TAKE 6 あと、少し
カタチを変えたら、
進める関係も、あるのかもしれない。
向き合っていくことでしか、
伝わらない信頼も、きっとあるから。
少しずつ。——
「アヤさん、昨日言ってた商品なんですけど。」
「あぁ、ミクちゃん。なんかあった?」
「やっぱり数量減らした方がいいかもしれないです。」
「なんで?」
「少しデザインが個性的なので。」
「そっかぁ。その方がいいかもね。」
「じゃあ、まだ間に合うので、調整しときますね。」
「うん、ありがとう。」
ミクちゃんは、頼りになるなぁ。
足りないところ、ちゃんと補ってくれる。
誘いたい気持ちはある。
けど……。
今日は……まだ早い、かな。
少しだけ沈んだ気持ちを消化しながら、
帰り支度を整えて、会社を出た。
いつもならタクシー使うんだけど……。
今日は、駅まで歩こうかなぁ。
少しぼんやりと歩いていると、いつの間にか静かな道にいた。
あれ、道間違えた?
辺りを見渡すと、まだ営業中らしいお店を見つけた。
ん、なんの店だろう。
近づくと、店の中には女性の店員がいるようだった。
店員が女性ということも気になって、
入ってみることにした。
カランカラン。
「まだ、大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです。
いらっしゃいませ。」
明るいのに落ち着いた照明。
いいお店。
「指輪専門なんですね?」
「はい。」
『 サムリング 』
親指はサムリングかぁ。
「何か気になるものがありましたら、ご試着もできます。」
「はい。
サムリングが、少し。」
「これって、女性だとどちらの指につけるとか、あるんですか?」
「いえ、どちらでも着けやすい指でいいと思います。
決まりはないですから。」
「なるほど……この、オレンジ色の小さな石がついてるやつ、
試着してもいいですか?
私、オレンジ好きなんです。」
「はい、きっとお似合いになると思います。」
手渡された指輪を、右手の親指に嵌めてみた。
手を掲げるように指輪を見つめていると、
オレンジ色が、ライトに照らされて、
暖かく光が差してるみたいで。
吸い込まれるみたいなのに、暖かい色……。
なぜかその時、
ミクちゃんと食事に行った時のことを思い出した。——
「アヤさんは、何か目標とかあるんですか?」
「んん……そうだなぁ。
お店を、持ちたい。」
「えぇー!すごい。いいじゃないですかぁ。」
「はは、でもね、一人じゃ難しいし、パートナーは欲しい。」
「なんかいいなぁ。
私は、何かしたくても、一歩を踏み出すのが……。」
ミクちゃんは、共同経営には興味ないのかな。
——思い出した光景に、少し沈んでしまう。
あのときに、言うべきだったよね。
指輪を外そうと、指に手をかけた時だった。
「右手の親指の指輪を選ばれるお客様は、
少し、強くなれる。
そんなふうにおっしゃる方がいらっしゃいました。」
「強くなれる、ですか。
勇気をもらえる……みたいな感じでしょうか。」
「そうかもしれませんね。
強くなれると思える瞬間が、
必要になる時も、あるのかもしれませんね。」
「……それって、本当は強くないってことですか?」
聞くんじゃなかった。
変なこと言っちゃったな。
「どうなんでしょう。
私はそれが、強くないとは思わないですが。」
え……?
ちょっとは、変われるのかな。
「この指輪に、私も少し、頼ってみようかな。」
「そういう時があっても、いいと思います。」
「はい……私も、そう思います。」
指輪を購入した後、親指の指輪の感触をもう一度確かめる。
……すぐに、お店の話をできなくてもいいのかもしれない。
関係を、少しずつ、変えていけるように。




