第十七話 「ミリアを呼べ」
妨害イベント発生。
対象:
クラウス
発言成功率:
48%
介入推奨。
⸻
「……また面倒なのが来た」
レインは思わず呟いた。
会議室の扉の向こう。
聞き覚えのある声。
クラウスだ。
さっきまでハズレ森の調査失敗でギルドマスターに叱られていたはずなのに、もうこちらに絡んできたらしい。
本当に切り替えが早い。
悪い意味で。
グラントが眉をひそめる。
「誰が通した」
エマが慌てた顔になる。
「た、多分、会議室の近くまで勝手に……」
「入れるなと言ったはずだ」
グラントの声が低くなる。
その瞬間、扉が乱暴に開いた。
「おい、どういうことだ!」
クラウスが入ってくる。
泥のついた鎧のまま。
怒りで顔が赤い。
後ろにはリリカとガルド。
そして、少し遅れてミリアが立っていた。
ミリアだけが困ったような顔をしている。
「クラウス、勝手に入ったらまずいよ……」
「うるさい」
クラウスはミリアの言葉を切り捨て、会議室を見回した。
そして、机の上の白聖剣を見つける。
「……なんだ、それ」
白聖剣レイヴァルト。
呪詛汚染された聖剣。
今は月光花の花弁によって応急封印されているが、刀身にはまだ黒い筋が走っている。
それを見た瞬間、ミリアの顔色が変わった。
「……すごい呪い」
僧侶として感じ取ったのだろう。
ミリアの頭上にログが浮かぶ。
⸻
ミリア
聖属性適性:A
状態:
疲労
精神動揺
レインへの評価:
後悔/困惑/協力意思あり
⸻
協力意思あり。
それを見て、レインは少しだけ安心した。
問題はクラウスだ。
彼の頭上には、分かりやすいほど面倒なログが出ている。
⸻
クラウス
状態:
怒り
嫉妬
焦燥
行動傾向:
妨害
発言成功率:48%
⸻
「ミリアだけ呼ぶって、どういうことだよ」
クラウスはレインを睨んだ。
「お前、俺たちの僧侶を勝手に使う気か?」
「まだ呼んでない」
レインは冷静に答えた。
「これから相談しようとしてただけだ」
「同じことだろ」
クラウスは鼻で笑う。
「追放された雑用係が、今度は貴族様の前で俺たちの力を借りるのか?」
その言葉に、アリシアの目がわずかに細くなった。
彼女は静かに口を開く。
「失礼ですが、あなたは?」
「《黎明の剣》のリーダー、クラウスだ」
クラウスは胸を張った。
「B級パーティを率いている」
「そうですか」
アリシアは一拍置いて続けた。
「では、今回の件については、あなたではなくミリアさんに用があります」
「は?」
「必要なのは聖属性魔力です。あなたの許可ではありません」
会議室の空気が固まった。
エマが小さく「わぁ」と漏らす。
グラントは黙っているが、口元が少しだけ動いた。
クラウスの顔が赤くなる。
「ミリアは俺のパーティメンバーだ」
「人ではなく所有物のように言うのですね」
アリシアの声は穏やかだった。
だが、その穏やかさが逆に鋭い。
「貴族様だからって、冒険者の事情に口を出すな」
「私は依頼人として、協力者を求めているだけです」
「だったらパーティごと依頼しろ。ミリアだけなんて認めない」
クラウスの発言に、ログが反応する。
⸻
クラウス
発言成功率:
48% → 52%
理由:
B級パーティリーダーとしての発言権
⸻
少し上がった。
このまま黙っていると、ミリアが断りづらくなる。
レインはミリアを見る。
彼女は迷っていた。
協力したい。
でもクラウスに逆らいづらい。
そんな顔だった。
レインは小さく息を吐く。
介入推奨。
ログはそう言っている。
なら、動くしかない。
「クラウス」
「あ?」
「今回の依頼は戦闘依頼じゃない。呪剣の応急処置と浄化補助だ。パーティ単位である必要はない」
「お前が決めることじゃない」
「ギルドマスターと依頼人が決めることだろ」
レインがそう言うと、グラントが低い声で頷いた。
「その通りだ」
クラウスが一瞬詰まる。
ログが変化する。
⸻
クラウス
発言成功率:
52% → 39%
⸻
よし。
下がった。
