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21 御前試合

 王城にある闘技場は、各騎士団の持つ修練場よりも大きく、四面に階段状に座席があり、観客席には招待された上位貴族の他、各騎士団の団員もいた。

 北面には王族が観覧する専用の観覧席があり、先にノルド王国の第二王妃と王子、王女が着席していた。警護のため、第一魔法騎士団長と第一騎士団長は観覧席後部に控え、それ以外の団長は数人の団員を連れて東南西の観客席に座っていた。

 スドヴェストの魔法師団長シルヴァーノは王族ではあったがその扱いを断り、ノルドの騎士団長と同じく東面の北寄りの席に座っていた。

 魔法騎士団員のうちでも防御魔法を得意とする者が一定間隔で観客席に配置され、特に王族の観覧席の周辺には重厚に守りがついていた。


 時間になると、ノルドとスドヴェストの国王夫妻が観覧席に現れ、ノルド国王から開会の宣言があった。

 まずは男子から。一回戦はノルドとスドヴェストの騎士が戦うことになっていた。実力は概ね拮抗、ややノルドの方が勝者が多いが、トーナメント戦なので二回戦以降は同国の者も敵になる。

 ヴァレリオは昨日言っていたとおり、少しきつい繕い魔法の入った髪紐でしっかりと髪を束ねていた。今日の試合では魔法は使わないことになっているが、いざという時には動けるようにしているのだろう。そして予告されたとおり、無表情な目をしていた。試合になると、研ぎ澄まされた動きで難なく勝ち進み、周りの黄色い声にも無反応だ。

 ああいうのをクールで素敵、と思う人もいるのだろう。しかしルーチェが知っているヴァレリオはそういう人ではない。心の死んでいる人を素敵とは思えなかった。


 男子の二回戦が終わると、女子の一回戦があった。女子は一回戦が四試合しかないので、試合運びも早く、一回戦が終わればもう準決勝だ。

 ルーチェは一回戦は勝つことができたが、二回戦はノルドの女性騎士団員の中でも最も強いと評される第二騎士団のアルバと当たってしまい、必死にくらいついたものの、ワイン樽をお土産にすることはできなかった。

 さすがの強さに感服しつつも、手合わせできたことが嬉しく、試合後の握手でも

「強くなってきたじゃない?」

と声をかけられ、思わずにたあっと笑ってしまい、

「ほら、顔、緩みすぎ!」

とあきれられてしまった。

 負けた者は観客席で観戦していたが、ルーチェは試合運営の補助もしていたのでそのまま闘技場内の端で待機していた。あまり見入っては仕事にならないが、強者の試合を間近で見られるいい機会だ。


 女子の準決勝が終わり、休憩時間がとられた。

 この後の男子の決勝は三人が総当たりで行われることになっていた。勝ち残ったのはスドヴェストのアレッシオとフィリポ、そしてノルドのヴァレリオだ。両国の王も誰が勝つかで話が盛り上がっているようだ。

 そのすぐ近くの東面では、スドヴェストの魔法師団長シルヴァーノが最上段の席に移動し、立ち上がっていた。片手で自分のローブの胸元を掴み、祈るような姿がルーチェの目を引いた。

 鎖を引いて取り出したのは、この前見た、紫色の石のついたペンダント。

 石を手で軽く撫でると、湧き上がろうとしていた黒い闇が収まった。それをもう一度ローブの内側に戻すと、遠くに目をやり、そのまま元の席に戻った。

 向かい側の西の席に、その様子を確認する者がいた。

 招待客のように見えたが、空いている席があるのにあえて高い段に座り、シルヴァーノが段を降りると、少しうろたえたような様子を見せた。しばらく時間をおいてから落ち着かない様子でその男も段を降り、一番前の席に移動した。

 近くにいた第二魔法騎士団のダリオに、魔法師団長と西の席にいる男の動きを話すと、ダリオは観客席にいるグイドに報告した。グイドがダリオに何か指示すると、ダリオはすぐに裏方に回り、しばらくして、西面の出入り口に追加で騎士団員が配置された。


 そのまま決勝戦が開始され、男子はスドヴェストの第三団所属のフィリポ、女子はアルバが優勝した。ヴァレリオはアレッシオには勝ち、二位だったが、悔しそうな様子も見せなかった。

 両国の王が勝者を労うため、闘技場内に入場した。

 ノルドの王が健闘を称えようとした時、西席の男が立ち上がり、手を振り上げた。その手の中には黒い瓶があった。

 しかし、黒い瓶を手から離そうとしても離れず、手を振り下ろすこともできず固まったまま、すぐ近くの騎士団員によって取り押さえられた。

 これで解決した、誰もがそう思った。

 しかし、男がもはや抵抗できないほど強い魔法で抑えられているにも関わらず、瓶が男の手から離れ、宙に浮いた。掴もうとした騎士団員の手をすり抜けて高く浮き上がり、加速しながら狙ったように闘技場内に落下した。

