TAKE 4 祈り
——あの時の、とても小さくて、カケラみたいな約束。
それでも、なかったことになんて……
——
「俺、引っ越すことになった。」
「そうなの?いつ?」
「……たぶん、来月くらいだと思う。」
そんなにすぐなんだ。
「……どこに?」
「北海道。」
「そうなんだ。」
遠いよ……。
——どうしてるかなぁ。
懐かしいな。
「さて、明日から出張かぁ。」
ベッドに入ってから、スマホを変えても残していた写真を眺めていた。
思い出した、昔の余韻を感じながら。
スマホの時計が0時を回った頃、
照明を消して、眠りについた。
ジリリリー。
「……んん。」
身支度を整えて、家を出る。
少し足りないもの、買いに行こう。
まだ時間あるし。
駅に向かって歩く途中、お店を見つけた。
ん、なんの店?
近づいてみると、
Rings……と書いてある。
アクセサリーか。
時計を確認してみると、まだ10時を回ったところだった。
久しぶりに思い出したから、というわけじゃないけど。
少し……オシャレしとこうかな。
カランカラーン。
店に入ると、朝なのに夕方みたいな、夜みたいな。
ここって……。
なんとなく振り返って、外の様子を見てみても、
景色は変わってはいない。
なんか、静かだな。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりご覧ください。」
「はい、どうも。」
にこやかな背の高い女性が、いつの間にかそこにいた。
女性の後ろの棚の壁には、『アニバーサリーリング』というプレートが見えた。
婚約指輪?
マリッジリング。
私には、関係ないけど。
そう思いながらも、
2つの手のマネキンが手のひらを合わせてつけている二つの指輪は、
なんだか、目が離せなかった。
ん……この二つって、デザイン違う?
「この指輪はデザインが違うんです。
でも、こうして重ねてつけると、
内側にギリシャ語が浮かび上がるように作られているんです。」
「これ……二つで一つってことは、
二人で一つずつ付けるということですか?」
「いえいえ、特に制約はありません。
大切な人と繋がっていたいと、願いを込めて選ばれる方もいらっしゃいます。」
繋がり。
「ギリシャ語って、なんて書いてあるんですか?」
「ふふ、それが……わからないんです。」
「えぇー!」
「私が、ギリシャ語は読めないということもありますが、
わからないことがあっても、いいような気がするんです。」
「……そう、ですか。」
この人……ちょっと、変わってる。
「あの、この2つ……重ねて試着してみてもいいですか?」
「もちろんです。」
女性店員から指輪を受け取って、
左手の薬指に嵌めた。
重ね付けっていうより、1つの指輪みたい。
付け心地を確かめるように眺めていると、
彼の言葉を思い出した。——
「もし、またどっかで会ったら、結婚するのもいいかもね。」
「いいね。お互い相手がいなかったらね。」
「……そうだな。いなかったらね。」
——やっぱり、なかったことにしたくない。
2つの指輪を外して、重ねたまま内側を見てみる。
『Desmos』……で、いいのかな。
どういう意味だろう。
でも、なんか……。
「一つの指輪だと思って、つけるのもいいんですよね。」
「はい、もちろんです。」
文字の意味……いつか、見つけられるかな。
「……これ、買います。」
「ありがとうございます。
着けて行かれますか?」
「はい。」
店を出て、時間を確認する。
10時か。
よかったぁ。
ゆっくりしちゃったと思ったけど。
飛行機の時間も、まだある、し……?
あれ、でもお店に入ったのって……。
「時間……。」
……もう行かなきゃ。
出張先では、やっぱり言われちゃったけど。
「ご結婚されてるんですね。」
「あぁ、そういうわけではないんですけど。
ちょっと……約束があるんです。」




