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第20話

 第20話 エクスアリア炒飯と夢宮一族:3



【フェルレトの街  夢宮陰楼(ユメミヤ カゲロウ)の家 13.7回目の夜刻】



「腑抜けミツ、いや夢宮タケミツ! 絶対に許さないんだから!」



 ――あの腑抜けがこの世界へ来なければ、夢領域が繋がる事もなく、夢領域のリクルさんがあんな言葉を吐くことも無かった!



「あわわ! 朝陽様、いきなりどうしたのですか?」


「落ち着け、朝陽」


「同じ夢宮の名を持つ者として、絶対に許せない! 私がタケミツを斬る!」



「朝陽! お前があの掟破りを斬る事で、この地の明日が救えると真に考えているのか!」



 ――明日を救う力を持つ者として、明日を奪う力に溺れた夢宮の掟破りを、あの掟(・・・)通りに斬るしかない!



「それも……私がエクスアリアの明日を救うために必要な方法の一つです!」


「ふっ愚かな。お前が持つ明日を救う夢鬼理の力とあの掟破りが得た明日を奪う殺意の邪想の力は、どちらも強大な力……故にお前が彼奴を斬ったとて、新たな火種を生み出すのみ!」


「そ、それは……でも、私は明日をす――」


「ふっ、まったく血は争えんな……二人共、手を出せ!」


《「ん? 陰楼様がなにかしようとしてる?」》


「夢月、お前はそのまま炊事場で飯を作っていろ」


《「えー! わたしも――」》


「飯を作っていろ、分かったな!」


《「はいはいー、分かりましたー」》



 ――一体、何をしようとしているのかしら……。



「よし、鬼理刻……頼むぞ!」



《『主君陰楼……承知したぜ!』》



 ――ん? 鬼理刻の声? 意識が遠のく………。



【遥か数百年前 夢覚の地(現夢覚市) 夢宮屋敷:記憶刻】



「いつまで呆けている、朝陽、シャリアよ」


「……えっ、ここは?」


「あわわわ! ここは大きな家の中でしょうか?」



 ――えっ? 日本? お屋敷の中? ここはどこなの?



「この屋敷は、俺が生きる刻の夢覚の地にある夢宮一族の屋敷……」


「これがむざめしーなのですか……、エクスアリアと空気も全然違います!」


「ふっ、そうか。だがな、ここは鬼理刻が見せている、俺に刻まれし刻の域だ」



 ――『なんで鬼理刻はこんな事ができるの? あれっ、夢鬼理?』



「夢鬼理はこの域へは入れぬ、俺は鬼理刻と刻想の契りを交わした者だからな」


『侮るな、夢宮陰楼。我と朝陽は一心同体、朝陽が我の名を呼べば、どこにいようと我はいるのだ』


「ふっ、想い叶えし刻想器だったモノ達……真に侮れんな」


『陰楼よ、お前と鬼理刻も真に侮れんぞ』


「うむ……、ん? 直にあれが始まるか、二人共場を移すぞ」



 ――こんなに広いお屋敷で、今から何が始まるというの……。



 ◇夢宮屋敷 東の蔵◇



 ――ここは……倉庫というよりも蔵?



『朝陽よ、この場所の至る場所から数多の祓いの力を感じる……』


「はらいーの力? 確かに朝陽様の白き聖なる力と似ている力を感じますね」


「この蔵は、この刻までの妖祓の夢宮一族が使いし、妖の祓札を納めた蔵だ」


 ――妖祓? 昔は退魔士の一族だったの?


「この蔵に納めているモノ達を使い、当刻の俺達は人に害を成す妖を祓っていたのだ」



 ――確かに、『なんとか祓ノ札』や『なんとか祓ノ鈴』、あと隠す様に『なんとか禁忌ノ札」とか書かれたモノ達があるわね。



「ふっ、『まさか夢斬の武士ではなく、妖祓だったとは』みたいな顔をしているな、拍子抜けしたか?」


「いえ、でもこの場所、夢覚市で見たことあるような……」


「ふっ、お前と夢月が生きる夢覚の地にも、この蔵は残っていた(・・・・・)な、場を移るぞ」



 ――ん? なんで私の時代にも残っているこの蔵を陰楼さんが知っているのよ、まるで自分の目で見た様な言い方……。



 ◇夢宮屋敷 西の蔵◇


 ――どれだけ広いのよ、このお屋敷は!


「この場所には、シャリアが読めない紙が沢山ありますね」


「この蔵は俺達が記した、この夢覚の地についての書物を残しておく蔵だ」



 ――確かにここにあるのは、微かに読める日本語の書物……、ん? [今日も妖、発見に至らず。これで三十日目、奴らは何処へ……、陰楼]……どういうこと?