クラウスは苛立ったように机を叩いた。
「なら俺たちも同席する。危険な呪剣なら護衛が必要だろ」
その言葉に、レインの視界へ新たなログが浮かぶ。
⸻
提案評価:
クラウス同席
成功率:低下
理由:
呪詛が敵意に反応する可能性あり
推奨:
同席拒否
⸻
最悪だ。
呪いが敵意に反応するなら、クラウスは一番入れてはいけない。
レインは白聖剣を見る。
刀身の黒い筋が、クラウスの声に反応するように微かに揺れていた。
「クラウスは同席しない方がいい」
「なんでだよ」
「呪いが敵意に反応してる」
レインがそう言うと、全員が剣を見る。
黒い靄が、わずかに濃くなっていた。
ミリアが息を呑む。
「本当だ……」
アリシアも表情を険しくする。
「レインさんの言う通りです。先ほどより呪詛が強まっています」
クラウスは不快そうに顔を歪めた。
「俺のせいだって言いたいのか?」
「今のところは」
レインが答えると、クラウスの額に青筋が浮かんだ。
「てめぇ……!」
その瞬間。
白聖剣が震えた。
カタカタカタ。
黒い靄が、ほんの少しだけクラウスの方へ伸びる。
ログが赤く染まる。
⸻
警告。
呪詛が敵意に反応。
暴走危険度:
低 → 中
⸻
「ほら見ろ!」
レインは思わず叫んだ。
グラントが即座に動いた。
「クラウス、部屋を出ろ」
「ギルドマスター!」
「今すぐだ」
その声には逆らえない圧があった。
クラウスは歯を食いしばり、悔しそうにレインを睨む。
「……覚えてろよ」
そう吐き捨てると、荒々しく部屋を出ていった。
リリカとガルドもそれに続く。
だが、ミリアだけはその場に残った。
クラウスが振り返る。
「ミリア!」
ミリアは小さく肩を震わせた。
けれど。
彼女は部屋を出なかった。
「……私は残る」
クラウスの目が見開かれる。
「は?」
「この呪い、危ない。放っておけない」
「俺が出ろって言ってるんだぞ」
ミリアは唇を噛む。
そして、勇気を振り絞るように言った。
「私は、クラウスの持ち物じゃない」
会議室が静まり返った。
クラウスの顔から表情が消える。
リリカも驚いた顔をしていた。
ガルドだけが気まずそうに視線を逸らす。
ミリアは震えていた。
でも、目は逸らさなかった。
「……勝手にしろ」
クラウスは低い声で言い捨て、今度こそ部屋を出ていった。
扉が閉まる。
重い沈黙。
その直後、レインの視界にログが表示された。
⸻
イベント進行。
『ミリアの自立』
《黎明の剣》
パーティ安定率:
64% → 57%
内部信頼崩壊度:
19% → 28%
ざまぁ進行度:
21% → 29%
⸻
「……ざまぁ進行度、伸びたな」
「レイン?」
ミリアが不思議そうに見る。
「いや、何でもない」
本当に何でもないとは言い難いが。
グラントが軽く咳払いした。
「話を戻す。ミリア、協力できるか」
ミリアは深呼吸し、白聖剣を見た。
「……やります」
そして、レインへ視線を向ける。
「レイン。私で役に立てるなら」
その言葉には、以前のような軽い同情はなかった。
本気だった。
レインは頷く。
「助かる」
ミリアの評価ログが変化する。
⸻
ミリア
レインへの評価:
後悔/困惑/協力意思
↓
後悔/信頼したい
⸻
信頼したい。
その言葉に、レインは少し複雑な気持ちになった。
今さら。
そう思う気持ちもある。
でも、協力者は必要だ。
呪剣を浄化するには、ミリアの聖属性魔力が要る。
感情と実益は分けなければならない。
ボルドが机の上に道具を並べる。
「必要な手順を確認しよう」
レインはログを見る。
⸻
呪詛浄化手順:
1.汚染源の特定
2.魔力遮断
3.月光花による呪詛弱体化
4.聖属性魔力で洗浄
5.適性者による再契約
現在成功率:
46%
ミリア協力後予測:
68%
⸻
「成功率、かなり上がった」
「成功率?」
アリシアが聞き返す。
「えっと……勘です」
ボルドがまた小さく笑った。
「便利な勘だな」
「自分でもそう思います」
レインは白聖剣を見る。
