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Hello, GoodbyeHello…



ポールの歌と曲が大好きなんだ。


当時の英国では、若い男たちはビートルズをあまり聞かず。ストーンズを支持していた。


ビートルズは、女の子に凄い人気があって。女の子のためのバンドだと思われていたんだ。


確かにビートルズは、その初期には女の子受けする曲をやってた。


でも、アルバムを出す毎にアーティスティックで、ヘビィなバンドに変わって行った。


1度でいいからライブを見て見たかった。


彼らは叩き上げのライブバンドで、演奏もかなり上手かったらしい。


でも女の子の歓声がものすごくて…演奏も歌声も聞こえないくらいに人気が出ると。彼らはライブを止めてしまった。


スタジオに巣籠りして。アルバム作りに専念するようになったんだ。


生まれて初めてビートルズを聞いた訳じゃない。


知っていたし大好きだった。


ビートルズを聞くたび思った。


「俺だって、彼らみたいになれるかもしれない」


ビートルズはリバプールの出身。

リバプールは港町だ。


俺が生まれ育った町はバーミンガム。工業地帯。どちらも労働者階級の出身だ。 根拠はそれだけだ。


ジョンもポールも悪童。

学校を追い出されてる。


俺だって。


刑務所に入ったり。牛を殺したり。パブで飲んだくれてる間に。疎遠になっていた。


頭に花を飾り。路上で昼間からマリファナを吸い。


好きな場所にテントを張って。マリファナを吸って。好きな時にセックスして。川で水浴びして。


「食べ物はみんなで分け合おう!」


なんてぬかしてやがる。

ヒッピーの音楽が蔓延している。


俺はあいつらの頭に1発くらわす。そんな音楽をやるんじゃなかったのか。


本当はここの仕事も働いてる連中も俺は全然好きじゃない。


働いてる俺自身もだ。


処理場の1番偉い責任者と話した。


「この仕事をしていると、結婚にも難儀するらしいね。でも、誰かがやらなくてはいけない仕事なんだよ。みんな誇りを持って、働いていると思うが…」


そう俺に諭した。


確かに彼の言う通りだ。


だけど、ここで働いている人にそんな人はいない。少なくとも俺は違う。


豚を面白がって虐め殺す。誰かの後ろで、それを俺も面白いと思って…見てたんだ。


「貴方みたいな人が、この仕事をするべきだし。そういう人を採用すべきですよ」


俺が言うと彼は。


「募集しても来ないんだから仕方ないだろ!」


少し怒った声で言った。


「来ても、3日もったためしがないのが現実だ!」


「残りの仕事をこなして、もう1度考えて欲しい」


そう言われ俺は仕事に戻った。


動物の胃袋の周囲には、網脂と呼ばれる脂肪がついている。


それを切り取って。引き延ばし棒にかけて1晩置く。


次の朝に集めて袋詰めする。網脂は女性用の化粧品に使われるらしい。


俺が網脂をかける棒で作業する。その横で、エプロンの紐を切って来るやつがいた。


これをやられると。


私服が血塗れになってしまう。


何度も、何度も、切って来る。

しつこくやってくるやつが。


俺はその度放って置いた。


その日も、やつは後ろから忍び寄って来て。エプロンの紐を切った。


何も考えてはいなかった。


ただ振り向き様に。

手にしていた棒で。

やつの頭を殴りつけた。


ごん。


鈍い音がして.やつは足元に倒れた。


何度も何度も。


棒をやつの頭に降り下ろした。


誰かが止めなきゃ。

殺してたかも。


「出て行け!2度と戻って来るな!!!」


駆けつけた上司は俺にそう告げた。


週休2ポンド。

食肉処理場の仕事。 


そんな日々の終わりだった。


持ってる金で、買えるだけのビートルズのアルバムを買い込んで。


俺は家に帰った。


家に戻った俺は、毎日ビートルズのレコードを聴いて歌いまくった。


親父は、昔から顔を靴墨で黒く塗って、黒人みたいに歌うアル・ジョンソンという歌手の大ファンだった。


仕事帰りにパブでビールを1杯だけ引っかけ。彼の歌を歌いながら帰宅した。


1番上の姉が仕事をするようになると、チャック・ベリーやエルビス・プレスリーのレコードを買って帰った。


家族みんなで曲を覚えて。週末にファミリーコンサートみたいな事をした。


家族の前だったけど。俺が、人前で初めて歌ったのは、クリフ・リチャードの何とかいう曲だった。


クロス家は音楽好きの一家だった。


だから、俺が家にビートルズを持ち込んだ時。家族は皆大歓迎。


仕事を辞めた事には大失望。


シンガーになると宣言した事には。


絶句と無視。


親父はビートルズのレコードを聞いて。


「こいつらには5分先の未来も無い!」


一蹴した。


「歌心がないんだ。こいつらは…パブでさえ演奏させて貰えんだろう」


俺は親父には逆らったりしないのだ。が.この時ばかりは反論した。


「タックスマンは?ホエン・アイム・シックスティ・フォーは?あのメロディを聞いて何とも思わないなんて…耳がどうかしてるよ!」


親父は、一瞬だけ、きょとんとした顔で俺を見た。その後は何も言い返さなかった。


親父は、俺を外に連れ出した。バーミンガムにある楽器店で、50ワットのヴォックスというメーカーの、PAシステムを買ってくれた。


当時の金で250ポンドはしたと思う。


刑務所を逃れるための、賠償金40ポンドは出してくれなかった。親父がローンを組んで。PAを買ってくれた。


