクスアリアで生まれた夢喰から殺意の邪想を消して斬れる刀……」
「そう。謂わば、朝陽の世界ではなくエクスアリアに完全適応した長剣ってことねー。剣の名前はカゲロウがつけたのよねー」
バニングさんの話を聞いた私は、タケミツの配下である夢邪滅四重鬼卿と戦う為には、夢覚市から持ち込んだ装備ではなく、エクスアリアの世界で作られた私の想いの力が必要であると考えた。
「弥乃葉、一つ聞いてもいいかな?」
「いきなりどうしたの? 朝陽」
「陰楼さんがコンツェルンの屋上に現れた時、何かして
た?」
私の考えが確かなら、陰楼さんはおそらく……
「えっ? あー確か、わたしが陰楼さんに斬りかかってぶん投げられて気絶させられた後、気づいたら総帥や技術統括長の心裡さん達が来ててね」
――フェルレトの街で陰楼さんが弥乃葉に言っていた『またぶん投げられたいのか?』は、その時の事だったのね。
「お父様と心裡達も来たの?」
「そうだよ。陰楼さんは、夢覚市の街並みを見ながら『遥か長き数百の時を待たせたな鬼理刻。俺と泪陽がいる時代の遥か先で、お前が護り続けていてくれた夢覚の地の明日は、この時代の夢宮の一族に任せればよい……だから帰るぞ』って、陰楼さんは刀を空に向かって掲げたんだよね。そうしたらさ――」
陰楼さんが刀を夜空へ掲げた瞬間、夢覚市の四方から白き光の光柱が現れ、四方の中心地にいた陰楼さんの刀へ吸い込まれたという。
「で、陰楼さんは朝陽が無事である事を総帥と心裡さんに伝えて、朝陽が8月8日に使って壊れたゲートを鬼理刻を使って、後一回だけ使える様に直した」
その後陰楼さんは、鬼理刻を使い自らの専用ゲートを作り、エクスアリアへ帰って行ったという。
――泪陽と言う名前……月都泪陽は、夢覚市が夢覚の地と呼ばれていた時代に、夢宮の一族を作った人として、202X年の夢覚市でも名前が残っている人……でもそれは、表向きの歴史だ。
「いやー、わたしは夢宮の一族とも夢斬士とも全く関係の無い夢月家に生まれた人間だからさ。でも本当なら目の前にいないはずの遥か昔の人である陰楼様を見たらさ、『僕は、境界線を越えてしまったあの子を救いにいくんだ!』って考えたんだよ」
「ありがとう弥乃葉……」
「うん! 総帥やコンツェルンの人に『正義の夢斬士、夢月弥乃葉の異世界転移!』を承認してもらって、陰楼さんが帰った1週間後の8月30日の夜、片道キップの転移ゲートからわたしは、エクスアリアに来たんだよ……まだ慣れないけどね」
――ありがとう弥乃葉。
「あのさー、感傷に浸ってるとこ悪いんだけどー、アサヒはどうするの?」
私の目的は、エクスアリアの夢鬼理ネットワークを作って、夢覚市に帰ることだ。
それがエクスアリアの歴史に名を残す行為だとしても、それは夢喰の王、ファンタジー世界でいうところの魔王と成り果てたタケミツから世界を護る為の力があるのなら、この地で作る夢鬼理も必要なのだ。
「分かりました。バニングさん、よろしくお願いします」
「はいはいー、トゥエルヴちゃんは預かるわね。あ、そういえばあなた達は、なんで来たのかしらー?」
――えっ? ……そうだ! 私達が来た理由をまだ話して無かった!
「ふぅー、バニングはいつもこうだからな。バニング、今から俺達は、エルタティア山の頂を目指す」
「エイアス、本気で言ってる?」
「ああ、だから俺達はアンタの目の前にいるんだ。ほら、これがエギリスの許可証だ」
「ほほう……確かにエギリスの……分かったわ。あなた達、外でちょっと待ってなさい」
「ああ、分かった。行くぞ、朝陽殿」
「バニングさん、トゥエルヴをよろしくお願いします!」
「はいはいー、アサヒ」
私達は、エイアスさんと共にバニング工房の外に出た。
【エルタティア付近 地下避難壕 バニング工房前 15回目の夕刻】
「いくらバニングであってもエルタティア山の頂を目指すから道具を作ってくれという急な頼みは時間はかかるな」
「そうだね……ねぇ、エイアスさん」
「なんだ? 朝陽殿」
「私達は、エルタティア山がかなり高い山なのはこの目で見たから知っているけど、そんなに危ない山なの?」
「ああそうだな……エルタティア山には、我らスレイアアリアの民とエルタティアの都を護りし神の伝承がある」
「エルタティアの護りし神の伝承?」
「そうだ。だが、その目で護りし神の姿を見た者はいないと言われている」
――誰も姿を見たことがない護り神か、なんか嫌な感じがする……
「まっ、俺のメリディ様を救い出す目的と朝陽殿達がエルタティアへ来た目的は同じみたいだからな。短い間だが、改めてよろしく頼む……」
「こちらこそ、よろしく。エイアスさん」
「……にしてもバニングは遅いな」
「とりあえずエイアスさん。エギリスさんが用意してくれた弥乃葉達がいる部屋へ行きましょうか」
「ああ、そうだな朝陽殿」
――まだまだ時間が掛かりそうね……トゥエルヴ……。
「アサヒ、エイアス、おっ待たせー! あれ? 他の子達はー?」
「4人分の寒さを凌ぐ道具を作るのには、流石のバニングでも時間が掛かったか」
「やかましいわーエイアス。はーい、氷溶の腕輪。これを着けてエルタティア山に登れば、緋の聖なる力でエルタティア山の寒さに凍えることはないわ」
「ありがとうございます、バニングさん」
「はいはいー。でもトゥエルヴちゃんは、もう少し時間がかかりそうだから、先にエルタティア山の頂に突き刺さったあなたの力を取り戻すのよ」
「分かりました、バニングさん」
「それとエイアス、ちょっと」
「なんだ? バニング……すまない朝陽殿、先に行ってくれ」
「分かった、エイアスさん」
――ん? なんだろう、気になるな……
バニングさんから氷溶の腕輪を貰った私は、弥乃葉達がいる部屋へ向かった。
第29話 エルタティアの鍛治職人 後編 完。
第29.5話へ続く!
次回、間話29.5話です!




