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第十三話 「黒い指輪」

【隠しアイテム】


発見条件達成。


名称:未鑑定


危険度:不明


所有者適性:


レイン 97%



「……俺?」


レインは、倉庫の奥に落ちている黒い指輪を見つめた。


埃を被った棚の下。


誰にも見つけられず、長い間そこに放置されていたような小さな指輪。


派手な宝石が付いているわけではない。


金でも銀でもない。


黒い金属でできた、地味な輪。


けれど。


レインには分かった。


あれは普通じゃない。


他の呪物や魔道具とは違う。


見ているだけで、視界の奥がざわつくような感覚があった。


「レイン君?」


エマが不安そうに声をかける。


「どうしたの?」


「……あそこに、指輪があります」


レインが棚の下を指差すと、全員の視線がそちらへ向いた。


ボルドが眉をひそめる。


「指輪?」


「はい」


「待て。私が見る」


ボルドは鑑定用の棒を持ち、慎重に近づいた。


先端の魔石が淡く光る。


だが、指輪に近づいた瞬間。


パキン。


魔石が割れた。


「っ!?」


エマが小さく悲鳴を上げる。


グラントが即座に剣へ手をかけた。


「危険物か?」


ボルドは割れた鑑定棒を見て、険しい顔をした。


「分からん。反応が返ってこない」


「反応がない?」


「ああ。普通、呪物なら呪力が出る。魔道具なら魔力が出る。素材なら属性が出る。だがこれは……何も返さなかった」


レインのログが再び揺れる。



通常鑑定不能。


特殊条件を満たしています。


接触しますか?


▶ YES / NO



「……」


接触。


つまり、触れということか。


嫌すぎる。


今までログはかなり頼りになった。


だが、“危険度不明”と出ている物に触れるのはさすがに怖い。


シエルがレインの袖を掴んだ。


「……やめた方がいい」


「だよな」


レインも本気でそう思う。


けれど。


指輪のログには、また別の文字が浮かんでいる。



所有者適性:97%


装備時予測:


【世界ログ】補助機能解放



「……補助機能」


思わず呟いた。


グラントが目を細める。


「何か分かるのか?」


「あ、いや……」


誤魔化しかけて、レインは口を閉じた。


全部を隠すのも難しくなってきている。


だが、世界ログのことを話す気はない。


レインは言葉を選ぶ。


「なんとなくですけど……あれ、俺に反応している気がします」


倉庫内が静かになった。


エマは困った顔。


ボルドは興味深そう。


グラントは警戒。


シエルは不安。


それぞれの頭上に評価ログが浮かぶ。



グラント

評価:警戒/判断待ち


ボルド

評価:強い興味


エマ

評価:心配


シエル

評価:不安/制止したい



分かりやすい。


分かりやすすぎて、少し胸が痛い。


シエルは本気で心配してくれている。


レインはその手に軽く触れた。


「危なかったらすぐ離す」


「……ほんと?」


「ああ」


シエルはまだ不安そうだった。


その時、ログが表示される。



シエルの【星読】が微弱反応。


未来予測:


接触後、即死なし。


危険度:中



「即死なしって……」


判断材料としては嫌すぎる。


だが、最悪ではない。


レインは息を吐き、棚の下へ近づいた。


膝をつき、指輪へ手を伸ばす。


ボルドが低い声で言った。


「素手で触るな。布を使え」


「はい」


レインは布越しに指輪を拾おうとした。


だが。


指輪は、布をすり抜けた。


「……は?」


見間違いかと思った。


もう一度、布で掴もうとする。


やはりすり抜ける。


まるで布だけを存在しないものとして扱っているみたいに。


ボルドが目を見開いた。


「物理干渉を選んでいる……?」


「そんな魔道具あるんですか?」


「聞いたことがない」


レインの視界にログが浮かぶ。



直接接触のみ許可。


接触しますか?


▶ YES / NO



「……マジかよ」


逃げたい。


本気で逃げたい。


だがここで引くと、この指輪の正体は分からない。


しかも所有者適性は97%。


明らかに自分用の何かだ。


レインは覚悟を決めた。


「触ります」


「レイン君!」


エマの声。


シエルの手が強く袖を掴む。


「……レイン」


「大丈夫」


そう言って。


レインは素手で指輪に触れた。


瞬間。


視界が黒く染まった。


「――っ!?」


音が消える。


倉庫も、グラントたちも、シエルも見えない。


ただ真っ暗な空間に、白い文字だけが浮かぶ。



所有者候補を確認。


適性検査を開始します。



「なんだ、これ……!」


レインは思わず叫んだ。


返事はない。


代わりに、文字が次々と現れる。



質問。


あなたは力を何に使いますか?