当時の常識として。


「バンドをやりたい!俺は歌が歌える!」


いくら叫んでも。PAを持っていなければ相手にされない。


そんな事は親父でも知っている事だった。


俺は、親父が死んだ後でも、自分が死ぬ日が来るまで。彼に感謝の気持ちを忘れない。


家族の食費も充分に稼げなかった。そんな親父が買ってくれたPAがなければ。俺はシンガーになんてなれなかった。


当然ながら、俺が自前のPAを持っていると知れ渡る。俺は地元のバンドから引っ張りだこになった。


PAを持って楽器を持ってるやつらのとこに行き。何でもかんでも手当たり次代歌った。


技術はなくても熱意だけはあった。


でも楽器があってもPAがあっても。パブで演奏出来る訳じゃない。


俺が組んだバンド。


とてもそんなレベルじゃなかった。


半年間ままならない状況が続いた。


俺は考えた末。バーミンガムの中心街にある。ショッピングモール。その中にある店に広告を出した。


プル・リングという名前のコンクリート作りのショッピングモール。

当時出来たばかりだった。


しかし、入り口の地下道には初日から、強盗や麻薬の売人がうろついていた。プル・リングは若者たちの溜まり場でもあった。


バーミンガムで1番いけてる店。リング・ウェイミュージックもその中にあった。


楽器店なんだけど、店の外には音楽好きの、見るからにかっこいい連中が集まって。タバコを吸ったり。音楽について議論したりしていた。


その店に広告を貼らせてもらった。


バンドを組んで。人前でライブをやらなくてはいけない!


人前に出れば。

出さえすれば。


「必ず人を楽しませる事が出来るはずだ!」


そう思っていた。


求む バンドメンバー!


当方経験豊富なシンガー!!


自前のPAもあり!!!


マッドマン・スターダスト


こんな俺でも何かが出来るはずだ


住所 ロッジ ロード…



マッドマンのルーツはNIB時代の俺のイメージ。


精神病院から脱走して来た。

見るからに危ないやつ。


バンドのメンバーがメンバーを紹介する時


「俺たちのバンドのマッドマン!」


そう紹介した…とか色々あるけど。


本当は違う。


俺はビートルズと同じくらい。

エルトン・ジョンが好きなんだ。


彼のアルバム【Mad Man Across To The Sea】から取ったんだ。


スターダストは適当だ。


とにかく本名はではなく。俺のばかは有名だから避けたかった。


ドアを誰かがノックする音がする。


出てみると長髪で髭を生やした。ナザレのイエスみたいな男が立っていた。


派手な紫のベルベットのパンツをはいている。


「どちら様?」


「マッドマン・スターダストか?」


「そういう自分は?」


「ギーク・チェスター。仲間からはギークって呼ばれてる。マッドマンの広告を見て来た!」


「ギークって」


「変人という意味だ」

「いいのか?」

「いいのだ!」


ギーク・チェスター。本名はロバート・チェスター。そんな立派な名前があるにも関わらず。「変人」と自らを友人知人に呼ばせている。


俺が知りあった中でも、彼はかなり特殊な部類に入る人間だった。


「ギークなんて変な名前だな!」


「マッドマン・スターダスト様に言われたくないな!」


「お前、どうして?そんな服を着たいと思ったんだ?」


ギークは、ライム・グリーンのシャツに、紫のベルボトム。銀色のプラットホーム・ブーツ姿だった。


「お前こそ」


俺も保守的な服装とは言い難い。

そんな格好をしていたが。


古いパジャマの上着をシャツ代わりに着て。酔って失くしてしまった、水道の蛇口の代わりに。今は湯たんぽを首からぶら下げていた。


金のないやつがロック・スターを気取るのも…楽じゃないって事だ。


大切なのは想像力だ。


「お前…そのヒヨコみたいな髪はなんだ?それではステージに立てないぞ!」


「これはMODSだ」


MODSとは、当時イギリスの若者の間で大流行していた。いけてる人たちと、そのライフスタイルを表す言葉だ。


ビートルズのロッカーズファッションに対抗したとも言われた。


髪を短かく下ろしたり。坊主やスキンヘッドの彼らは、米軍の払い下げのコートを羽織り。ユニオンジャックや、スカルがプリントされた、ミラーを沢山つけたスクーターに乗っていた。黒人音楽を好み。夜通しクラブで踊ったりしてたんだ。


そんな彼らのファッション。

当時の俺は傾倒していた。


けれど、頭を坊主にした後は、米軍のコートもスクーターも…手に入れる金もなかった。


結局坊主にしただけだ。


だから髪を戻そうとしている最中だった。


結局のところ、俺もギークも、駆け出しのバンド志望野郎に過ぎない。


けれど外見を見ると。俺は、何処かの精神病院を抜け出して来たイカレ野郎。ギークは業界の人間か、バンドマンに違いないと皆が思う。


そんな風体をしてたって事なんだ。


「俺の今いるバンド。ダウンジング・ボーイズって言うんだけど…知ってるか?」


「知ってるぞ!サイケデリックというか、ヒッピー音楽をやってるバンドだ」


「俺は、そこでリズムギターを担当してるんだ。そして先日ボーカルが抜けてね。お前、自前のPA持ってるんだろ?」


「ああ」


「なら決まりだ!」


その日ギークとの出会いから。


ダウンジング・ボーイズ。


俺はそのボーカルとなった。

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