第十一話 「ギルドマスター」
【緊急クエスト】
『ハズレ森の異常を報告せよ』
分岐発生。
選択によって今後の評価が変化します。
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レインは、目の前に浮かんだログを見て固まった。
緊急クエスト。
分岐。
今後の評価。
どう考えても、適当に答えていい場面ではない。
「……お前が、ハズレ森から変異種素材を持ち帰ったE級か」
ギルドマスターらしき大柄な男が、鋭い目でレインを見下ろす。
肩幅が広く、腕も太い。
左頬には古い傷跡。
ただ立っているだけで、周囲の冒険者たちが一歩引くような圧があった。
受付嬢のエマが慌てて紹介する。
「レイン君。この方が王都東支部のギルドマスター、グラントさんです」
「……レインです」
レインは軽く頭を下げた。
グラントは短く頷く。
「話を聞かせろ」
「ここでですか?」
レインがそう言うと、グラントは一瞬だけ周囲を見た。
ギルド内はざわついている。
冒険者たち。
《黎明の剣》。
素材を見ていた査定員ボルド。
そして、レインの後ろでフードを被ったシエル。
全員の視線が集まっていた。
グラントは低い声で言う。
「奥の部屋を使う」
その瞬間。
レインの視界にログが出た。
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選択肢:
【全て話す】
ギルド評価:大幅上昇
危険度:上昇
【一部だけ話す】
ギルド評価:中上昇
危険度:低
【隠す】
ギルド評価:変化なし
危険度:不明
推奨:
【一部だけ話す】
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「……」
なるほど。
全部話せば評価は上がる。
でも危険も増える。
たぶん、《魔喰いの穴》やログ能力のことまで話すのは危ない。
レインは小さく息を吐いた。
「分かりました。ただ、彼女も一緒でいいですか」
そう言ってシエルを見る。
シエルはびくっと肩を震わせた。
グラントの視線がシエルへ向く。
「奴隷か」
その言葉に、シエルの肩がさらに縮こまる。
レインは一歩前に出た。
「俺の仲間です」
グラントの目がわずかに細くなる。
周囲がまたざわついた。
「仲間ね」
「はい」
数秒の沈黙。
やがてグラントは短く言った。
「来い」
◇
ギルドの奥にある会議室。
厚い木の扉が閉まると、外のざわめきはほとんど聞こえなくなった。
部屋には、レイン、シエル、グラント、エマ、ボルド。
そしてなぜか《黎明の剣》のクラウスたちもいた。
「……なんでこいつらもいるんですか」
レインが思わず言うと、クラウスが鼻で笑った。
「俺たちはB級パーティだ。ハズレ森が本当に危険なら調査に出る可能性がある」
「……」
たしかに立場的にはおかしくない。
だが、レインとしてはかなり嫌だった。
クラウスの頭上には、相変わらずログが浮かんでいる。
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【敵意】
【嫉妬】
【疑念】
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分かりやすい。
グラントが机を軽く叩いた。
「余計な私情は持ち込むな」
その一言で、クラウスも黙る。
グラントはレインを見る。
「まず聞く。ハズレ森で何を見た?」
レインは慎重に言葉を選んだ。
ログの推奨は【一部だけ話す】。
ならば、見たことのうち“普通の冒険者でも説明できる範囲”に留める。
「青葉草が枯れていました。地面も少し黒ずんでいて、普通の森とは違いました」
ボルドが腕を組む。
「魔力吸収の影響だろうな」
レインは頷く。
「それと、ゴブリンが変異していました。普通より速くて、力も強かったです」
グラントの目が鋭くなる。
「何匹だ」
「最初に一匹。そのあと三匹。それから……ホブゴブリン変異種らしきものを見ました」
空気が変わった。
エマが息を呑む。
クラウスが眉をひそめる。
「ホブゴブリン変異種だと?」
「はい」
「お前が倒したのか?」
「逃げました」
レインは即答した。
変に盛る必要はない。
勝てない相手から逃げた。
それは事実だ。
だがクラウスは鼻で笑う。
「だろうな。雑用係がホブゴブリンを倒せるわけない」
「クラウス」
グラントの声が低くなる。
クラウスは口を閉じた。
グラントはレインへ視線を戻す。
「逃げ切れた理由は?」
「煙幕と罠です」
「罠?」
「森にあった蔓と枝を使って足止めしました」
ボルドが少しだけ目を細める。
「即席でか?」
「はい」
「……面白い」
レインの視界にログが浮かんだ。
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ボルド評価:
【疑い】 → 【興味】
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グラントはさらに尋ねる。
「他に異常は?」
ここだ。
レインは言葉に詰まる。
《魔喰いの穴》。
隠しダンジョン。
それを言うべきか。
視界に選択肢が浮かぶ。
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分岐選択:
【ダンジョンの存在を話す】
ギルド評価:大幅上昇
危険度:高
【魔力の濃い穴を見た、とぼかす】
ギルド評価:上昇
危険度:中
【話さない】
ギルド評価:小上昇
危険度:低
推奨:
【魔力の濃い穴を見た、とぼかす】
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レインはログに従った。
「森の奥に、魔力が濃い場所がありました」
「場所は?」
「北東の奥です。穴のように見えました。でも近づいてはいません」
嘘ではない。
穴はあった。
近づいてもいない。
ただ、“隠しダンジョン”だと分かっていることは言わない。
グラントとボルドが視線を交わす。
「……ダンジョン核の可能性があるな」
エマの顔色が変わる。
「王都近郊でダンジョン化なんて……」
「放置すればまずい」
グラントは机の上に地図を広げた。
ハズレ森周辺の地図。
レインの視界には、その上に薄くログが重なる。
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危険区域:
北東部
推定魔物流出範囲:
拡大中
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やはり北東。