急すぎる。


レインは混乱した。


「力って……世界ログのことか?」


文字は答えない。


ただ、三つの選択肢が浮かぶ。



【自分のため】


【誰かを守るため】


【全てを支配するため】



レインは息を呑んだ。


あまりにも露骨な選択肢だ。


普通なら“誰かを守るため”を選ぶべきなのだろう。


綺麗な答えだ。


でも。


レインは少しだけ考えた。


自分のためじゃないと言えば嘘になる。


金が欲しい。


強くなりたい。


もう見下されたくない。


シエルを守りたい。


でも、自分自身も救いたい。


だから。


レインは答えた。


「自分と、俺の仲間のためだ」


ログが一瞬止まる。


そして、選択肢が歪んだ。



選択肢外回答を確認。


再評価します。



「え、ダメなのか?」


次の瞬間。


新たな文字が表示される。



回答適性:高


偽善率:低


所有者適性:


97% → 99%



「偽善率ってなんだよ……」


思わずツッコんだ。


だが、黒い空間はまだ終わらない。


次の質問が浮かぶ。



質問。


あなたは、価値のないものをどう扱いますか?



今度は少し嫌な質問だった。


価値のないもの。


その言葉に、レインは胸の奥がざらつく。


自分はずっとそう扱われてきた。


役立たず。


無能。


雑用係。


価値のない奴。


クラウスたちの声が脳裏に蘇る。


レインは拳を握った。


「価値がないかどうかは、使い方次第だろ」


答えた瞬間。


文字が光った。



回答適性:極めて高


所有者適性:


99% → 100%



黒い空間が割れる。


次の瞬間、レインの意識は倉庫へ戻っていた。


「レイン!」


シエルの声。


気づけば、レインは床に膝をついていた。


右手には、黒い指輪。


誰も動けずにこちらを見ている。


グラントが低く問う。


「……何が起きた」


「分かりません」


半分は本当だ。


ただ。


指輪はもう、レインの手から離れなかった。


いや、違う。


勝手に右手の人差し指にはまっていた。


「おい、外せるか?」


グラントの声に、レインは指輪を引っ張る。


外れない。


全く動かない。


ログが表示される。



装備完了。


名称解放:


【無価値の指輪】


等級:不明


所有者:


レイン


効果:


【価値判定】

【隠し価値表示】

【低価値品補正】



「無価値の指輪……」


名前が嫌すぎる。


だが効果はかなり気になる。


【価値判定】と【隠し価値表示】。


それに、【低価値品補正】。


その瞬間、倉庫内の景色が変わった。


今までただのガラクタにしか見えなかった物に、新しいログが浮かび始める。



錆びた短剣


表面価値:銅貨3枚


隠し価値:


古代銀を含有


修復後価値:銀貨40枚



割れた魔石


表面価値:廃棄品


隠し価値:


魔力再充填可能


加工後価値:銀貨18枚



破れた外套


表面価値:廃棄品


隠し価値:


微弱な耐火性能


修繕後価値:銀貨25枚



「……うわ」


レインは思わず声を漏らした。


見える。


本当の価値が。


売れば安い物。


捨てられる物。


誰にも見向きされない物。


その奥に隠れた価値が、全部見える。


まるで世界が宝の山に変わったみたいだった。


ボルドがレインの様子を見て、鋭く言う。


「何か見えたのか?」


「……この倉庫、思ったより宝の山かもしれません」


ボルドの目が光った。


「詳しく聞こう」


レインは指輪を見つめる。


捨てられた物。


価値なしと判断された物。


倉庫の隅に追いやられた物。


その価値を見抜く指輪。


まるで、今までの自分みたいだ。


その時。


シエルが小さく言った。


「レイン、その指輪……似合ってる」


「これが?」


黒くて地味で、少し不気味な指輪だ。


シエルはこくりと頷いた。


「うん。レインっぽい」


「褒めてるのか、それ」


「褒めてる」


シエルは少しだけ笑った。


その瞬間。



信頼度:34 → 37



レインも少し笑った。


だが、その直後。


倉庫の一番奥。


古い布に覆われた大きな箱に、異様なログが浮かんだ。



【封印品】


表面価値:不明


隠し価値:


測定不能


警告:


開封非推奨



レインの笑みが消える。


「……まだあるのかよ」


グラントが剣に手をかける。


「何を見つけた」


レインは奥の箱を指差した。


「たぶん、この倉庫で一番ヤバいものです」


布の下で、何かが小さく鳴った。


コツン。


まるで、箱の中から誰かが叩いたような音だった。

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