26 兄妹(+付き添い)の飲み会
東の辺境騎士団に招聘され、魔物狩りで競い合っていた兄達は、王城に戻るなりスドヴェスト王の暗殺未遂事件とそれに伴うルーチェの大怪我を知って大急ぎでルーチェの元に駆けつけたが、その時にはルーチェはすっかり傷も癒え、元気に職場に復帰していた。
コレッティ兄妹の飲み会は、スドヴェスト国王が二日遅れで帰国した翌日に開かれた。
初めは見合いのように大人しくしていた兄達だったが、酒が回るにつれてランドルフォは泣いてルーチェに詫びを入れながら、ルーチェの母がいかに素晴らしい人かを繰り返し語り、
「やっとお母さんを迎えることができると思ったんだよおっ! もう十年も父に悪いなあって思っててね。判るか? 十年だよ。ルーチェだって、俺が反対しなかったら生まれながらのご令嬢ちゃんだったんだ。お兄ちゃん、お世話したかったなあ…。絶対可愛かったよなあ。お兄ちゃん達はルーチェがお父さんとお母さんと、水入らずで暮らせるようにって思っててね、ルーチェが嫌いで出て行ったんじゃないんだよ」
と、涙目で訴えてきた。飲みっぷりもかなりウェットだった。
母のことを語るランドルフォは少し信者じみていて、崇拝者にありがちなように母のことはかなり美化されていた。
レオーネはそんな兄をからかいながら、水のように酒をあおってもけろっとしていて、ヴァレリオと共に様々な話題を振りまいた。東の森に出た新しい魔物の話や、オカルトじみた魔法使いの話、ルーチェが倒した魔犬の話になると、どこから聞いたのか魔犬を操る怪しい魔法の施し方の噂話も聞かせてくれた。あの元魔犬がビアンコとロッソと名付けられたことまで知っていて、どこからそんな情報を仕入れてくるのか不思議だった。
妹であるルーチェに王都のきれいどころを紹介してほしいなどと言ってきたが、あいにく第三騎士団には女性がいない。他とも交流が薄く、第二魔法騎士団に至っては多くの敵を作ってしまったので紹介できる当てはなかった。
そのうち、騎士団の中で誰が美人か、誰が凄腕か、と言った俗な話で盛り上がり、男三人はそろってかなりな量を飲み、ルーチェはそれなりに飲んで、機嫌良く過ごした。
店を出て兄と別れる前に、
「私、モンテヴェルディに戻るかも…」
と話すと、二人とも安心した顔を見せた。
「そうか。これで父上も喜ぶなあ」
とランドルフォに言われて、ルーチェはつい正直に
「家には戻らないけど」
と言ってしまった。
当然兄達から
「どういうことだ??」
「家じゃないって、一人で暮らす気か?」
と問い詰められたが、ヴァレリオが
「俺が連れて帰る」
と言ってルーチェの肩に手を置いたことで、そのまま兄達の泊まっている宿まで引っ張られ、四人で飲み直すことになった。
ルーチェは、モンテヴェルディでは、昼間は街に抜け出すことがあっても、夜はずっと一人で部屋にいた。
騎士団に入ってからは、初めの歓迎会は出たものの、それ以外は会と名のつく行事のある日は常に夜勤に回され、留守番をするのが常だった。
こんな風に誰かと飲み明かすなんてことは初めてで、ランドルフォの言うように、もし自分が生まれたときから領主の館にいたとしても、令嬢として育てられていたらこんな風に兄達と飲み明かすことはなかったんだろうな、と思うと、今の生き方もまんざらではないかもしれない、と思えた。
「せっかく和解したのに、もう男にとられんのかよう!」
さらにウェットになるランドルフォをよしよしとなだめ、
「ヴァレ、いっそ、うちに養子に来いよ?」
と言うレオーネの提案を却下し、さりげなくルーチェを隣に置いて兄達と対等に話すヴァレリオを見ながら、こういう幸せもあるんだなあ、とルーチェは思った。




