最終章 9.
9.
『ゲッ、プリーズリボルバー! どなたか弾の入ったリボルバーを貸してくれる奴はいませんか?』
「よっしゃ行くぞー!」 「なんで!?」
『長谷川』の唐突な言葉に『川上』が反応する。
そして、スマホ画面の向こうの配信画面の中で宝石箱のボタンが押され、再び1秒が10秒に引き延ばされた空間へと変貌する。
その変貌した空間の中で動けるのはボタンを押した1人のみ。ボタンを押した瞬間を見た人々は思考が拡大されたような状態で体は動かせず、10秒が過ぎるのを待つしかない。
そして10秒が終わったとき、『長谷川』のスマホ画面に映る配信のチャットがすごい勢いで動き、『川上』の持つスマホ画面のSNSもまた動きまくる。
【むーたん@周回中】
何が起きてるの!? さっきから変なんだけど!?
#代々木 #今の何
【まな板エックス!!】
さっきから何なんだよ!! つまり、この配信、ガチでリアルタイムで、AI捏造一切なしって事か!?
#北九州 #今の何
【小倉式カツサンド】
時間構造結晶体やんけ
ごっつお金かかっとる
大陸さんも本気やね
#代々木ダンジョン村 #今の何
「とにかく状況は加速度的に悪くなっている!」 「なんでですか!?」
「あの4人組は一見優位に戦っているように見える。けどよ、時間を引き延ばした空間でビーム兵器を使うって技が使われてない!」
『長谷川』の声に『川上』は一瞬呆けた。
そう言えば時間がおかしくなった瞬間にあのビーム攻撃を食らって大丈夫なのだろうか? 直撃は避けられたとしてもその余波の熱波や溶けた大地は?
いや、そもそも例の結晶体を壊すボタンを2回押したらどうなる? もしや2秒が20秒になるのか? 3回押したら? 3秒が30秒になるのか?
「あの4人組は、事前の攻撃で10秒をやり過ごしているだけで、何度も通用する訳じゃない。わざわざリボルバー拳銃をご所望しているのもそれが理由だろう!
せっかく手に入れたリボルバーが2丁もあるんだ! 持っていくぞ!」
盾の女が振り回していた45口径のリボルバー拳銃が2丁。『長谷川』は遠慮なくそれを拾っていた。
「ムーンクリップで直接装填か……新しいクリップは持ってないし、2丁とも弾を込め直して渡せばいいだろう。ちょうど俺の拳銃と同じ弾を使ってて助かった」
45ACP弾を使用する『アメリカ製:DB式45口径拳銃』を持っている『長谷川』にとって、自分の所持する弾薬を装填するだけでよかったのは助かった。
38スペシャルだの有名な44マグナムだのだったら補充出来ない。
ただし、ムーンクリップと呼ばれているクリップで止められた弾丸をクリップごと弾倉に入れるタイプだったようで、替えのクリップが無い。
「まっ、そこはあの4人組が何とかするだろう。幸い45口径の拳銃を使用している男の子もいるみたいだし」
『長谷川』が『川上』を連れて走る中で、大陸の傭兵を狙撃している連中がいる。
『寮長』率いる『女子寮』3人衆だ。『寮長』と幹部の『かに』、『ゆめ』の2人。
「そうやって戦いながらモンスターたちはこっちに押し付けて、どさくさに紛れて逃げるつもりでしょう」
「あら、そう見える? あなたたちの監視がついているのに?」
『村井』と『加西』は消耗している。装甲化トロールとの激闘は明らかに警察組を消耗させている。
「やっぱり、無理をしてでもあんたらの拘束は維持しておくべきだった……!」 「私たちだって、別に警察が嫌いなわけじゃないのよ? 大丈夫、2~3日後には出頭してあげるから」
「そのうちって言ってる時点で、証拠隠滅口裏合わせをこれからしますって言ってるような事じゃない」
発砲。銃弾が『寮長』を狙う。当たらない。『加西』は一瞬表情を変える。驚いたのだ。『村井』の表情は変わらない。拳銃の引き金を引きながら日本刀片手に『寮長』へ走る。
「いむすと――――」 「――そいつは聞き飽きた!!」
日本刀と撃ち合うのは1本の棍棒だった。形状記憶流体合金と木材の組み合わせで作られた『現代化刀剣類』の一種としての棍棒。
「だったら、これはどう!? 『王よ、消せない火よ! 勝利を願い鮮血に染まる女神の化身はここにいるぞ』」
