表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
保険室からはじまる異世界転記  作者: 早暁の空
第2章 風のゆくえ
60/62

ノクティル海 ⑥

第59話 土の奪還


優は横に立つ風紀へと、そっと視線を向けた。


(風紀さん、風の力で私たちを穴から出してもらえませんか?)


風紀はしばらく優を見つめ、やがて諦めたように小さくため息をつく。


「……御意」


その人間らしい反応に、優は思わず苦笑した。


次の瞬間、柔らかな風が優と茜の体をふわりと包み込む。抵抗なく持ち上げられ、二人はゆっくりと穴の外へ運ばれ、そのまま静かに地面へ降ろされた。


「気をつけるのじゃぞ」


優しい眼差しを向ける風紀に、優は一度だけ目を細め、息を整えてから静かに頷く。


「お主もだぞ」


視線を向けると、風妃はどこか不安げに眉を寄せていた。


その様子に、茜はニッと口角を上げる。


「おう」


軽く答えた、その瞬間だった。


ヒュッ、と空気を裂く音。放たれた矢が二人へ迫る。


「っ!」


優と茜は同時に左右へ跳び、矢をかわした。矢はすぐ脇を掠め、地面へと突き刺さる。


着地と同時に、優の視界に鈴奈の姿が飛び込む。踏み込みと同時に鈴奈の体がしなやかに回転し、腰のひねりを乗せた回し蹴りが風を裂いて迫った。


優は体を横に捻り、その一撃を紙一重でかわす。


しかし鈴奈は止まらない。着地の勢いのまま低く沈み込み、滑るように足を払った。


足元を崩され、優の体勢が大きく揺らぐ。


(しまっ……)


視線が上がる。次の瞬間、体が宙に浮いた。


受け身を取る間もなく、優は地面へと倒れ込んだ。


すぐに鈴奈が踏み込み、追撃の拳が振り下ろされる。


優は咄嗟に体を投げ出し、砂を巻き上げながら地面を転がった。


その一撃は空を切る。


(そうだよね……簡単には近づけさせてくれない)


そう思った瞬間、足元がぐらりと揺れた。


「っ!」


次の瞬間、地面がせり上がり、優の体を突き上げる。


支えを失い、優はそのまま落下した。


砂の上に叩きつけられ、衝撃が背中を抜ける。肺の空気が押し出され、思わず息が詰まる。


砂煙が舞い、視界が白く染まる。


「っ……」


痛みを押し殺しながら、優は歯を食いしばった。


その時、鈴奈が優の上に馬乗りになり、逃げ道を塞ぐように体を低く落とした。


「っ!」


目を見開いた優に、鈴奈は拳を振り上げた。だが、その拳は振り下ろされる直前でぴたりと止まる。


ハッと視線を上げると、鈴奈はどこか困ったような表情をして優を見下ろしていた。


(鈴奈……さん?)


優と目が合うと、鈴奈は目を泳がせながらゆっくりと手を伸ばす。それを見た優は、慌ててその手を取り返した。


(今なら!)


優は一瞬息を呑み、切迫した表情のままバッと風紀を見た。


(風紀さん! 私たちを穴に落として!)

「承知した」


頷くと、風紀は竜巻を操り、二人の体をやわらかく包み込むようにして、ゆっくりと穴の中へと下ろした。


(風紀さん)


優は視線を上げ、まっすぐに風紀を見つめた。


「なんだ?」

(もう1つ、わがままを聞いてくれますか?)


風紀は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐにその表情を緩める。


「なんだい?」

(ネックレスを茜さんからもらって来てくれませんか?)

「承知した」


風紀は短く答えると、穴の外へと飛び立っていった。


鈴奈が静かに立ち上がり、地面を踏みしめた。優はその動きを視界の端で捉え、すぐに構えを取る。空気が張り詰めた次の瞬間、鈴奈が踏み込み、鋭い蹴りを放った。


「っ!」


優は腕で受け止めるが、その勢いに押されて一歩後ろへと下がる。間髪入れず鈴奈は体を回転させて回し蹴りを繰り出す。優はしゃがみ込み、その攻撃を回避すると同時に足払いを仕掛ける。


しかし鈴奈は軽やかに飛び上がり、その場を離れた。


優は息を整える。(同じ手は通用しないか!)


その瞬間、放たれたパンチを腕で受け止める。だが、その隙を突かれ、腹部に強烈な蹴りが入った。


「!!」


声を漏らし、痛みに優は身をかがめる。そこへ鈴奈が素早く距離を詰め、首元へと手を振り上げて叩き込む。


「っ!」


鋭い衝撃が走り、優の意識が一瞬揺らいだ。


追い打ちをかけるように、鈴奈はさらに距離を詰める。優の首へ腕を回そうとする動きに、逃げ場はない。


(しまった!)


鈴奈の動きが止まらない。


(来る!)


意識が遠のきかける中、優は必死に食らいつく。


(どうする……!)


その時、張り詰めた空気を裂くように、風紀の声が響く。


「優!」


その声に、優は咄嗟に身をかがめ、すぐさま立ち上がった。鈴奈は反応しきれず、優の頭が鈴奈の顎に強く当たる。


「っ…!」


思わず痛みに顔を歪め、鈴奈は一歩後ろへと下がった。優はその隙を逃さず、鈴奈の腕を掴むと、そのまま力を込めて捻り、仰向けにして押さえ込んだ。


鈴奈は一瞬、体を仰け反らせ、目を大きく見開いた。だがやがて、パチパチと瞬きを繰り返し、ゆっくりと優へと視線を向ける。


「ゆ……う?」


その声を聞いた瞬間、優はほっとしたように微笑を浮かべた。


――次の瞬間、体に激しい痛みが走る。


「っ!」


思わず声を漏らし、そのまま力が抜けるように倒れ込んだ。


「優!」


鈴奈は叫びながら、すぐに駆け寄る。


優の体には断続的に痛みが走り、呼吸すらままならない。息を吸おうとしても浅く途切れ、うまく空気が入ってこない。


じわりと嫌な汗がにじみ、全身を伝っていく。


優は苦しげに、浅い呼吸を何度も繰り返していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