TAKE 10 持っているもの
何かに気づく時、
気づいたあとの時間に比べれば、
意味なんて、
ないのと同じかもしれない。
——
この店、だよな。
前に来たのは、6年くらい前か。
今日で、3回目。
買った指輪を取り出そうと、
カバンの中をまさぐっていると、
「すいません、落ちましたよ。」
「え、あぁ、すいません。ありがとうございます。」
その女性は、紙切れを俺に渡すと、
軽くおじきをして、店に入っていった。
俺も行くかな。
カランカラン。
「いらっしゃいませ。」
店に入った時、少しの怖さと、
違和感。
「あの、さっき女の人が店に入って行ったと思ったんですが。」
「はい。指輪をご購入されて、たった今、お帰りになられました。」
「え……?」
でも、今すれ違って……。
「ごゆっくり、ご覧ください。」
俺の目の前には、前に来た時と全く変わらない姿の女性店員。
前に来たとき、俺は、迷っていた。——
「転勤のこと、まだ気にしてるの?
予定日はまだ先だし、
あなたのご両親も協力してくれるって言ってくれてる。
だから、大丈夫。」
「……でも、初めてだし、やっぱり不安だよ。」
「仕方ないよ。仕事なんだから。どこのおうちでもあることでしょ。」
「それは、そうだけど。」
——結局、あの時ここで指輪を買ったから……。
きっかけに、なったんだ。
俺の前に今あるのは、『 ピンキーリング 』。
目についたソレに、伸ばしかけた手が、
止まった。
俺は……本当に、いいのか?
人生を、指輪で……。
「ご試着、迷っていらっしゃいますか?」
「あぁ、いえ……そういうわけでは、ないんですけど。」
「迷うのは、当然ですね。」
「え?」
「その指輪は、
あなたに選ばれた……それだけですよね。
指輪は、何も言ってはくれませんから。」
……。
「でも……指輪を選んでくれるのは……。」
「いいえ。
見つけるのは、お客様ですから。」
見つける……?
——
「必ず、何かあったら連絡して。」
「わかってる。大丈夫だよ。」
「本当は、仕事を変える選択肢もあると思ってるけど、
今じゃない……気がしてる。」
「うん。」
「ごめん。」
「大袈裟だなぁ。
私ね、この子に会いたいんだぁ。
それだけだよ。」
——あの時も、そうだったよな。
そうか。
決めたのは……
「今日は、これを試着させてください。」
「はい、どうぞ。」
指輪を受け取って、右手の小指に、ゆっくりと嵌めた。
これでいい。
「……一つ気になっていたんですが、このお店、少し不思議ですね。」
「そうかもしれませんね。
ここでの事は、ないのと同じ。
ということになるのかもしれません。」
「……そうですか。
この指輪、買います。」
「かしこまりました。着けて帰られますか?」
「ええ、そうします。」
店を出ると、前にはさっきの女性が歩いていた。
その人の右手の薬指には、指輪が嵌められている。
「さっきは、してなかったよな。」
小指の指輪に、そっと触れた。
その意味を、確かめるように——
次回の更新——8月4日(火)
TAKE 11 光への道 【最終話】




