TAKE 8 いい距離に
切れない絆は、
見えないくらいで、
ちょうどいい。
——
「お姉ちゃん、久しぶり。」
「キョウちゃん、どうして連絡してくれなかったの。」
「ちょっと、仕事忙しくて。」
「家族なんだから、時間がなくても連絡くらいできるでしょ。」
「……ごめんね。」
「お母さん、今回は数日の入院で済んだけど、
あたしたちが見てあげないとね。」
「うん。」
「キョウちゃんは、次いつ来れる?」
「確認してみないと、今すぐは……。」
「お母さん、口では言わないだけで、もっとキョウちゃんに会いたいと思うよ。
施設に入ってから、家にいた時より寂しいんだよ。」
「……そうだね。考えてみるよ。」
面会の後、姉から解放されたのは、
20時を回った頃だった。
ブブ、ブブ。
カバンに入っているスマホの振動が、
手に響いてくるのを感じた。
「はぁ……。」
駅に向かう道を歩いていると、
薄茶色の優しい色に光っている看板を見つけた。
こんな時間に、飲食店かな?
看板に近づいてみると、
Rings……と白い文字で書かれていた。
指輪かな。
帰る気になれないし、
店に入ってみることにした。
カランカラン。
中はとても静かで、なんだか少し安心した。
『ミドルフィンガーリング』と書かれたプレートが目に留まった。
ちょうど私の目の高さ。
2段目の棚に飾られたマネキンには、
中指に指輪が嵌められている。
ここの棚は中指用ってことかな。
「いらっしゃいませ。」
突然、後ろから女性の声がした。
「あ、はい。」
「ゆっくりご覧になってください。」
「ありがとうございます。でも、時間も遅いので、
ご迷惑にならない程度にします。」
「とんでもありません。時間はお気になさらないでください。」
「はい……。」
結構お店、遅くまでやってるのかな。
「ここの棚は、中指専用の指輪なんですね。」
「指輪は、着ける指によって、少し違うだけなんです。
棚の並びを見ると、そんなふうに見えてしまうのかもしれませんね。」
着ける指によって……違う?
棚に向き直った時、気になっていたものを手に取った。
ラベンダー色に、白に近いグレーが混ざったような、小さな石。
「試着してみても、いいでしょうか。」
「もちろんです。」
右手の中指に、指輪を嵌めた。
一色じゃない石は、やさしい。
肩の力が抜けていく。
そんな感じがした。
「いいですね。この指輪。」
「中指の指輪は、バランスを取ってくれる。
そうおっしゃっていたお客様が、いらっしゃいました。」
「バランス……。ちょうど真ん中だからかな。」
「ええ、
お客様の言葉を聞いて、なんだか納得してしまいました。
見た目のバランスと、着け心地のバランスは、少し違う感じがします。
人間関係にも、少し似てるかもしれませんね。」
着け心地。
「……そうかもしれませんね。」
近くなくても、いいのかな。
指輪に、もう一度目を向けた。
お店のペンダントライトに照らされて、
一瞬、ラベンダー色だけが輝いて見えた。
「この指輪、買います。」
「かしこまりました。着けて帰られますか?」
「はい。」
店を出たあと、
未読になっている姉とのトーク画面を開いた。
「次、いつかわかったら連絡してね?」
……。
返信を書いた。
「次は、
仕事の後でも、行ける日に行くよ。
一人でも。」




