表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/34

第十二話 「呪われた倉庫」

翌日。


レインは朝から冒険者ギルドへ向かっていた。


隣には、フードを深く被ったシエルがいる。


昨日の報酬で、まずは最低限の服と靴を買った。


まだ高価なものではない。


それでも、ボロ布のような服を着ていた昨日までと比べれば、かなりマシになっている。


「歩きにくくないか?」


「……大丈夫」


シエルは小さく頷く。


だが、その足取りは少しだけぎこちなかった。


新しい靴に慣れていないのだろう。


レインの視界にログが浮かぶ。



【シエル】


状態:回復傾向

栄養状態:改善中

信頼度:34


【星読】発現率:51%



順調に回復している。


それだけで、昨日の報酬を使った価値はあったと思えた。


「今日は危ない依頼じゃない……はずだ」


「はず?」


「倉庫の鑑定依頼らしい」


「鑑定……?」


シエルが首を傾げる。


レインも正直よく分かっていない。


ただ、昨日のログにはこう表示されていた。



『呪われた倉庫の鑑定依頼』


推奨受注。


報酬:


【鑑定補助】解放条件



“呪われた”という部分だけが猛烈に不安だった。



ギルドへ入ると、昨日とは空気が違っていた。


レインに向けられる視線。


昨日までは嘲笑や軽蔑が多かった。


だが今日は違う。


好奇心。


疑い。


少しの期待。


その全部が混ざっている。



【注目】

【疑念】

【興味】



ログがあちこちに浮かぶ。


「おい、昨日のE級だ」


「月光花を持ち帰ったって本当か?」


「ハズレ森の異常を見つけたらしいぞ」


「元《黎明の剣》の雑用係だろ?」


レインは居心地悪く肩をすくめる。


有名になりたいわけではない。


だが、無能扱いされるよりはずっといい。


受付に行くと、エマが少し嬉しそうに手を振った。


「レイン君、来たね」


「昨日言われた依頼の件で」


「うん。ギルドマスターが待ってるよ」


エマは奥の廊下を指差した。


そのまま案内される。


だが会議室ではなかった。


連れていかれたのは、ギルドの裏手。


普段、冒険者が入ることのない古い倉庫だった。


木製の大扉には鎖が巻かれている。


扉の前には、ギルドマスターのグラントと、査定員のボルドが立っていた。


「来たか」


グラントが低い声で言う。


ボルドは無言で頷いた。


レインは倉庫を見る。


その瞬間、視界にログが浮かんだ。



【封印倉庫】


危険度:中


状態:


【呪物混入】

【魔力滞留】

【誤鑑定多数】



「……」


めちゃくちゃ嫌な表示だった。


「なあ、ギルドマスター」


「なんだ」


「これ、本当に俺向きの依頼ですか?」


「昨日のお前の素材選別、罠作成、報告内容を見る限り、適性がある」


「戦闘依頼じゃないですよね?」


「戦闘はない」


レインは少し安心しかけた。


だが、グラントは続けた。


「たぶん」


「たぶんって言いました?」


ボルドが静かに説明を始める。


「この倉庫には、長年放置された未鑑定品が入っている」


「未鑑定品?」


「依頼失敗で回収された物。持ち主不明の遺品。処分に困った魔道具。価値不明の素材。そういったものだ」


レインは嫌な予感が強まる。


「なんで放置してたんですか」


「鑑定士が三人倒れた」


「帰っていいですか?」


即答だった。


エマが慌てて言う。


「だ、大丈夫! 倒れたって言っても命に別状はなくて!」


「そういう問題ですかね」


シエルがレインの袖を掴む。


「……危ないなら、やめた方が」


その声には不安が滲んでいた。


レインもそう思う。


だがログが表示される。



クエスト:


『呪われた倉庫を整理せよ』


成功報酬:


【鑑定補助】解放


【危険物判別】解放条件


推奨受注



推奨。


ログは受けろと言っている。


レインは小さく息を吐いた。


「……内容は?」


グラントが答える。


「倉庫内の品を、危険物、売却可能品、保管品、処分品に分ける」


「俺、鑑定士じゃないんですけど」


「だからボルドが付く。お前は昨日見せた“違和感を拾う力”で補助しろ」


なるほど。


表向きはそういうことか。


レインは自分の能力を“勘”として扱われているらしい。


それなら都合がいい。


ログ能力を隠したまま使える。


「報酬は?」


グラントが指を一本立てる。


「基本報酬、銀貨四十枚。危険物発見ごとに追加。価値ある物を見つけた場合は、査定額の一割を支払う」


「やります」


即答だった。


シエルが目を丸くする。


「レイン……」


「生活費は大事だ」


それに、銀貨四十枚は大きい。


昨日の報酬と合わせれば、かなり余裕ができる。


シエルの治療、食事、装備。


やりたいことはいくらでもある。


グラントは口元を少しだけ緩めた。


「いい返事だ」



鎖が外され、倉庫の扉が開く。


ギィィ、と重い音。


中から、冷たい空気が流れ出した。


埃っぽい。


それなのに、どこか甘い匂いが混ざっている。


シエルが小さく咳き込んだ。


「大丈夫か?」


「うん……でも、変な匂い」


レインも感じていた。


その瞬間、ログが表示される。



空気中に微弱な魔力毒を検出。


長時間滞在非推奨。


推奨滞在時間:


43分



「……時間制限ありか」


「何か言ったか?」


グラントが聞く。


「いえ。あまり長く入らない方がいい気がします」


ボルドが眉を上げた。


「なぜそう思う」


「匂いが変なので」


ボルドは少しだけ目を細める。


「鋭いな。過去に倒れた鑑定士も、最初に匂いを訴えた」


ログ通りだ。


レインは倉庫の中へ足を踏み入れる。


棚が並んでいる。


木箱。


布袋。


壊れた剣。


錆びた盾。


黒ずんだ瓶。


どれも古く、雑多に積まれていた。


そして。


視界のあちこちにログが浮かび上がる。



【劣化品】

【低価値】

【危険】

【魔力残留】

【未開封推奨】



「うわ……」


情報量が多い。


だが、ハズレ森の戦闘と違い、落ち着いて見れば使えそうだった。


まず目に入ったのは、棚の上に置かれた銀色の小箱。


ログが赤い。



【呪物】


接触非推奨


開封時:


精神汚染率 38%



「それ、触らない方がいいです」


レインが即座に言うと、エマが伸ばしかけていた手を止めた。


「えっ?」


「なんか……嫌な感じがするので」


ボルドが慎重に小箱へ鑑定用の棒を近づける。


棒の先端に付けられた魔石が、黒く濁った。


ボルドの表情が変わる。


「呪物反応だ」


エマが青ざめる。


「触るところだった……」


グラントがレインを見る。


「一つ目だな」


ログが表示される。



危険物発見。


追加報酬:銀貨5枚



「おお……」


これはかなり稼げるかもしれない。


次に、レインは床に転がっていた汚れた布袋を見た。


ログは黄色い。



【素材袋】


中身:


火蜥蜴の鱗


状態:良好


推定価値:銀貨22枚



「この袋、中身は売れると思います」


「ほう?」


ボルドが袋を開ける。


中から赤みがかった鱗が出てきた。


「火蜥蜴の鱗だ。状態も悪くない」


エマが驚いた声を出す。


「なんで分かったの?」


「匂い……ですかね」


苦しい。


だがボルドは納得したように頷いた。


「火蜥蜴の鱗は微かに硫黄臭がする。経験があれば分からなくもない」


助かった。


ログがまた表示される。



価値品発見。


査定額の一割:


銀貨2枚相当



地味に増える。


レインは少し楽しくなってきた。


「次は……」


そう言いかけた時。


倉庫の奥から、カタリと音がした。


全員が動きを止める。


エマが小さく言う。


「今、何か……」


「ネズミか?」


グラントが剣の柄に手をかける。


レインの視界に、赤いログが浮かぶ。



警告。


倉庫内に活動反応。


分類:


【擬態魔道具】



「……擬態魔道具?」


「何?」


ボルドが聞き返す。


その瞬間。


奥に積まれていた木箱の一つが、ギョロリと目を開いた。


「ひっ!?」


エマが悲鳴を上げる。


木箱に、目がある。


いや、木箱そのものが魔物のように動いていた。


ガタガタと震え、金属製の脚を生やす。


そして蓋の隙間から、鋭い歯のようなものが並んだ。


「ミミックか!?」


グラントが剣を抜く。


だが、レインのログには別の表示が出ていた。



擬態収納具


状態:暴走


危険度:低〜中


弱点:


右側面の制御刻印


破壊非推奨。


制御可能。



「壊さないでください!」


レインは咄嗟に叫んだ。


グラントの剣が止まる。


「なぜだ!」


「たぶん、これ魔物じゃなくて魔道具です! 右側面に刻印があるはず!」


ボルドが目を見開く。


「右側面だと?」


擬態収納具が飛びかかってくる。


レインは反射的に横へ転がった。


木箱の牙が空を噛む。


ログが流れる。



推奨行動:


背後へ回避


成功率:88%



レインは言われるまま動く。


敵の攻撃は速くない。


だが見た目が怖い。


シエルが震えながらも叫ぶ。


「レイン、次、上!」


レインは即座にしゃがむ。


蓋が頭上を通過した。



【星読】


発現率:51% → 55%



「助かった!」


「うん……!」


その一瞬で、レインは右側面へ回り込む。


確かに、小さな刻印があった。


黒く汚れて見えにくい。


だがログが示している。



制御刻印


状態:汚染


推奨処置:


魔力遮断



魔力遮断?


どうする。


レインの視線が、さっきの魔喰い苔付着皮に向かう。


いや、今は持っていない。


だが倉庫の棚に、似た反応の素材がある。



魔力吸収布


劣化品


一時使用可能



「あれだ!」


レインは棚から黒い布を引っ掴む。


擬態収納具が再び飛びかかる。


「シエル!」


「右に避けて、すぐ前!」


「分かった!」


レインは右へ回避し、そのまま前へ踏み込む。


そして黒い布を、右側面の刻印へ押し当てた。


バチッ!


青白い火花が散る。


擬態収納具が激しく震えた。


「うおっ!?」


数秒後。


箱はぴたりと動きを止めた。


蓋が閉じ、脚が引っ込み、ただの古い木箱に戻る。


静寂。


エマがへなへなと座り込んだ。


「こ、怖かった……」


グラントは剣を下ろし、レインを見た。


「お前、本当に何者だ」


「元雑用係です」


自分で言っていて、そろそろ苦しくなってきた。


ボルドが擬態収納具を慎重に調べる。


「……本物だ。古代式の擬態収納具。壊さず制御できた個体など、私は初めて見る」


「高いんですか?」


レインが思わず聞くと、ボルドが真顔で言った。


「金貨五枚は下らん」


「ご……」


金貨五枚。


レインは一瞬、意識が飛びかけた。


ログが浮かぶ。



価値品発見。


査定額の一割:


金貨0.5枚相当



「……すごい」


シエルが小さく呟く。


レインも同じ気持ちだった。


これだけで昨日の月光花に匹敵する報酬だ。


だが、その直後。


倉庫のさらに奥。


一番古い棚の下から、黒い光が漏れた。


レインの視界に、今までとは違うログが表示される。



【隠しアイテム】


発見条件達成。


名称:


未鑑定


危険度:不明


所有者適性:


レイン 97%



「……俺?」


レインは息を呑む。


奥にある小さな黒い指輪。


埃に埋もれていたそれが、まるでレインを呼ぶように淡く光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