表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/34

第十話 「雑用係、査定される」

「採取依頼、完了です」


レインがそう言って袋を差し出した瞬間、冒険者たちの視線が一斉に集まった。


場所は冒険者ギルドの査定カウンター。


普段なら、E級冒険者の採取依頼など誰も気にしない。


青葉草を数束持ち帰り、銀貨数枚を受け取って終わり。


それだけの、ありふれた依頼のはずだった。


だが、レインの袋から出てきたものは違った。


まず、青葉草。


それも、ただの青葉草ではない。


葉の色が濃く、茎もしっかりしている。


見るからに品質が高かった。


次に、変異ゴブリンの爪。


鋭く硬質化し、黒い筋が走っている。


さらに、小さな変異魔石。


冒険者たちのざわめきが大きくなる。


「おい、あれ変異種の魔石じゃねぇか?」


「ハズレ森で?」


「E級が一人で持ち帰ったのかよ」


レインは内心で少し冷や汗をかいていた。


一人ではない。


シエルもいた。


むしろ、シエルがいなければホブゴブリン変異種から逃げ切れなかった。


だが、そんな説明を今ここでするわけにもいかない。


シエルはレインの背中の後ろに隠れるように立っていた。


フードを深く被り、周囲の視線に怯えている。


その頭上には、ログが浮かんでいた。



【シエル】


状態:疲労

緊張:高

信頼度:24



「大丈夫だ」


レインは小さく言った。


シエルが少しだけ顔を上げる。


「……うん」


その瞬間、信頼度の数字がわずかに揺れた。


だが、今はそれどころではない。


受付嬢のエマは、並べられた素材を見て完全に固まっていた。


「レ、レイン君……これ、本当にハズレ森で?」


「はい」


「青葉草だけじゃなくて、変異種素材まで……?」


「襲われたので、なんとか」


「なんとかで済む相手じゃないと思うんだけど……」


エマは困惑しながら、査定員を呼んだ。


奥から出てきたのは、白髪混じりの初老の男だった。


ギルドの専属査定員、ボルド。


普段は無愛想で、滅多に驚かないことで有名な男だ。


ボルドは素材を見るなり、眉を動かした。


「……ほう」


それだけで、周囲の冒険者たちが静かになった。


ボルドが興味を示す。


それだけで珍しいことだった。


「青葉草は上物だな。保存状態もいい。根を傷つけず採っている」


レインの視界にログが浮かぶ。



青葉草


品質:良好


通常報酬補正:


銀貨6枚 → 銀貨9枚



「おお……」


思わず声が漏れる。


ボルドが怪訝そうにこちらを見る。


「何か?」


「いえ、なんでも」


やっぱりログ通りだ。


報酬が増える。


ボルドは次に変異魔石を手に取った。


「これは変異ゴブリンのものだな。魔力吸収の影響を受けている」


周囲がざわつく。


「魔力吸収?」


「ハズレ森の不作、それが原因か?」


「じゃあ本当に異常発生してんのかよ」


ボルドは黙って爪を確認し、さらに皮の一部を見た。


「魔喰い苔も付着している。これは通常の森では発生しない」


エマの顔色が変わる。


「ボルドさん、それって……」


「ダンジョン化の兆候だ」


その一言で、ギルド内の空気が変わった。


ざわめきが一気に広がる。


「ダンジョン化!?」


「ハズレ森が?」


「王都の近くじゃねぇか!」


レインは内心で頷く。


やっぱり。


あの《魔喰いの穴》が原因なのだろう。


ログにも表示されていた。



隠しダンジョン

《魔喰いの穴》


周辺魔力を吸収中



だが、これは口に出さない。


自分だけが見えている情報を、軽々しく話すべきではない。


「それで、素材の査定は……?」


レインが尋ねると、ボルドは少し口元を緩めた。


「急ぐな。まだ本命があるだろう」


「本命?」


「袋の奥だ」


レインは一瞬、心臓が跳ねた。


月光花。


売るつもりはない。


シエルの【星読】発現に使うつもりだったからだ。


だが、袋の中に入れている以上、見つかるのは当然だった。


レインは慎重に、青白く光る小さな花を取り出す。


その瞬間。


ギルド内が静まり返った。


まるで音が消えたみたいだった。


「……月光花」


誰かが呟いた。


次の瞬間、一気にざわめきが爆発した。


「嘘だろ!?」


「月光花って、A級素材じゃなかったか!?」


「高級回復薬の材料だぞ!」


「なんでE級が持ってんだよ!」


エマが目を丸くしている。


ボルドでさえ、わずかに目を見開いていた。


「……状態がいいな。傷も少ない。採取直後に近い」


レインの視界にログが出る。



月光花


希少度:A


状態:良好


推定市場価格:


金貨1枚〜3枚


用途:


