第4話 どうぞお二人で末永くお幸せに
「その人の詩は誰に贈っても同じです!」
コレットは一通目の手紙を広げた。
「私へくださった詩は、三年前にシャルロット様へ送ったものよ。月を銀の舟にたとえたところまで同じ。こちらはエミリー様。こっちはレナ様。皆、同じ言葉だわ!」
名を呼ばれた一人目が顔を伏せた。二人目は夫に支えられて席を立った。三人目は青ざめたまま、コレットへ手紙を返すよう手を伸ばしている。
「よせ、コレット。それをどこで手に入れた」
「あなたが私を笑いものにしたからでしょう! 私だけが馬鹿だったと思われるなんて、我慢できないわ」
「だから他人の手紙まで読むのか」
「あなたにだけは言われたくない!」
リュシアン様が壇上から降りると、コレットは手紙を胸へ抱え込んだ。二人の目には互いしか映っていない。
老公爵夫人が杖を床へ打ちつけた。
「もうおよしなさい」
「手紙を書いた方々は、あなた方の喧嘩の道具ではありません。コレット嬢、すべてお返しなさい」
「でも、私はこの人に騙されて……」
「お気の毒ね。けれど、今泣いている方々に同じことをなさったのは、あなたですよ」
侍女が手紙を受け取ると、老公爵夫人は詩集の見本をリュシアン様の前へ置いた。
「この本への援助は取りやめます。刷り始めた分の代金はご実家と相談してお支払いなさい。私の客間にも、もうお招きしません」
「お待ちください。今夜のことだけで、そこまで……」
「一晩で十分ですよ。あなたがどんな方か、よく分かりました」
リュシアン様が客席を見ると、数人の紳士が妻や娘を連れて出口へ向かった。
コレットはリュシアン様を振り返った。
「もうたくさん。婚約は解消よ。帰ったら父にも話すわ」
「今さら逃げる気か? 君が始めたんだろう」
「私のせいにしないで!」
「続きは外でなさい」
老公爵夫人が扉を示した。
「公爵夫人、私は騙されたんです」
「その言葉は名前を読まれた方々へおっしゃい。わたくしの客間には、もうお二人とも招きません」
リュシアン様は私へ近づこうとした。アルベール様が立ち上がったが、私が首を振ると、その場で足を止めてくれた。
「マルグリット、聞いてくれ。詩集を出せれば、まだやり直せる。君が誤解だったと一言言ってくれ。それで済む」
「わたくしに、母の危篤を書いた手紙が恋文だったと?」
「そこまで言わなくていい。少し言葉を借りただけだと……いや、君が詩にしてほしいと頼んだことにすればいい」
「よくありません」
「コレットとの婚約も終わらせる。今度こそ君を大切にする」
「困りますわ」
反対側からコレットも私を見た。
「お姉様、お願い。引き取ってよ。もともとはお姉様の婚約者だったでしょう?」
私は二人の顔を順に見た。
「わたくしが差し上げたのは、あなたを愛しているように見せる役目ではございません。コレット、あなたが腕を組んで連れてきた、そちらの方ご本人です」
「そんな……」
「一度差し上げたものを取り戻す趣味はありません。どうぞお二人で、末永く大切になさって」
今度は誰も笑わなかった。
笑えば自分の手紙も読まれるかもしれないと、皆が知ったからだ。
◇
その後、リュシアン様の詩集は刊行されなかった。
老公爵夫人が援助を退いた話はすぐ王都へ広がり、ほかの家も彼を朗読会へ招かなくなった。刷りかけの紙と職人への支払いを埋めるため、彼は馬車と蔵書の一部を売った。
コレットも春の社交から外された。彼女が読み上げた手紙の中には、すでに結婚した女性のものもあった。娘の秘密を預けられない相手として、叔父の家へ届いていた縁談はすべて引き上げられた。
二人の父親は婚約解消を認めなかった。
一度目の騒ぎで私との婚約を壊し、二度目の騒ぎで互いの信用まで壊した二人である。ここでまた婚約を解けば、次に縁を結んでくれる家はない。自分たちで望んだ婚約なのだから、最後まで責任を持てと言い渡された。
初夏、二人は領地の小さな聖堂で結婚した。王都から出席した友人はおらず、詩も読まれなかったという。
リュシアン様は今もコレットを嫉妬させるため、近隣の未亡人へ花を贈る。コレットは彼の机と上着を毎晩調べ、見つけた手紙を暖炉で燃やす。互いが何を話し、何を隠しているか確かめ続ける暮らしになった。
欲しがった方と、欲しがられたかった方である。
毎日、相手の愛情を試せるのだから、お二人には望みどおりの結婚だろう。
◇
春の舞踏会の日、アルベール様は約束どおり、私の返事を待っていた。
私は淡い銀色のドレスを着て、伯母の客間で彼と向き合った。窓の外では、若葉が風に揺れている。
「今夜、あなたと出席したいと思います」
そう告げると、アルベール様は静かに息をついた。いつもの落ち着いた顔が少しだけ緩む。
「それは、今夜だけのお返事ですか?」
「まずは今夜から。これから先のお話は、二人だけのところでいたしましょう」
「ええ。誰にも聞かせません」
彼は手を差し出し、私が重ねるまで待った。
舞踏会では大勢が私たちを見た。アルベール様は視線を集めても私の手を強く引かず、踊るか、少し休むか、一つずつ尋ねてくれた。
夏の終わり、私は彼からの求婚を受けた。
婚約発表の前日、彼は用意した文面を私へ見せ、直したい言葉があれば教えてほしいと言った。
「これで結構ですわ」
「本当に?」
「ええ。わたくしの返事も、皆様へお伝えください」
翌日、私たちの婚約は王都へ知らされた。
今度は先に二人で言葉を交わし、同じ返事を選んだあとで皆に知らせた。
アルベール様の隣では黙っていてもよい。笑いたい時には笑い、嫌なことには嫌だと言える。預けた言葉は、預けた場所に残る。
誰かと心を分け合うには、それで十分だった。
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