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ピーターと友だち  作者: 六葉翼
バミンガ厶編
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7/36

slaughterhouse B



俺はディグベスの食肉工場に職を求めた。


ディグベスは、バーミンガム地方でも最も古い歴史のある地域だ。


俺の最初の仕事。


胃袋の中身を取り出す事だった。


仕事の初日から、俺の目の前には、羊の胃袋が山のように積まれていた。


俺は1つずつその胃袋を切り裂いては中身を全部取り出すんだ。


初日はずっと吐き通しだった。


4週間の間、1時間に1度は吐いていた。


自分の胃もぼろぼろになった。


誰かに不良品の胃を渡され。

からかわれたりした。


病気とか年老いて食肉にならない胃袋とか。


奇妙なかたちの胃袋が手の中で破裂した事もあった。


あれは火薬か何か仕込んであったのか。


中身も血も全部顔にかかって…それを見て皆笑うんだ。


その仕事にも酷い匂いにも慣れた。俺は職場で生まれて初めて昇進した。


「牛の息の根を止める係を明日からやれ」


上司に言われた時は素直に嬉しかった。


初めて職場で認められ。

給料も少しだけ上がった。


作業は5、6人のチームで行われた。


牛に縄をかけて。


処理専門の部屋に連れて行く。


牛はスロープを上がって。

台の上に連れて行かれる。


俺は、高圧でボルトを打ち込むタイプの銃を持って。牛の反対側に立つ。


銃の中には、空洞のカートリッジが入っていて、これが大きなボルトを牛の脳まで打ち込む圧力を生み出すんだ。


頭にボルトが打ち込まれる瞬間以外は、動物が痛みを感じない。そんな設計になっているらしい。


この銃の問題点は1撃で、牛の命を奪えない事と、至近距離で使わないといけない事だった。


牛を怒らせたり怯えさせたら。

それはもう手がつけられない。


ボルト1発で済む訳がない。

誰がやっても牛は大暴れした。


それでも何とか牛が倒れると、今度は足を縛って。移動用のレールに引っ掛ける。


逆さまに吊るされた牛は、処理用のラインに流れて行く。


誰かが途中で牛の喉を切り裂いて、下に空いた穴の中に血を流す。


それで牛はようやく失血死を遂げる。


ある時足を縛って、レールにかけても意識がある牛がいた。


牛は突然目を開け。

目の前で暴れだした。


俺は牛に蹴り飛ばされ。頭から血溜まりの穴の中に落とされた。


服も靴も髪も血にまみれた。


口の中も血で一杯になった。


穴の中には牛のありとあらゆるものがあった。


俺はバス通勤で…数週間は悪臭が取れず。誰も俺の隣に座らなかった。


18ヶ月。


俺はディグベスで働いた。


1通りの仕事は問題なくこなせるようになった。


羊だけでなく牛の胃袋も処理した。


牛の蹄を抜いたり…


牛の蹄をどうやって食べるのか。

未だに見当もつかないが。


豚の処理は牛より簡単だ。


片側にスポンジがついた、鋏状の電極を水に浸けて。豚の頭にのせボタンを押すだけ。


それで豚は気を失うのだが。牛同様気を失わない事も度々あった。


ここで働いてる人たちは誰も気にも止めなかった。


彼らは時々豚をおもちゃにして遊んだ。


まだ気を失っていない豚を煮えたぎる湯の中に放りこんだり。


処理した豚の毛を焼くためのバーナーに、生きたままの豚を放り込んだり。


随分酷い事をしていた。


それでもディグベスの仕事は嫌いじゃなかった。


仕事をしている人たちは皆楽しげで。互いに冗談を言い合う仲だった。


常に楽しい事を探している人たちだった。


仕事が終われば。


何時でも早く家に帰れた。


給料は毎週木曜日。

手渡しで支払われた。


俺は家に帰らず。

真っ直ぐパブに向かった。


パブには閉店時間までいて。その後はソウルを流しているクラブに行って。デキセドリンという覚醒剤を買って。


朝まで踊ってから。

また仕事に戻った。


気取ったいけすかない女がいれば。


女がトイレに立った隙に、カクテルのオリーブと、ポケットに入れた牛の目玉をすり替えたりしたんだ。


あれは楽しかった。


週末にだけ家に帰る。親父も母親も、俺の仕事が続いてる事にほっとした様子で。喜んで迎えてくれた。


その日も俺は牛の処理場にいた。


この牛1頭処理して、後は網脂を干す仕事を終えたら…今日の仕事は10時で終わるはずだった。


いつもと違う事があるとすれば。

処理場に誰かが持ち込んだ。


ラジオがある事だった。


ラジオはBBCの音楽番組を流していた。


ビートルズのハロー・グッバイが流れていた。


牛は大暴れしていた。


俺は銃を構えて牛の目の前に立つ。


牛は唸り。

涎を垂らし。

ひどく怒り。


ただ悲しみと怒りに混乱した瞳が、

俺の顔を真直に睨みつけていた。


ハロー ハロー


「何してんだ!?ピーター!!早くこいつの頭にそいつをぶち込め!!!」


ハロー ハロー


「そっちの縄しっかりつかんどけ!玉を蹴られるぞ!」


ハロー ハロー


僕はハローって…


君はさよなら…


狙いをそれたボルトが牛の片目を潰す。牛の顔を奇妙に変えて行く。


「なにしてる!このばか!!」


もっとボリュームを上げてくれないか。


顔に体に帰り血を浴びて。

仲間の罵声が響く中で。


俺は思った。


もっとボリュームを上げてくれ!


俺はこれを聞きたいんだ!


これしか聞きたくない。


牛の悲鳴なんか聞きたくない。


俺はその時思い出した。


ビートルズが好きだ。

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