・高級回復薬

・魔力安定剤

・ユニークスキル発現補助



やっぱり高い。


金貨一枚でも大金なのに、最大三枚。


レインは喉が鳴るのを感じた。


正直、売れば生活は一気に楽になる。


宿を変えられる。


シエルにまともな服を買える。


食事も、薬も、装備も揃えられる。


だが。


レインは静かに月光花を引っ込めた。


「これは売りません」


「えっ?」


エマが驚いた声を出す。


周囲の冒険者たちも、信じられないという顔をした。


「売らない!?」


「金貨級だぞ!?」


「E級なら迷わず売るだろ普通!」


ボルドがレインをじっと見た。


「理由を聞いても?」


「必要なんです」


「誰に」


レインは一瞬だけ迷い、シエルを見る。


シエルはフードの下で目を揺らしていた。


自分のためだと気づいたのだろう。


レインは短く答える。


「仲間に」


その瞬間。


シエルのログが淡く光った。



信頼度:24 → 29



シエルが小さく袖を掴む。


「……レイン」


「売らないって決めただけだ」


「でも、すごく高いんでしょ……?」


「また採ればいい」


口にしてから、レインは少し後悔した。


我ながら強気すぎる。


だがログがある。


採取場所が分かる。


価値も分かる。


危険も分かる。


なら、普通の冒険者よりは再現できる可能性が高い。


その言葉に、周囲がまたざわつく。


「また採ればいい、だってよ」


「言うねぇ」


「雑用係のくせに」


最後の声だけ、妙に聞き慣れていた。


レインは振り返る。


ギルドの入口に、《黎明の剣》が立っていた。


クラウス。


リリカ。


ミリア。


そして剣士のガルド。


元仲間たちだ。


クラウスは険しい顔でこちらを見ていた。


「レイン。お前、何をした」


「何って、依頼をこなしただけだけど」


「ふざけるな」


クラウスは月光花を見る。


その顔に、隠しきれない焦りが浮かんでいた。



【嫉妬】

【疑念】

【焦燥】



ログが見える。


レインは少しだけ冷静になった。


クラウスは怒っている。


だが、それ以上に焦っている。


「お前みたいな雑用係が、月光花なんて採れるわけないだろ」


その言葉に、周囲の冒険者たちが静まる。


まただ。


前と同じ。


クラウスは疑いを向けることで、自分を下げようとしている。


だが今回は、前と違う。


レインには素材がある。


結果がある。


そしてログがある。


クラウスの頭上に表示が浮かぶ。



発言成功率:64%



周囲はまだ半信半疑。


クラウスはB級パーティのリーダー。


対してレインは追放されたE級。


普通ならクラウスの言葉が通りやすい。


だが、レインは焦らなかった。


「じゃあ、盗品かどうか調べてもらえばいい」


「……何?」


レインはボルドを見る。


「素材に採取痕とか、分かりますよね?」


ボルドはわずかに頷いた。


「分かる。月光花は採取者の魔力が僅かに残る。盗品なら流通記録と照合もできる」


レインはクラウスを見る。


「調べてもらおう」


クラウスの表情が硬くなる。


ログが変化した。



発言成功率:64% → 31%



周囲がざわつき始める。


「確かに、調べればいいな」


「盗品ならすぐ分かる」


「逃げる理由ないよな」


クラウスが苛立ったように舌打ちした。


「……チッ」


リリカが小声で言う。


「クラウス、やめなさいよ。逆に目立ってる」


「うるさい」


ミリアだけは、複雑そうにレインを見ていた。


「レイン……本当に、あなたが採ったの?」


「ああ」


レインは頷く。


「シエルと一緒に」


シエルがびくっとする。


皆の視線が彼女に向く。


クラウスの目が細くなった。


「その奴隷が?」


その言い方に、レインの胸が少しだけ冷えた。


シエルのログが変わる。



恐怖:上昇

緊張:極大



レインは一歩前に出る。


シエルを背中に隠すように。


「シエルは俺の仲間だ」


ギルド内が一瞬、静かになった。


シエルが息を呑む気配がした。


レインの視界に、淡いログが浮かぶ。



信頼度:29 → 34



クラウスは不快そうに顔を歪める。


「仲間? 奴隷を?」


「少なくとも、役立たず扱いして追い出す相手よりは仲間だと思ってる」


言った瞬間、周囲が「おお」とざわめいた。


クラウスの顔が赤くなる。


「てめぇ……!」


その時。


ボルドが重い声で言った。


「ギルド内での私闘は禁止だ」


クラウスの動きが止まる。


ボルドは続ける。


「そして素材は本物。採取痕も新しい。少なくとも、今この場でレインを疑う根拠はない」


その一言で、空気が完全に決まった。


クラウスが黙る。


リリカは気まずそうに視線を逸らし、ガルドは舌打ちした。


ミリアだけが、何か言いたそうにしていた。


エマが慌てて話を戻す。


「え、えっと! 月光花は保留として、青葉草と変異種素材の査定ですね!」


ボルドは素材をまとめ、計算板を弾いた。


「青葉草、銀貨九枚。変異魔石と爪、皮素材を合わせて銀貨二十八枚」


「えっ」


「合計、銀貨三十七枚だ」


レインは固まった。


銀貨三十七枚。


宿代どころではない。


しばらく生活できる額だ。


周囲の冒険者たちも驚いている。


「E級依頼一回で銀貨三十七枚……」


「下手な討伐依頼より上じゃねぇか」


「しかも月光花は売ってないんだろ?」


エマが笑顔で袋に報酬を入れてくれた。


「おめでとう、レイン君。依頼達成、それと追加査定報酬です」


その瞬間、ログが表示される。



クエスト完了。


『E級依頼を達成せよ』


報酬:


所持金増加


ギルド評価上昇


新規称号を獲得しました。


【駆け出し採取者】



さらに。



ギルド評価:


【雑用係】 → 【注目の新人】



レインは小さく息を吐いた。


胸の奥に、少しだけ熱いものが灯る。


追放された。


笑われた。


無能だと言われた。


でも。


ようやく、自分の足で一歩進めた気がした。


その時だった。


ギルドの奥から、慌ただしい足音が聞こえてきた。


扉が開き、ギルドマスターらしき大柄な男が姿を現す。


「ハズレ森の調査報告は本当か!」


ギルド内が静まり返る。


男はレインの前まで来ると、鋭い目で見下ろした。


「お前がハズレ森から変異種素材を持ち帰ったE級か」


「……はい」


「詳しく話を聞きたい」


その瞬間。


レインの視界に新しいログが浮かぶ。



【緊急クエスト】


『ハズレ森の異常を報告せよ』


分岐発生。


選択によって今後の評価が変化します。



レインは、報酬袋を握りしめた。


どうやら今日も、簡単には終わらないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