第19話
第19話 エクスアリア炒飯と夢宮一族:2
【夢宮陰楼の家 13.6回目の夜刻】
「こら夢月! 勝手に火を使いやがって!」
「だって朝陽がど――」
「この家の主人は俺だ。お前が飯を作るのであれば、あの場で火を使う許しを得るはず、そうだろ?」
「……ごめんなさい……なーんて、『正義の異世界夢斬料理人のわたしが言うわけないじゃん!』だから、今から陰楼様の分も作ってあげるよ!」
「おい! 人の話を聞い……、ふっ、俺が美味そうな飯の匂いに負ける、か……まあよい」
――奥の部屋へ行ってしまったわ……、ん? テーブルの上に見慣れない袋があるけど、何が入っているんだろう?
《「ふっふーん! じゃっ! また下ごしらえから!」》
《トントン! トントン! トントン! トントン! トントン!》
――はっ? さっきより切る音が長い気が……。
「ふっ、やはりこの衣は心休まるな」
――白羽織を着た陰楼さん、やっぱり日本人の青年って感じよね……。
「ふぅ、この腰掛けと卓が夢覚の地にあれば……、ん? 朝陽、この布袋の中身を見なかったのか?」
《「さあ! まだまだ切るよー! ユラ――!」》
「えっ? 私達の物だったのですか?」
「うむ、この布袋はお前達が受けし冒険者リクル一行の特夢位依頼を無事に成し遂げた事への対価である」
「あ、ありがとうございます」
――あれっ? この袋、少し重くない?
「ふっ、依頼主のミリュテとやらは、『これでも報酬が少ない』、とエリディアへ言い残し、自身の根城へ帰って行ったそうだ」
――報酬が少ない? ……これ、金貨ばっかり入っているけど……。
「でも、陰楼さ――」
「この金は、お前とシャリアが救ったあの者達の明日への対価だ、受け取るがよい」
「朝陽様、シャリア達がエクスアリアのユメギリ士として、リクルさん達の明日を救ったのですから、戴きましょう」
「シャリアさん……分かったわ、ありがとうございます」
「うむ。だが彼奴等夢魔、夢喰から明日を救い護る夢斬の武士である俺達に、明日を救う報酬の量は関係はあらず、だろ?」
「はい、それが『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ』ですね」
「そうだ。その言葉を忘れぬ限り、お前達は明日を救う夢斬士……勿論、炊事場で飯を作る夢月もな」
――確かに夢宮の名前を持っていない弥乃葉も……えっ? ていうか、どうやって陰楼さんは、弥乃葉をエクスアリアへ転移させたの?
「ふっ、この地へ夢月が渡ることができたからくり、これを知りたいのだろう?」
「ええ。向こうの世界からエクスアリアへ渡る門は、使えないはずですから」
「なるほどな、それについてだが……」
《「はいはい、陰楼様! 下ごしらえも終わったから、その話はわたしからするよ」》
「お前から話すのか? いいだろう」
――本当にどうやって来たんだろう……、ん? 普通に陰楼さんの隣に座ってるし。
「ふぅー! 良い汗かいたー!」
「お疲れ、弥乃葉。早速なんだけど……、アンタはどうやってエクスアリアへ来れたの?」
「はぁ、いきなりその話から始めるの?」
――ん? いつもの弥乃葉じゃない……、でも!
「そうよ。いくら陰楼さんがエクスアリアに来る手筈を整えたからって……そんな事、普通にあり得ない話だから」
「ふーん、なるほどね……でも、その話をする前にハッキリさせたいことがある!」
「ハッキリさせたいこと?」
「そう! 朝陽がこの世界に来たのは8月8日の夜で間違いない?」
「うん、間違いないよ」
――だってユメキリヘッドギアの日付も、あの8月8日の夜を境に止まっているもの……。
「分かった、じゃあ次、朝陽は向こうの世界が今、何月何日なのか知ってる?」
――夢覚市が何月何日か? 今朝、ユメキリが言っていた私が目覚めた回数は確か……。
「この世界に来てから、朝起きたのが、今日で13回目。だから向こうの世界は今、お盆明けぐらいじゃないかな」
「はぁ……やっぱりかー」
「えっ? どういうこと?」
「わたしがエクスアリアへ渡った時、向こうの世界は8月30日だったよ」
「8月30日? 十日以上もズレてるの?!」
――まさかそんなにズレているなんて……。
「まあ、朝陽がそういう反応になるのも分かるよ……、でも、これを観てもまだ同じことが言えるのかな」
「え? どういうこと?」
「夢羅鬼理、ユメキリさんへあの日に何が起きたのか、情報共有をお願い」
『主人弥乃葉、承知ナリ』
――ユラキリ? 初めて聞く、武装の名前……。
『夢羅鬼理とやらよ、これは真なる情報か?』
『御意、真なる情報ナリ』
『左様か。朝陽よ、我を卓に置くがよい』
「分かった、はい」
――これから何が始まるの……。
『では、夢羅鬼理とやらから共有された情報内に有った、コンツェルンが記録していた映像を再生する』
――はっ? コンツェルンが記録していた映像? ん……こ、これは!
