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婚約者を譲れと言われましたので、遠慮なく差し上げました  作者: 住処


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第3話 返してほしいと言われても困ります

 コレットから届く手紙は、冬に入る頃から短くなっていた。


 最初に書かれなくなったのは花の話だった。同じ花束が、以前リュシアン様と踊った令嬢にも届けられていたと知ったらしい。


 次に詩の話が消えた。


 リュシアン様は婚約祝いの晩餐で、コレットが彼へ送った手紙を詩にして読んだ。彼女が幼い頃から私と比べられ、いつか私より先に選ばれたかったと打ち明けた手紙である。


 招待客は勝ち誇っていたコレットが長年従姉妹を妬んでいたと知った。彼女が席を立つと、リュシアン様は恥ずかしがる姿まで愛らしいと笑ったそうだ。


 二人は三日間口を利かなかった。


 四日目、リュシアン様は若い未亡人を訪ね、コレットが迎えに来るまで帰らないと友人へ告げた。迎えに行けば負ける。放っておけば未亡人との噂が立つ。


 かつて私へ向けられていた試しを、今度はコレットが受けていた。


 彼女は馬車を飛ばして迎えに行き、玄関先で未亡人と言い争った。その姿を見物していたリュシアン様は、翌週の集まりで恋に狂った二人の女という新しい詩を披露した。


 話があると手紙をよこした翌朝、コレットは我が家へ来た。帽子も取らず客間へ入り、泣き腫らした目で私を睨む。


「お姉様。あの方、いつからあんな人だったの?」


「いつからって、七年前にはもうリュシアン様でしたわ」


「ふざけないで。聞きたいことくらい分かるでしょう」


 コレットは乱暴に帽子を卓へ置いた。


「私、お姉様を少し嫉妬させるだけだと聞いていたの。あの方が本当に私を選んでくださると思ったから……」


「それで、本気で欲しいと皆様の前でおっしゃったのね」


「あの時はリュシアン様が私を見てくださったのが嬉しかったのよ」


 コレットは手袋を丸めた。指へ食い込むほど握りしめても、私から言葉が返ってこないと分かると、今度は声を落とした。


「お姉様から伯母様たちに話してくださらない? あの夜は冗談だったって。そうしたら婚約をやめられるかもしれないわ」


「わたくしが?」


「だって、もとはお姉様の婚約でしょう。あの人がどういう人か、知っていたくせに」


「だから、お譲りする前に本当に望むのかと尋ねました」


「あんな方だとは思わなかったの!」


「わたくしは冷たい女だと、最初から決めつけていたでしょう」


「私だけが悪いと言うの?」


「その文句はリュシアン様へおっしゃって。わたくしはもう、あの方の後始末をするつもりはありません」


 コレットは唇を噛んだ。


「……助けてくれないのね」


「ええ」


「子どもの頃は何でもくれたでしょう」


「ですから、今回も差し上げました」


 コレットは帽子を掴み、椅子を鳴らして立ち上がった。扉を閉める直前、振り返りもせずに言う。


「なら、自分で終わらせるわ」


 翌日、彼女はリュシアン様が過去に送った詩や手紙を集め始めた。


 自分へ贈られた詩と同じ一節を受け取った女性を探し、昔の恋文を見せてほしいと頼んで回った。断られると、リュシアン様に騙された者同士でしょうと食い下がったらしい。


 人の秘密を晒す男性に腹を立て、自分も同じ方法を選んだ。


 お似合いとは、このような時に使う言葉なのだろう。


     ◇


 冬の終わり、王都で最も大きな朗読会が開かれた。


 主催はリュシアン様の詩集を援助していた老公爵夫人である。広間には百人近い客が集まり、壁際には春に刊行される詩集の見本が積まれていた。


 伯母と私も招かれていた。アルベール様は私たちより少し遅れて到着し、挨拶をしたあと空いていた隣の椅子へ目をやった。


「こちらへ座っても?」


「どうぞ。今夜は一人で聞くより心強そうです」


 アルベール様は礼をして腰を下ろした。何が起こるか知っている様子はない。ただ、客席の反対側にいるコレットを一度見て、眉を寄せた。


 コレットの膝には、厚く膨らんだ革の書類入れが載っていた。


 壇上へ現れたリュシアン様は以前より頬が痩せていた。彼もコレットの手元に気づいたらしい。最初の詩で一度言葉を詰まらせ、そのあとは客席を見ずに紙だけを追った。


 朗読が半ばまで進んだところで、彼は予定にない一枚を取り出した。


「最後に……失って初めて知った愛について、新しい詩を」


 最初の一節で私は手元の扇を閉じた。


 五年前、母の病状が悪化した夜に私が彼へ送った手紙だった。母を失う恐ろしさも、そばにいてほしいと願った言葉も、恋人を失って後悔する女の詩へ書き換えられている。


 胸の奥が冷えた。


 婚約を終えた日に手紙は返してほしいと伝えた。彼は返さず、今夜のために持っていたのだ。


 リュシアン様は最後の一節を読み終えると、紙を胸へ当てた。


「マルグリット」


 百人の視線が私へ集まった。


「君の言葉は、今も私の手元にある。私たちの愛を、あんな一晩で終わらせてよいはずがない。どうか戻ってきてほしい」


 以前の私なら、恥ずかしさに耐えて俯いた。


 私は席を立ち、壇上の彼を見た。


「その手紙は母が危篤だった夜に書いたものです。あなたへの恋を綴った手紙ではございません」


 客席からざわめきが起きた。


「マルグリット、ここで言い争う気はない。あとで二人で話そう」


「百人の前で手紙を読み、返事だけは二人きりでとおっしゃるの?」


「捨てられるわけがないだろう。あれは君が、私だけに寄越したものだ」


「だから百人の前で読んだのですか?」


 リュシアン様の口が閉じた。


 その時、客席の反対側で椅子が倒れた。


 コレットが立ち上がっていた。震える両手で書類入れを開き、何通もの手紙を掴み出す。


「皆様、騙されないで! その人の詩は――」


お読みいただきありがとうございます!

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次回も楽しんでいただけるよう頑張ります!

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