Scene.3 深夜に惑う
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
閉塞感に囚われた俺は、誰かに哀れな自分を見つけて欲しくて、けれど惨めな姿は見られたくなくて、相反する思いを抱えながらツバの広いキャップを目深に被り、今日も深夜の街を彷徨う。
日中、誰かが取りこぼした幸運が側溝に、あるいは塀の上に、もしくは路地裏の隅に落ちてはいないだろうか。
求めるのは、誰もが潜在的に待ち望んでいる、人生を昇華させるような奇跡。
救いの手を差し伸べてくれる救世主との出会い。
(とにかく何でもいい。クソみたいな現状を打破するきっかけにさえなってくれるなら……)
ありべからざる期待だということは重々承知だ。
けれど、しかし、もしかしたらと期待して歩調を緩やかに目を皿のようにして探索する。
『まるでゴミ箱から残飯を漁る、卑しい野良犬のようだ』
心の中で誰かが嘲る。
人にぶつかる心配がないのをいいことに、余所見をしながら無人の道路を渡る。
(……なんだろうな)
深夜の静寂が支配する街をゆっくり歩いていると、周囲一帯が世界から切り離され、まるで時が止まったかのような……あるいは、まるで地上から人類が滅んで、自分だけが取り残されたような錯覚に見舞われる。
自我が肥大化し、己が何か特別な存在になった気がして、試しに掌を虚空へ翳してみる……。
――――スキル発動。
……当然、何も起こりはしない。
「はっ」
モラトリアムに酩酊している自分を、独りでニヒルに嗤った。
人間は群れで行動する生物であり、孤立することは生存戦略から外れるので本能的に嫌うという。
だから、本来なら孤独は精神的に苦痛を伴うものだが、一概に悪いことばかりではない。
こんなふうに他人の目を気にせず、もっとも自分らしくいられる穏やかな時間を生む。
多くの人が活動を休止しているひとりぼっちの深夜は、不登校になり学生の義務を怠っている自分にとって、日中感じていた罪悪感が薄れ、どこか世界と同調しているような安らぎを感じられる。
最近の俺は学校に居づらさを感じて通っていない。
もしも事故に遭わなければ……そんなことばかりが頭の中を巡り、理想の亡霊がチラついて、何をするにも身が入らず自暴自棄になっていた。
提出物の無提出を繰り返し、遅刻の常習化に加えて授業中の居眠り、また無断欠席することが増えていく。
学内での素行は乱れ、不良とまではいかないまでも、問題児という認識が広まるのに時間はかからなかった。
そんな俺に対して教師たちは眉を顰めはするものの、夢破れた若者を憐れみ形ばかりの注意に留める。
他の生徒たちは、俺がほとんど責を受けないことについて、えこ贔屓されていると陰口を叩くものの一定の理解を示す。
しかし、当初こそ大半を占めていた同情的の声も時が経つにつれ次第に傾き、周囲の目は冷たくなっていった。
それというのも俺が独りで悩みを抱えたまま、立ち直るきっかけを掴めずに、いつまで経っても腐っているからだ。
俺は半ば天涯孤独の身だ。
子供の頃に母親を病で亡くし、父親はそのショックから蒸発。
後継人の叔父や近しい肉親である社会人の姉とは離れて暮らしている。
友人は多いが親友と呼べるほど親しい者はいなかった。
ややもすると人付き合いを煩わしいとさえ考えているので、深い関わりを避けていた節もある。
周囲から浮かない程度に広く浅い交友関係を維持していた。
その友人たちも入院を境に、疎遠になっている。
(当初は見舞いに来てくれていたらしいけど……まあ、そんなもんだよな)
唯一、浅からぬ関係である幼馴染の少女がいたが、最近はすれ違いの日々が続いている。
点滅する街灯の下、夜陰に溶けかけた影を見下ろしながら思うのは過去のこと。これまでのこと。
あのときは、ああすればよかった。
ここでは、こうするべきだった。
すべては結果論に過ぎず、益体もない妄想。
最近、暇を持て余しているせいで、よく昔のことを思い出す。
下を向いて過去に囚われてしまうのは、やはり見通しの悪い未来に失望しているから。
直面している現実を受け止めきれず、心が弱っている証拠だ。
1年前の自信に満ち溢れていた頃は、自分がこんなにも卑しく落ちぶれるなど露にも思わなかった。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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