《『やっと繋がった……って、朝陽ダメよ! その夢喰は危険すぎる! 逃げなさい朝陽!』》
――心裡の声? でも何かがおかしい……。
《『くっ! この子、強いわね! でもこの動きなら勝てる!』》
――ヴェルハラの森……、私と戦っているのはシャリアさんだ。
《『あなたの首を殺めてあげるわ! ヴェルハラの森に侵入者したお前の首を殺めてあげる!』》
――あれ? この時のシャリアさんって、こんな禍々しい眼が付いた盾なんか持っていなかったはず……。
《『それでも私はぁー! 必ずあなたを救っ――』》
《『隙あり!』》
――えっ? 私が……シャリアさんに貫かれた。
《『この世界の侵入者をまず一人、エグセクショナーしたわ! ははははははぁー……、それにしてもこの黒き力、さ……最ッ高な気分だわーー!』》
《『朝陽? 朝陽? 応答して、朝陽!』》
『朝陽、シャリアよ、どうやら映像はここまでの様だ』
――なんで私がシャリアさんに殺められている事になっているのよ……、シャリアさんが隣にいるのに!
「あわわわ、私が朝陽……様を…………あり得ないです! この映像は幻です!」
「そうよ! ちょっと弥乃葉、イタズ――」
「ううん。これは紛れもなく、コンツェルンの朝陽とわたしのチームルームにいた心裡さんが記録した映像だよ、だってあさ――って、イッタァ! 何すんの!」
「お前が言葉を添えず、朝陽とシャリアに恐れを植え付けたからだ」
「だからー、今からそれの話を――」
「お前に事を任せようとした俺が、誠に愚かであった……、朝陽、シャリア、大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫です」
「はい! シャリアも大丈夫です!」
「うむ。この偽りを生み出した者、それは夢魔の妖に通ずる者の仕業、とみている」
――夢魔の妖と通ずる者の仕業? 夢魔って何?
「陰楼さん……その夢魔の妖とはいったい?」
「夢魔の妖とは……、人の深淵の門から忍び、人の明日を奪い続け、夢喰へと姿を変化させる前の妖の事、である……」
「夢喰に進化する前の姿が夢魔の妖……」
「そうだ。明日を奪う力の源流たる殺意の邪想も夢魔の妖から生まれ出し力だ」
「あわわ! シャリアがアイリア様やヴェルレストの者達、朝陽様へ刃を向けたあの禍々しい力……」
「シャリアよ。朝陽がお前の明日を救われなければ、殺意の邪想に呑まれ、力に溺れ、ヴェルレストの者達の明日を奪っていたかもしれん」
「あわわわ! 朝陽様がいなければシャリアは……」
「ちょっと、陰楼さん!」
「……すまぬかったな、シャリアよ」
「陰楼様、お気になさらず! 朝陽様のお側にシャリアがいる! それが全てなのです!」
――シャリアさん、本当にありがとう。
『陰楼よ、我達がこの世界から容易く帰還できぬのも、夢魔の妖がもたらした細工か?』
「そうだ、流石はユメキリだな」
――この世界から帰る事ができないのが夢魔の妖が細工したから? どういうこと?
「恐らく……、この地と朝陽と夢月が生きる刻にある夢覚の地から夢斬士を渡れなくする……、これが夢魔の妖の目論見とみえる」
『左様か、やはりな……』
「一体どういうことなの?」
『朝陽よ。我達がエクスアリアへ渡る事も彼奴の誘導だった、という事だ』
「そうだ。この地で生を受けていない俺と朝陽と夢月は、本来、この地にいてはいけない理なのだ」
――確かに私達はこの世界で生まれた人間じゃない……。
「確かに私達は別の世界からこの世界へ来た。でもそれは、この世界に入り込んでしまった明日を奪う力から、明日を救う力で、救い護るため……」
「朝陽、それは明日を救う力を持つ俺達の理だ」
「そうです! それが『明日を救う力を持つ者、力に溺れることなかれ』という夢宮の掟ですから!』
「うむ。だが、自らの意志で明日を諦め、明日を奪う力に自らの明日を差し出した夢宮の名を持つ腑抜けが、この地にいるだろう?」
――そうだ! 向こうの世界にある夢鬼理ネットワークシステムを悪用して、この世界に来た腑抜けが一人いる!
「この地に棲みし彼奴等がなぜ、お前と夢月が生きる刻の夢覚の地の言葉と知識を語るのか……、既に答は出ているはずだ」
「はい、夢宮タケミツ……ですね」
――夢鬼理ネットワークシステムの脆弱性を突いて、勝手にこの世界に侵入した挙げ句、明日を諦め捨てた腑抜け!
「ふぅ……夢月、炊事場へ戻っていいぞ」
「えっ? ……分かりましたー、陰楼様」
――夢宮タケミツ、絶対に許さないんだから!
第19話
エクスアリア炒飯と夢宮一族:2 完。
第20話へつづく!
*2026年6月28日(日) 内容の再構成改訂を行いました。
*2026年9月16日(水) 一部内容を改訂しました。