レインは地図の一点を指差した。
「たぶん、この辺りです」
グラントの眉が動く。
「ずいぶん正確だな」
「……逃げる時に方向を覚えてました」
その言い訳が通るか不安だったが、ログが表示される。
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発言成功率:78%
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悪くない。
グラントはしばらくレインを見ていたが、やがて頷いた。
「いいだろう」
すると、クラウスが不満そうに口を開く。
「ギルドマスター。こいつの言うことを鵜呑みにするんですか?」
「鵜呑みにはしない。だから調査隊を出す」
「なら俺たち《黎明の剣》が行きます」
クラウスが胸を張る。
「B級パーティとして、王都近郊の異常調査には適任でしょう」
レインの視界にログが走った。
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《黎明の剣》
ハズレ森調査成功率:
38%
推奨:
同行非推奨
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低い。
いや、思ったより低い。
B級パーティなのに。
たぶん、森の異常と相性が悪いのだ。
グラントも難しい顔をする。
「調査隊は複数組で編成する。単独では出さん」
「なら、そこの雑用係も連れていけばいい」
クラウスがレインを指差す。
「場所を知ってるんだろ?」
シエルが小さく震えた。
レインの胸に嫌なものが広がる。
今の自分が再びあの森へ行くのは危険だ。
だが、ギルド側からすれば案内役が欲しいのも分かる。
ログが浮かぶ。
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分岐発生。
【同行する】
危険度:高
報酬:大
【情報提供のみ】
危険度:低
報酬:中
【拒否】
ギルド評価:低下
推奨:
【情報提供のみ】
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レインは即座に答えた。
「俺は情報提供だけにします」
クラウスが鼻で笑う。
「逃げるのか?」
「勝率の低い相手に無策で突っ込む趣味はない」
その言葉に、部屋の空気が少しだけ変わった。
グラントがわずかに口角を上げる。
「いい判断だ」
クラウスの顔が歪む。
「何がいい判断ですか。冒険者なら――」
「無謀と勇気を履き違える奴から死ぬ」
グラントの一言で、クラウスは黙った。
レインの視界にログが浮かぶ。
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グラント評価:
【警戒】 → 【一定評価】
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悪くない流れだ。
グラントは地図に印をつける。
「レイン。お前には情報提供料を出す。加えて、発見者として報奨金も申請しておく」
「報奨金?」
「ダンジョン化の兆候を早期発見した功績だ。正式確認後になるがな」
レインは思わず目を丸くした。
報奨金。
そんなものまで出るのか。
ログが表示される。
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予想報酬:
銀貨50枚〜金貨1枚
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「……」
でかい。
かなりでかい。
これならシエルの治療や装備どころか、しばらく生活基盤を整えられる。
その時、ミリアが小さく口を開いた。
「ねえ、レイン」
レインはそちらを見る。
ミリアは少し迷うように視線を揺らしていた。
「あなた……前から、そんなに判断力あった?」
クラウスとリリカの視線もレインへ向く。
レインは一瞬だけ黙った。
三年間、雑用係として見下されてきた。
でも実際は、地図を見て、荷物を管理して、素材の状態を見て、野営地を選んで、消耗品を整えていた。
戦闘以外の判断は、ずっとしてきたのだ。
ただ、誰もそれを見ていなかっただけで。
「さあ」
レインは短く答える。
「追放されて、少し頭が冴えたのかもな」
その言葉に、ミリアは何も言えなかった。
クラウスは不快そうに舌打ちする。
その瞬間。
レインの視界に新しいログが表示された。
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クエスト達成。
『ハズレ森の異常を報告せよ』
達成評価:B+
報酬:
ギルド評価上昇
新規機能解放:
【人物評価ログ】
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「人物評価……?」
レインは小さく呟く。
次の瞬間、部屋にいる者たちの頭上に、新しい表示が浮かんだ。
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グラント
レインへの評価:一定評価
エマ
レインへの評価:心配/期待
ボルド
レインへの評価:興味
クラウス
レインへの評価:敵意/嫉妬
ミリア
レインへの評価:困惑/後悔
シエル
レインへの評価:信頼
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レインは息を呑んだ。
これはまずい。
便利すぎる。
そして、人の心を見すぎてしまう。
シエルの評価だけを見て、少しだけ救われた気がした。
だがその時。
グラントが重い声で言った。
「それと、レイン」
「はい」
「お前には明日、もう一度ギルドに来てもらう」
「明日?」
「ああ」
グラントは地図を畳みながら続けた。
「ハズレ森の件とは別に、お前向きの依頼がある」
「俺向き?」
「戦闘力よりも、目利きと判断力が必要な依頼だ」
レインの視界に、新しいログが浮かぶ。
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新規クエスト予告。
『呪われた倉庫の鑑定依頼』
推奨受注。
報酬:
【鑑定補助】解放条件
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レインは、嫌な予感と期待が入り混じった気持ちでその文字を見つめた。
追放された雑用係。
その呼び名は、もう少しで過去のものになるのかもしれない。