剣の状態は悪い。
けれど、今なら完全解除できる可能性がある。
「まず、汚染源は刀身内部の魔石片です」
「魔石片?」
ボルドが眉をひそめる。
「聖剣に魔石片が混入しているのか」
「はい。黒血の魔石片、らしいです」
その瞬間、ボルドとグラントの顔色が変わった。
「黒血だと?」
「知ってるんですか?」
ボルドは深刻な顔で頷く。
「魔物を強制進化させる危険な魔石だ。過去に何度か禁制品として押収されている」
レインの脳裏に、ハズレ森の変異ゴブリンとホブゴブリン変異種が浮かんだ。
黒血の魔石片。
魔物の強制進化。
もしかして、ハズレ森の異常にも関係しているのか。
ログが表示される。
⸻
関連性あり。
詳細閲覧不可。
⸻
また詳細不可。
世界の謎に近づきすぎると、すぐこれだ。
レインはとりあえず思考を戻した。
「今は聖剣の方を優先します」
グラントが頷く。
「必要な物は揃えられるか」
「魔力遮断布は倉庫にあったものを使えます。月光花は俺たちの分を一枚使いました。追加で必要になるかもしれません」
アリシアがすぐに言う。
「月光花は買い取ります。必要なら金貨を」
「全部は使いません」
レインは首を振る。
「これはシエルにも必要なので」
シエルが少し驚いた顔をする。
「……私?」
「ああ。お前の力を安定させるために使う予定だからな」
アリシアの視線が、シエルへ向いた。
「あなたにも、特別な力が?」
シエルはびくっと肩を震わせた。
レインはすぐに一歩前へ出る。
「秘密です」
短く、はっきりと答えた。
アリシアが少しだけ目を瞬かせる。
「……秘密、ですか」
「はい。本人の許可なく話すことじゃありません」
その言葉に、シエルがレインの袖を小さく握った。
アリシアは数秒だけシエルを見て、それから静かに頭を下げる。
「失礼しました。踏み込みすぎましたね」
「いえ」
レインは短く答えた。
視界にログが浮かぶ。
⸻
アリシア
レインへの評価:
恩義/強い関心
↓
恩義/強い関心/慎重さへの評価
⸻
シエル
信頼度:40 → 42
⸻
これでいい。
シエルの力は、まだ誰にも話すべきじゃない。
シエル自身にすら、完全には分かっていないのだから。
ミリアが白聖剣の前に立つ。
「私は何をすればいい?」
レインはログを確認する。
⸻
ミリアへの指示:
剣に直接触れず、聖属性魔力を薄く展開。
出力は低め。
急激な浄化は危険。
⸻
「剣には触らないで。低めの出力で、聖属性魔力を広げてくれ」
ミリアは驚いたように目を瞬かせた。
「……分かった」
「急に強く浄化しようとすると、多分呪いが暴れる」
「うん。やってみる」
ミリアは杖を構え、静かに祈りの言葉を紡ぐ。
淡い白い光が、部屋に広がっていく。
シエルがその光を見て、少しだけ目を細めた。
アリシアは剣を見つめ、両手を握りしめている。
グラントは剣に手をかけたまま警戒。
ボルドは記録板を持って観察。
エマは祈るように見守っていた。
レインはログを睨む。
⸻
浄化準備開始。
呪詛反応:安定
成功率:
68% → 70%
⸻
いける。
そう思った瞬間。
白聖剣の刀身が、低く震えた。
黒い靄が一点に集まっていく。
ログが赤く変わる。
⸻
警告。
黒血の魔石片が抵抗開始。
呪詛暴走まで:
60秒
⸻
「来た……!」
レインは右手の指輪に力を込めた。
無価値の指輪が黒く光る。
「ミリア、そのまま維持!」
「うん!」
「シエル、何か分かったらすぐ教えてくれ!」
シエルは緊張した顔で頷く。
「分かった」
あえて“未来”とは言わない。
ここにいる全員が信用できないわけではない。
それでも、秘密は少ない方がいい。
レインは月光花の花弁をもう一枚摘み、剣へ近づけた。
その瞬間。
剣の中から、黒い獣のような影が浮かび上がった。
目が三つある。
口が裂けている。
それは剣に宿った呪いが形を取ったものだった。
エマが悲鳴を上げる。
アリシアが青ざめる。
ミリアの光が揺らぐ。
ログが真っ赤に染まる。
