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TAKE 3 今を、見つめて

いつもの土曜日と、変わらない1日。


それだけで、十分だと思っていた。


残っているものが、まだあったから。——


「サタデーセットを1つ、飲み物はアイスコーヒーで。」


「かしこまりました。お席にお持ちいたします。」


「はい。」


この席でいいか。


今日は少し混んでるな。


「いらっしゃいませー。」


席に座ろうとした瞬間、

聞こえてきた店員の声に、体が反応した。


泣いている子供を連れて入ってきたお客。

入り口からすぐの席に、座らせている。


いるわけない……。


「パパぁー。パァパー。」


「ここで待ってて、ジュース買ってくる。」


「やぁだぁー。」


……大変そうだな。


つい、こんな光景を目にすると思い出してしまう。——


「パパ、何飲んでるの?」


「アイスコーヒー。苦くて美味しいよ。」


「えぇー、シロップ入れればいいのにぃ。

ねぇ、ママはいつ来るの?」


「今日は用事があって、出掛けてるよ。


飲み終わったら、映画でも見に行くか。

どう?パパとデート。」


「デート!行きたいー!ポップコーンは?」


「食べようか。」


「一番大きいやつね。」


「はは、食べきれないだろ。」


「……じゃあ、中くらいのやつにする。

でもさ、食べきれなかったら、もう一回映画見る?」


「もう一回?」


「うん。」


「じゃあ、食べきれなかったらな。」


「……わかった。」


——あの時、なんで2回だったんだ。


……もう遅いよな。


「お待たせいたしました。」


「はいはい。どうもありがとう。」


セットのサラダドックを食べた後は、ゆっくり読書をした。


好きな歴史小説を半分ほど読み進めて、

しおり紐を挟んで閉じる。


周りのお客の数はずいぶん減って、

店に来た時より、静かになっていた。


腕時計に目をやると、13時半。


何気なく外の様子を見ると、家族連ればかりが目に入る。


「ふぅ……。」


氷まで溶け切った2杯目のアイスコーヒー。

もう、店に居座る気にはなれなかった。


店を出た後は、散歩がてらしばらく歩くことにした。


30分くらい歩くと、駅からは離れて静かな住宅街だった。


1件の店を除いて。


「Rings ー When you're lost ー」


迷った時の、指輪?


次来ることもないかもしれないしな……。


カランカラーン。


……音が、消えたな。


「いらっしゃいませ。」


「あぁ、どうも。

俺みたいなおっさんでも、見て大丈夫?」


「いえいえ、見つけて頂けたということです。」


見つけた?


「……あぁ、なんかね、気になっちゃったよ。」


「ありがとうございます。

ぜひ、ゆっくりご覧になってください。」


「どうもありがとう。」


すぐに目についたのは

マネキンの中指に付けられている、少し太めの指輪。

その後ろの壁には、ミドルフィンガーリングと書かれたプレート。


中指の指輪はこういう呼び方ってことか。


「存在感あるね。」


「そうですね。

指の中心の、一番長い指だからかもしれませんね。」


つける指が違うと、指輪の名前も変わる、か。


「これ、いいね。」


淡いブルーと黒の四角い石が並んで嵌め込まれた指輪を、手に取ってみる。


「あ、勝手に触ってごめんね。試着してみても大丈夫?」


「はい、どうぞ。」


左手の中指にその指輪を嵌めてみた。


「なんか、落ち着くな。」


「中指の指輪は、緊張を和らげてくれると、選ばれる方もいらっしゃいます。

自分のことを受け入れられる、と。」


「……受け入れる、か。」


「普段指輪をされない方でも、

少し変わることができるかもしれないと思える。


私の感覚ですが、そんな気がします。」


「そうかもしれないね。


この指輪、もらうよ。」


なぜか目を引くその指輪を見つめながら、

店員に言った。


「ありがとうございます。」


「お姉さん、

会えない時間にも、何か意味があるのかな?」


「そうですね。


そういう時間も、必要なのかもしれません。

準備は必要ですから。」


「……はは、そうだね。着けて帰るよ。」


「はい、ではそのように準備させていただきます。」


帰り道、昼下がりの住宅街。

日差しに向かって左手を掲げると、

反射して指輪が光っているようだった。


会える……なんて、あるのかな。


信じてみたいな。


「眩しいな。」


自宅に戻った後、

いつも持ち歩いている本の、一番最後のページ。


挟んでいた、古い写真を取り出す。


こんなふうに、笑ってるといいけどな。







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