取り出したのは王冠を思わせる無数の宝石が装飾された鉄の輪。ガーネット、ルビー、スピネル、ブラックダイヤモンド。
イミテーションかそれとも本物か。無数の宝石が装飾された鉄の輪を頭にかぶり再び謎の呪文を続ける。
「王よ、消せない火よ!!」 「お得意のオカルトなんぞ使わせん!!」
引き金を引く。9ミリ拳銃弾が『寮長』に向かって飛ぶがやはり効果が見えない。当たっていないとしか考えられない。
(銃弾の無駄だ! 節約しないと!) 「勝利を願い鮮血に染まる女神の化身はここにいるぞ!」
形状記憶流体合金と木材の組み合わせで作られた棍棒は『寮長』の唱える言葉に反応するかのようにその形状を変化させる。
棍棒というわかりやすい鈍器からいきなり飛び出すのは無数の杭を思わせる刺突部位。
「なっ――」 「――ッチ、外れた」
さらにその形状が変化していく。次はマクアウィトルと呼ばれる形状の剣によく似た形態へ。
「形状記憶流体合金って奴は色々と便利でね。こう見えて色々な形になるんだ。今時の棍棒ってすごいだろ」
「その姿かたち、南米……アステカの木刀か。黒曜石のナイフを無数に取り付けた木刀で下手な包丁よりよく切れる。尤もその姿かたちをまねただけで黒曜石の刃なんて無いから見掛け倒しだ」
「だったら、さっさと切ってみなさいよ!!」
マクアウィトルを振り回した『寮長』の動きはデタラメだ。剣術を収めた人間には素人の動きに見えるだろう。ただし、それを振り回す腕力は本物で振り回し速度も本物だ。
流派にもよるが日本剣術の特徴は鍔迫り合いを仕方なくするものと考えている。逆に言えばこんなデタラメな腕力の棍棒を撃ち合う事なんて想定していないしするつもりもない。
大ぶりな動き、一瞬の隙。『村井』にはそれだけでよかった。突き。日本刀の刃先が『寮長』の棍棒を握る右腕に突き立て、そのまま右腕を刃先が貫通する。
「バカが! 腕の1本くらいやる!」 「ぐッ――――」
――『村井』の刃先が『寮長』の首筋に突き刺さる前に棍棒が『村井』の顔面をとらえた。
人類が原始の頃から作ってきた唯一の武器が棍棒だ。尤も簡単につくれる武器の中では最強だ。そうでなければ現代でも使われない。
アバターとはいえ、頭蓋骨は粉砕され、HPが一瞬で危険域に入った警報が脳内を響き渡る。
「先輩!」 「あなたの相手は私たち!」
『加西』が助けに入ろうとするが、『かに』のナックルグローブが『加西』の刺又をつかむ。放電を最大出力にして引きはがそうと試みるが、ナックルグローブの絶縁体は赤色するだけだ。
時間をかければ焼け爛れるだろうがまだ先だ。
「先輩ッ!!」 「もう一発!」
右腕は捨てた。『寮長』は左腕に棍棒を持ち替えてそのまま日本刀の刺さった右腕を引っ張って『村井』の動きを制限し棍棒を振り下ろす。
頭蓋骨が砕ける。警報音が脳内に鳴り響く。『村井』はアバターでなければ確実に死んだであろうダメージ。
APがダメージの半分を引き受けていなければHPも全部ゼロになっていてもおかしくはない。
Tips:『村井恵麻』……通称『村井』。県警捜査一課の女性刑事、巡査部長。
強さ指数では機動反撃型35スコア。つまり指数を絶対視する場合、砲撃防御型35以上の相手には絶対勝てない。
主な武器は『ドイツ製:P.F.式9ミリ拳銃』『スタンバトン』『日本刀』『スタングレネード』『アメリカ製:日本警察用リボルバー』『分銅鎖』。
使用するスキル、アーツは以下の通り。
『スキル:一刀両断』、『アーツ:剛柔流空手道動作3種アシスト』。
残機数は基本の12体。ただし『妨害装置』が稼働しており、リスポーンしたら奴隷や臓器目当てに国外の犯罪組織に売り飛ばされてるリスクあり。
「『寮長』っ!!」 「『村井先輩』!!」
『かに』と『加西』の叫びが重なる。
日本の警察は、逮捕術と呼ばれる独自に発展させてきた武術ともう一つ、剣道か柔道のどちらかを身に着けることを警察官に要求している。
『村井』が選んだのは剣道。ちなみに剣道は間合いの武術であり、柔道に比べて決着に時間がかかる傾向があるなんて言われている。
そして、今更柔道も学ぶような暇もやる気もわかなかったので、少しズルをした。