 割れた瓶から湧き上がった黒い煙が三つの塊になり、三匹の魔犬が現れた。

「そ、そんなまさか」

 第一魔法騎士団所属の者から、声が漏れた。

 現れたのは、先日捕獲したと言われていたあの魔犬らしい。


 両国の王は早々に闘技場の外へ誘導されていた。北面の王族の観覧席には即座に防御壁が張られ、王族は第一魔法騎士団により王城へと待避した。

 同時に闘技場と客席の間には四面に防御壁が張られ、闘技場内は閉ざされた空間となった。

 観客席にいた者は直ちに場外へと誘導され、残っているのは十数名の騎士団員だけだ。


 防御壁の中には、決勝に残った男三人、女二人、それにルーチェを含めた三名の騎士団員。

 三人で一匹の魔犬に対峙し、間もなくアルバが魔犬の首を落とした。しかしその首からは血だけではなく黒い煙が吹き出した。

 魔犬の近くにいた三人が返り血と共にその煙に巻かれた。息を止めるにも間に合わず、激しく咳き込みながらそろってその場に倒れてしまった。

 すぐに風が地面から吹き上がり、魔犬の瘴気を飛ばした。ヴァレリオの風魔法だ。

 そのヴァレリオが対峙した魔犬は、フィリポによって首を切られると同時にヴァレリオが氷魔法で首も体も固め、瘴気の吹き出しを防いだ。

 ルーチェが組んだ二人は魔法が使えないようだ。相手をする魔犬は凶暴な上、傷を付けると瘴気が出る。警戒しながらの戦いは長引き、先に魔犬を倒したヴァレリオが合流した。

「切ったら固める。迷わず切れ」

「わかった」

 ヴァレリオ自身も剣を構えている。ルーチェが切り損なっても自分が倒すつもりだ。

 実力はよく知っており、背中を預けても安心できる。

 ルーチェは味方に突進してきた魔犬に左から斬りかかり、脇に剣を突き刺した。

 すぐに氷魔法が発動し、ルーチェは魔犬から剣を抜いた。しかし、凍り固まる前にどこからか飛んできた剣が突き刺さり、剣に秘められていた炎の爆裂魔法で氷と魔犬が砕け、その勢いのまま闘技場内に瘴気が広がった。

 剣を投げたのは、決勝に残り、三位の成績を収めたスドヴェストの団員アレッシオ。ついさっきまでルーチェと共に魔犬と戦っていた者だった。

 すぐにヴァレリオが瘴気を空へと飛ばしたが、量の差はあれど、防御壁の内側にいた者は皆瘴気を吸っていた。アレッシオ自身もかなりの量を吸い込んだようで、首を押さえたままのたうち回っていた。魔犬が瘴気を帯びていることは判っていただろうに、その量までは把握し切れていなかったようだ。

 魔犬がいなくなり、闘技場の南面の防御壁が解除され、すぐに騎士団員が仲間の救出と、アレッシオの身柄確保に動き出した。

 ヴァレリオも瘴気を吸い込んだらしく、ひどく咳き込み、髪紐がほどけていた。ルーチェは急ぎ自分のつけていた髪紐でヴァレリオの髪をくくった。母の繕い魔法が入った髪紐なら、瘴気の影響を弱め、魔法の暴走も抑えることができるはずだ。

 代わりに落ちていたヴァレリオの髪紐を借り、広がる自分の髪を縛った。


 そこへ闘技場観客席の高い壁を越え、もう二匹の魔犬が飛び込んできた。

 一匹は防御壁が消された南からまだ負傷者が残る闘技場内へ、もう一匹は観客席へ向かった。観客席を走り抜ける魔犬はひときわ大きく、以前王都近くに出現し、ルーチェ達が討伐にかり出された魔犬集団のボスと思われた。騎士団がずっと追いかけながら捕らえることができなかった魔犬が、ここに来て自ら現れようとは。

 闘技場に入った魔犬は、外へ運ばれようとしていたアルバめがけて牙を剥いた。

 とっさにアルバと、アルバに肩を貸す騎士団員の前に立ったルーチェは、魔犬を剣でいなした。

 いた場所が良かったのか、吸い込んだ瘴気の量が少なかったのか、闘技場にいる中ではルーチェが一番ダメージが少ない。不思議なくらいに心が静まっていき、魔犬に集中する。


 他方、観客席側に向かった魔犬のボスは、階段席を器用に跳びはねながら、東面へと向かっていた。何かに狙いを定めながら明らかに憎悪を増し、より凶暴になっている。

 グイドが浄化魔法を展開し、闘技場、観客席を浄化した。瘴気を払うためだったが、それが苦しいのか、二匹の魔犬はますます怒りを顕わにした。闘技場の魔犬が背後からルーチェに飛びかかり、すぐによけたが、背中に二筋の爪痕がついた。

 裂けた服の背中からは血が滲んでいたが、ルーチェは痛がる様子も見せず、さっきまでの戦いに顔を歪めていた形相は一転し、何の感情も見せず、凍り付いたような目で魔犬を見ていた。

 さらに飛びかかってきた魔犬に、ルーチェは一太刀を浴びせた。

 血が吹き出たが、瘴気は出ない。さっきの瓶から出てきた魔犬たちは瘴気を放つための魔法を意図的に組み込まれていたのだろう。

 すぐに反撃してきた魔犬に、ルーチェは肩を嚼まれ、後ろに引かれて尻餅をついて倒れた。

 しかし、顔色一つ変えることなく体をひねり、片膝をつけて構え直すと、向かってくる魔犬の肩に剣を突き刺した。

「ギャウンッ」

 魔犬が悲鳴を上げて倒れた。ルーチェは剣を引き抜いたが、自身の右腕に違和感を感じ、剣を左に持ち替え、とどめを刺した。

 すぐに全面の防御壁が解除され、負傷者を運ぶ作業が再開された。


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