⸻
呪詛具現化。
成功率:
70% → 43%
⸻
「下がった!?」
黒い影がレインを見た。
そして、はっきりと笑った。
声が響く。
『価値なき者が、我に触れるか』
レインの指輪が熱を帯びる。
無価値の指輪。
価値なき者。
またその言葉。
レインは歯を食いしばった。
「悪いな」
月光花の花弁を握りしめる。
「価値がないものの扱いには慣れてるんだよ」
その瞬間。
指輪が強く光った。
⸻
【無価値の指輪】効果拡張。
対象:
呪詛具現体
価値判定を開始します。
⸻
黒い影の頭上に、新しいログが浮かぶ。
⸻
呪詛具現体
存在価値:
汚染維持
弱点:
黒血の魔石片
破壊条件:
聖属性魔力
月光花
低価値化補正
⸻
レインは笑った。
見えた。
倒し方が。
「ミリア、出力を少し上げてくれ!」
「分かった!」
「シエル、次は!?」
シエルの赤い瞳が淡く光る。
「左……黒い針! その後、上から来る!」
「了解!」
黒い影から針のような呪いが飛ぶ。
レインはシエルの声通りに避け、月光花の花弁を剣の根元へ押し当てた。
ミリアの白い光が重なる。
指輪が黒く輝く。
三つの力が、刀身の一点へ集まった。
バキン。
何かが割れる音。
黒い影が悲鳴を上げた。
『ギ、アアアアアッ!?』
ログが弾ける。
⸻
黒血の魔石片
表面化。
浄化成功率:
43% → 79%
⸻
「今だ!」
レインは叫んだ。
アリシアが息を呑む。
「私も……?」
ログが表示される。
⸻
再契約準備可能。
適性者:
アリシア
実行推奨。
⸻
「アリシアさん! 剣に手を!」
「はい!」
アリシアは恐怖を押し殺し、白聖剣の柄を握った。
黒い靄が彼女へ絡みつこうとする。
だが、ミリアの聖属性光と月光花の淡い光がそれを押し返す。
レインは右手を剣に添えた。
激痛。
でも離さない。
「今、契約を上書きするイメージで!」
「分かりました!」
アリシアが目を閉じる。
彼女の魔力が、剣へ流れ込む。
白い光。
黒い靄。
二つがぶつかり、部屋全体が震える。
そして。
ログが表示された。
⸻
再契約成功。
呪詛汚染を解除。
白聖剣レイヴァルト
状態:
呪剣級 → 聖剣級
⸻
刀身から黒い靄が消えた。
白い宝石が澄んだ光を取り戻す。
部屋に、暖かな光が広がる。
アリシアは剣を握ったまま、震える息を吐いた。
「……戻った」
ミリアは膝をつき、荒く息をしている。
シエルもへたり込みそうになりながら、レインを見ていた。
エマは目に涙を浮かべている。
ボルドは興奮で手を震わせていた。
グラントだけが、静かに頷いた。
そしてレインの視界にログが浮かぶ。
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クエスト達成。
『呪われた聖剣を浄化せよ』
達成評価:A+
報酬:
【装備適性表示】解放
【呪詛判別】一部解放
アリシアの信頼度が上昇しました。
⸻
さらに。
⸻
アリシア
信頼度:
8 → 42
⸻
「上がりすぎじゃないか……?」
レインが呟いた瞬間。
アリシアが剣を抱きしめるようにして、深く頭を下げた。
「レインさん」
「はい」
「あなたは、私とレイヴェル家の恩人です」
その言葉に、レインは困ったように頭を掻いた。
するとシエルが、すっとレインの隣に立った。
なぜか少しだけ距離が近い。
ログが浮かぶ。
⸻
シエル
感情:
誇らしい
心配
対抗心 上昇
⸻
「……だから対抗心って何なんだよ」
「何か言った?」
「いや、何も」
その時、扉の外から足音が聞こえた。
荒い。
怒っている。
そして次の瞬間、扉の外でクラウスの声が響いた。
「おい! 中で何が起きた!」
レインの視界にログが浮かぶ。
⸻
イベント発生。
『聖剣浄化の功績』
クラウスへの情報伝達時:
高確率で嫉妬イベントへ発展。
ざまぁ進行度:
29% → 36%
⸻
レインは小さくため息を吐いた。
「……もう少し静かに成功を喜ばせてくれよ」




