TAKE 9 縛っていたのは
錠のついた、思い出という鎖。
せめて、錠を外してほしい。
ただの鎖なら、手放せるのに。
——
同窓会の日まで、あと2日。
「ミィ、同窓会どうする?」
「んん、シズは?」
「私は行くつもりだけど……。」
「じゃあ、私も行こうかな。」
「大丈夫なの?たぶん、来るよ?」
「……うん、そうだね。」
シズと別れた後の帰り道はなんだか、歩いているのに進んでいない。
そんな感覚だった。
ブーブー……
スマホの着信。
着信が終わり、スマホの画面を見ると、
メッセージ通知には、「話したい。」という1行が残っていた。
……まだ、帰りたくないな。
落ち着かない気持ちのまま、駅に向かう道を歩いていると、
お店の看板が目に入った。
『 Rings — When you're lost — 』
なんのお店だろう。
カランカラン。
中に入ると、店員は見当たらない。
壁側に並んでいる、名前のついた棚を順番に見ていく。
あ……。
『 アニバーサリーリング 』
ペアリング。——
「ミィ、誕生日おめでとう。」
「ありがとう。これ、ペアリング。」
「うん。
鎖つけとかないと、ミィはどっか行きそうだから。」
「毎日一緒にいるから、どこにも行けないけどね。」
「それでも足りないの。」
——まただ……。
「いらっしゃいませ。」
「え、はい。」
いつからいたんだろう……?
「何か気になるものがありましたら、ご試着もできますよ。」
「はい。」
薬指の指輪の棚に、もう一度視線を移す。
上から棚を見ていくと、
瑠璃色に白い筋がまだらに入った一粒石が、目に留まった。
その石が嵌め込まれている指輪を、
手に取った。
「これ、あんまりアニバーサリーリングっぽくないですね。」
「そう感じる方は多いかもしれませんね。
以前アニバーサリーリングを購入されたお客様は、
この指に指輪をつけたら、やっと冷静になることができた。
そうおっしゃっていました。
いつその指につけるかは、お客様次第、ということかもしれませんね。」
私はその石のついた指輪を、右手の薬指に嵌めた。
その瞬間、私の一番奥にある
思い出したくないシーンが、蘇る——
「ごめん。
勝手かもしれないけど、
俺、ミィといると、ダメになる。」
「なんで?別に、会う時間減らせば……。」
「一緒にいると、他のことがどうでもよくなっちゃうんだよ。
俺、ホントダメだな。
ごめん。」
——見たくなかったから、奥に押し込んでたのかもしれない。
「……冷静になるって、残酷なのかもしれませんね。」
「はい。その時を受け止めなければ、前に進めませんから。」
彼女の言葉に反応するように目を向けると、
言葉に似つかわしくない笑顔が、私を今に連れてきてくれた。
受け止める。
そっか……見えなかったのは……。
「この指輪、買います。」
「ありがとうございます。着けて帰られますか?」
「はい。」
店を出た後、なんだか不思議な感覚があった。
ふと、振り返ると、その店は変わらずそこにあった。
なんか変な感じだけど……そうだよね。
なくなるわけない、よね。
数日後、同窓会の日が来た。
一緒に行く予定だったシズは、少し遅れると連絡があった。
「ふぅ……。」
店の前まで来た時、聞き慣れた声がした。
「ミィ、久しぶり。」
「久しぶりだね。」
「髪型、変えたんだな。」
「うん。」
「同窓会、来ないかと思った。」
「……」
「少し、話せる?」
近くの自動販売機の横のベンチに、私たちは並んで座った。
「懐かしいなぁ。金なくて、よく公園で喋ってたね。」
「そうだね。
それでも、よかった。」
「……ミィ、あの時は、ごめん。」
「もう、終わったことだよ。」
「あのさ、友達みたいに戻って、
もう一回……」
ふと、右手の薬指の指輪を、そっとなぞる。
「友達にはなれないよ。
私にとっては、この先もずっと、
大好きだった人だもん。」
「俺は……」
「あの指輪もらった時、本当に幸せだった。
でも今は、指輪の跡……もう消えたんだよ。
先に行ってるね。」