「ふっ、その書物に記した通りだ。人に害を成す妖は、この刻既に夢魔の妖へと変化していたのだ」


「もうこの時には……夢魔の妖に進化していたのですか?」


「そうだ。別の書物を読むがよい」



 ――別の書物? どれも陰楼さんが書いた記録ばかり……、待って、この書物には[夢覚の住人、目醒める事無く眠り続ける者いれば、殺の言葉を放ちながら刃を振り翳す住人現る、陰楼]……『これってもしかして……』


『朝陽よ、どうやら陰楼が生きる時代と我達が生きる時代のヒトの明日が奪われる兆候は、同じだったようだな』


「そうだ、この書物は妖祓の一人だった刻の俺が書物……ん?」



《『お助けぇ! 命だ――』》


《『妖祓の夢宮一族は今日で終わりだァッ! 野郎ども! 存分に殺めてええぜー!』》



「来たか、場を移るぞ」


「移動するって……夢宮の者達を助けなくていいのですか!」


「ここは俺に刻まれた刻の域。それ故、この場にいる夢宮の者達に触れる事も一切できぬ俺とお前とシャリアにはどうするできぬ、ただ見ることしかできぬのだ」


《「キャァァ! お願い、命だけ……は……」》

《「ひゃははは! 夢宮一族は殺めるんだァァァ!」》



 ――うっ……、この野盗っぽい下衆、なんて酷い殺め方を……。



「あわわわ! 許せない! シャリアの弓撃を……矢が通り抜けてしまいました……」



《「祓念(フネン)! ダメだ、全く歯が立たぬ……」》



 ――ん? この声は……、外から?



「朝陽、外へ移るぞ」



 ◇夢宮屋敷 庭園◇



 ――うっ……、どれだけ人を殺めれば気が済むのよ! この下衆野盗が!



《「グァガァヴァヴァヴァ! 今日が忌々しい夢宮一族の終焉の時なり!! 我ら妖の邪魔をしてきた、愚かなる報いを受けるがよい!」》



 ――あ、あれは陰楼さん? 我ら妖って、まさか!



「ふっ、そうだ。目の前から見て、左手いるのが夢魔の妖に呑まれた野盗ども、右手にいるのが鬼理刻の力を手にする前の無力な俺だ」



《「くっ……夢覚の地の民達、夢宮の皆、俺が愛する者よ……すまぬ」》



 ――陰楼さん、かなり斬られてる!



《「グァガァヴァヴァヴァ! 終わりだぁぁぁ!」》



「朝陽、シャリアよ、そろそろだ」



《『汝は、これでよいのか?』》



 ――あの時の白い光! この声は……夢鬼理?



『否、朝陽よ、これは想いを叶えし刻想器の声だ』



《『これでよいか、だと?』》



 ――陰楼さんと刻想器との会話が聞こえる……。



《『左様、汝は夢覚の地を此奴(きゃつ)らの手に渡ることを本当に望むのか?』》


《『戯言を抜かすな……。夢覚の住人、夢宮の者達とアイツもこのまま護る事もできず、外道野盗に斬られ死に征くなど、本望なわけがあるまい!』》


《『本望か……、我は何もできぬぞ。汝に代わり、こ奴らに鮮血を見せてやる事もできぬ』》


《『突如として現れ、頭へ直に語りかける貴様が、何をしてくれるというのだ?』》


《『汝はどうしたい? このまま、目の前にいる此奴らに無様に斬られるのか?』》


《『それも本望なわけがあるまい!』》


《『左様か、ならば汝が今持つ想いを我が叶え、我が叶えし力の代償として、この地が紡いでいく明日を護り続ける永劫の覚悟を、今の汝は受け入れるか?』》


 ――えっ? 夢覚市を護り続ける永遠の覚悟が代償? 私は人の明日を護り続ける運命が代償だった。


《『ふん! そんな脅しは俺には通用せん! だがこんな野盗如きによって、夢宮の一族と夢覚の地を終焉に導くわけにいかぬ!』》


《『ならば、この状況を見ておる汝は、何を想うのだ?』》


《『ふん! 本望なわけがあるまい! 俺は…………夢宮陰楼である俺は! 夢覚の地の明日を護り続けてやる! だから貴様の明日を救う力を寄越せ!』》


《『ふっ! 良かろう、夢宮陰楼! 刻想契(ちぎり)の刻』》


「あわわわ! 白き光が眩しくて何も見えません!」



 ――これは夢鬼理と刻想の契りを交わした時と同じ。



「ふっ、これが新たなる夢宮一族の始まりの刻だ」



 ――陰楼さんの左手に握られている刀、あれが鬼理刻……あれ? 止まっていた時間が動きだしたわ。



《「終わりだぁぁぁ! ……なに!」》


《「これが……俺の明日を救う鬼理刻の力! 鬼理祓滅斬(フメツザン)!」



 ――陰楼さんの斬撃が通じた!



