TAKE 5 この手の中に
満たされない気持ちは、
満たされている時の、
副作用になるのかもしれない——
2日ぶりにスーパーで買い物を済ませた。
ファーストフードでドリンクを買って、テラス席に座ってアイスティーを飲んでいる。
時間を潰すためか、喉を潤すためなのか。
沈んでいく、夕陽を見ながら。
ふと考えてしまう。
結婚して、15年が経った。
子供はいない。
それでも、夫婦二人で楽しく生活している。
二人だからある、自由も。
薄くなったアイスティーを飲み干して、
自宅へ向かう道を歩いていく。
今日は、普段あまり立ち寄らないファーストフードに入った。
帰り道も、少し変わった場所を通ろうかな。
大通りを抜け、路地を曲がると、お店を見つけた。
夕陽に照らされて、見えにくい。
R……gs
目を細めながら、近づいていく。
Ringsか。
あぁ、指輪。
自分の薬指に、視線を落とす。
気持ちが変わるのかな。
カランカラン。
あれ、誰もいない?
やってるのかな。
「すいません。」
勝手に見て回るのも気が引けたので、声をかけてみる。
「いらっしゃいませ。」
「うわっ、あ、ごめんなさい。はい。」
気づくと、突然すぐ横に髪の長い女性がいた。
「こちらこそ、失礼いたしました。驚かせてしまいましたね。」
「いえ、ちょっと大袈裟になってしまって。」
少し伏せていた目を上げると、私の前の壁には、
『ピンキーリング』と書かれたプレートがあった。
横のハンドマネキンは、ピンキーリングを嵌めた二つの手が、
小指を絡めている。
「この、ピンキーリングは、ペアリングというわけではないですよね?」
「このリングは、ペアでもお使いいただけますよ。」
「でも、夫婦でピンキーリングをペアでつけるのは、何か、
違いますよね?」
「いえいえ、
一緒にいられる幸せを離したくない。
そういう思いから、ペアで選んでいかれる方もいらっしゃいますよ。」
一緒に……いられる幸せ。
薬指に、当たり前にそこにある指輪。
久しぶりに、指輪の存在を感じる。
「それを……幸せだと思うことは、おかしいことでは、ないんですね。」
「……何かを見て、何かを感じて、幸せだと思う。
誰かと一緒にいることで、心地いい時間を過ごせること。
全部、同じように幸せなことだと思います。」
何?
少し目が熱くなって、涙が溜まっていく感じ。
「……そうですね。」
「はい。」
「このピンキーリング、試着してもいいですか?」
「はい、どうぞ。」
差し出してくれた指輪を、左手の小指にそっと嵌めた。
くすんでしまった結婚指輪に並んだ、
小指の指輪。
彼が、結婚前に言ってくれた言葉が蘇る——
「二人でいられれば、いいよ。」
「どっちかが先に死んじゃったら?」
「生きてるほうが、好物をお供えしよう。」
「何それ?私が先だったら?」
「エビフライ。」
「いいね。それ!」
——今も、変わらない。
これからの時間は、この指輪に。
「……この指輪、買います。
ペアで。」
「ありがとうございます。着けて行かれますか?」
「いえ、一緒に着けます。」
自宅に帰って、指輪を眺めていると、
低くて、疲れた夫の声がした。
「ただいまぁ。」
「おかえりなさい。」
「なんかあった?」
「今日、買い物しちゃった。」
不思議そうな夫の手をとって、左手の小指に。
もう一つの指輪を、夫に預ける。
優しい顔で夫は、指輪を私の左手の小指に嵌めてくれた。
「何これ?」
私は指輪を嵌めた小指を、静かに夫の小指に絡める。
「……捕まえた。」
夫は少し、眉間に皺を寄せて言った。
「捕まった……。今日ご飯何?」
「エビフライ。」
「いいね。」