(前が、、、よく……み、えない)
意識はボケている。
心技体。心が技を体に放たせる。
体が動いた。アーツ通りに。意識がボロボロなのが良かったのかもしれない。雑念が一切ない。
ボロボロの意識が命じた通り、アーツが機能して、体が動いて――
――正拳あご打ち。
「ぶッ?」
『寮長』の棍棒を握る手が開く。反射的なものだ。
――手刀脾臓打ち。
骨盤より上、元々は内臓を狙って振り下ろされる手刀。
反射、息を吐く。体内の酸素量が減る。HPへの微弱な変化。
『寮長』は、別にプロの戦闘員ではない。だから、一瞬でもパニックになれば、行動は鈍る。
ただ、何も考えず腕を振り回す。
「『寮長』!!」
『ゆめ』が、状況の異変と不利を悟って直接救助に入る。しかし、その足元で弾ける拳銃弾。
「よくわかんないけど、県警の『村井』さんが苦戦してんだ。お前らが悪い奴らだろ」
銃口が2つ並んだ45口径の拳銃。『長谷川』のダブルバレル拳銃。
リボルバーを届けるために戦場のど真ん中へ飛び込んだ結果の遭遇戦。
「お前ら、邪魔なんだよぉぉおおおお!! コスト30、IRレー――」
「――先輩に近づくなぁァ!」 「お前の相手はこのあたしだって、言ってるだろ! なぁ!?」
涙声で『加西』を押し込もうとする『かに』だが、『加西』の方が一枚上手だった。ネットランチャーという奴だ。
犯人を逮捕するために網を発射する捕縛武器。アバターの腕力次第では数秒しか持たないだろう。でもそれでよかった。
ネットランチャーの発射機片手から放り投げて刺又を振り回して『ゆめ』の武器だった杖をはじいた。
そして『寮長』が『村井』を蹴り飛ばして、無理やり距離を作った。右腕はちぎれ、いかに彼女と言えど虫の息。
それでも焦点の合わない瞳で、自発呼吸さえ薄い『村井』よりはまだよさそうだ。
「先輩、今助けます!」 「させる――――」
「――よくわかんないけど、こっちが相手だよお嬢さん」
レイピアが『かに』を刺した。『加西』は『村井』にポーションの注射器を突き刺す。
「あ、あの……だ、大丈夫ですか?」
『川上』が2人に声をかけ、どういう状況なのか聞く。
「ご……ぼっ、ゴいつらは『女子寮』。ここを根城にしている反社だと言えばだいたい何かわかるはず。拘束してたけど、今こんな状況、、解放してこき使っていたら、最後は手のひらを返されたのよ゛」
「あーそんなことが起きた訳ね!」
『長谷川』がダブルバレル拳銃の引き金を引いて近寄っていたモンスターを打ち抜く。それはネズミに見えた。ネズミほどの大きさで。でも銃弾に打ち抜かれたとたん風船を思わせるように膨らむ。
そして追加の銃弾が風船を打ち抜いた。途端にヘドロのような真っ黒のねばねばした液体が周囲に飛び散り、勝手に燃え出す。
Tips:『寮長』……代々木ダンジョン村に存在する女子寮と呼ばれる組織の指導者を務めている。
元々はDV被害者女性を守るために作られたDVシェルターであった。今は寮長の指導の下で、一種の反社会的組織の性質を持っているといわれている。
使用する武器は以下の通り。
『イタリア製:9ミリ2丁拳銃』、『棍棒』、『ロシア製:P.A.式グレネードランチャー』
使用するスキル、アーツは以下の通り。
『スキル:脱皮転生』、『アーツ:射撃管制アシスト』
魔術師としての顔が強く、直接的な戦闘力よりミスディレクションを活用した思考誘導戦術がメイン。
砲撃防御型40スコア。つまり、近接攻撃型の41以上のスコアの持ち主には、1対1の試合では理論上勝てないと指標では判断される。
「ちょ、とまって、ください……」
『川上』は声を震わせながら、『女子寮』の3人組に声をかける。
「ここには労働者を搾取するとんでもないブラック企業がいました。……その……その人たちが助けて! って声を上げて逃げてきたとか……無かったんですか?」
「ぁ? あークズ男が無能男を酷使してる例のとこ? たまに逃げた奴を捕まえるといいバイトになるんだ。で、それがどうした? クズ男が無能男を蹴り飛ばしてるだけだろ。
私たちからしたらどっちもクソだから、金になることをするよ」
それが、一つの答えだった。