《「夢宮陰楼ぉぉぉ……そ……その力はなん…………だ」》


《「これか? 鬼理祓滅斬!」》



 ――白き想いの力で、祓い滅した……なんて力なの?



《「ぐはっ! その白き力……邪魔は許さぬ!」》


《「ぐっ! てめぇ! 俺の右の手になにをしやがった! 鬼理祓滅斬!」》



 ――夢魔の野盗は、陰楼さんの右手に何をしたの……まさか!



《「お前が得た……忌々しい力を握る逆の手に、大いなる邪想の力を植えつけてやったわ! 夢宮の一族が滅びを迎えるその刻まで精々、苦しむがいい…………」》



 ――殺意の邪想……明日を奪う力……。



《「うるせぇよ、鬼理祓滅斬!」》


《「だっ……か、かしらがぁぁ! ててて撤収やー!!」』



 ――野盗が逃げ始めたわ……、あれ?



「朝陽、あれがもう一つの始まりの刻だ、その眼で見ておくが良い!」


 ――陰楼さんが笑ってる……、なに? この寒気。



《「ヒャハハハ! 逃がさねえーよ! 邪想の力の糧となれやー! ヒャハハハァァァァァァ!》



 ――えっ? 陰楼さんが消えた?



「今の俺から見れば、消えた俺は大腑抜けだな」



 ◇数刻分後◇



 ――陰楼さんが帰ってきたわ……、右手が血に染まってる……。



「ふっ、あの後の俺は野盗が握っていた刀を右手に握り、殺意の邪想から得た知識を元に、野盗の根城へ行き、逃げた夢魔の野盗と命乞いする根城にいた者も邪想の力に身を委ね、一人残らず右手で滅した」


「えっ、それはどういう……」


「鬼理刻と契りを交わした直の事、強大な邪想の力に鬼理刻の力が呑まれた因果だよ……、そろそろ戻るぞ、鬼理刻!」



 ――また意識が遠の……。



《「もしもーし、朝陽ー! もしもーし!」》



 ――や、弥乃葉?




【夢宮陰楼の家 13.7回目の真深夜刻】



「もしもーし! 朝陽、シャリアさん!」



 ――あれ? さっき食べた弥乃葉が作ったチャーハンの匂いがする。



「どうだ、朝陽。これでもまだ夢宮朝陽として、掟破りのタケミツを斬ることに執着するのか?」



 ――夢宮朝陽として、タケミツを斬ることに執着していた?



「明日を救う鬼理刻の力、明日を奪う夢魔がもたらす邪想の力、どちらも強大な力故、己の感情に任せ斬ることを優先してはならぬ、それが……」


「それが夢斬士としての夢宮一族の始まり、私が生まれた家の理、夢宮の掟『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ』の始まり……」


「そうだ、明日を救う力である鬼理刻の力、夢魔の妖が俺に植え付けた明日を奪う力である殺意の邪想、どちらも強大な力なのだ。だから強大な力を持つ者は、力に溺れてならぬ」



 ――それが、『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ』という夢宮の掟がある理由。



「俺は今、夢宮の名を持ち、明日を救う力を持つ夢宮朝陽の顔を今見ている」


「はい、私も陰楼さんと同じです」


「ふっ、それ即ち夢宮の者達とあいつらが、俺の意志たる掟を礎として後世へ遺し、遥か数百年先の夢宮一族まで受け継がれた因果なのだろうな」



 ――ん? あいつ? それって、さっき言ってた俺の愛する者の人のこと? 確かにあの人は夢覚市と夢宮一族の歴史に名前がある人物だけど……ま、まさかね。



「これが夢斬の武士、夢宮家の始まり……『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ』の掟の始まり……、力を使い過ぎて腹が減ってきたな。夢月、炒めた飯はまだなのか?」


「えーと『正義の異世界夢斬料理人たる夢月弥乃葉シェフの絶品エクスアリア炒飯が、もう少しで完成しますー!』なのでー、少々お待ちを!」


「ああ、よろしく頼むな」



 ――まったく! 「ああ、よろしく頼むな」じゃないのよ! 



 第20話 

 エクスアリア炒飯と夢宮一族:3 完。


 第21話へつづく!

*2026年6月28日(日) 内容の再構成改訂を行いました。

*2026年 9月16日(水) 一部内容を改訂しました。

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