snow blindⅡ
「ジュライザって名前は…」
「あばずれみたいでしょ?」
「ロックスターみたいだ」
「生まれたのが女の子だったから、父はロックスターと結婚させて、金づるにしようと企んだのかも」
「なら俺も候補に入れてくれ!」
「私、ブライアン・フェリーが好きなの」
年相応に夢見がちな。
甘みを帯びた口調。
英国ロック界きっての美男子。
だが俺はやつが気に食わねえ。
「あのメエメエ野郎か?」
「メエメエ野郎?」
「羊みたいな声で、メエメエ歌う…確かに男前なのは認めるけどさ」
「確かに!彼メエメエ歌うわ!」
「やつが、自分の歌や牧場でメエメエ歌うのは勝手だが…ビートルズのカバーを歌ったのは許せないんだ」
「ジョー・コッカーのバージョンは?」
「あれは許せる!」
ジョーコッカーのカバーは最高だ。
「素敵よね…声が好きなの!ブライアンの顔は好みだけど…声は好きじゃないな…あなたの言う通りね」
彼女は俺の顔を見て言った。
「私あなたの声が好きよ」
「アルバム聞いてくれたのか」
俺は恥ずかしくて。
彼女の顔をまともに見れない。
ちらりとトニーの方を見て。
彼女は声を密めて言った。
「でも、バンドの音は好きじゃない。あなたの声が好きなの…あなたの声は似てはないけれど」
「ジム・モリソンみたいに素敵!」
以外な人物の名前を口した。
「ジム・モリソンって…あのヒッピーの親玉か?」
もしそんなこと言う輩がいたら。
女じゃなきゃ殴ってるところだ。
けれど彼女は臆することはない。
「世間では…そう言われてるけど、彼の音楽はヒッピーとか関係ない」
「そもそも次元が違うわ!」
ジム・モリソンのバンドだな。
ドアーズのアルバムを買って。
さっそく家で聞いてみた。
かつて60年代3Jと当時呼ばれた。
ジム・モリソン、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス。
ヒッピー文化の代表。確かに当時は言われていたけど。彼等の音楽はそれぞれ違っていて。聞けはわかる。
素晴らしく孤高だった。
俺は酒を飲みながら。
ドアーズを聞きながら。
ジムに話しかけていた。
「太陽が月を壊し、月が太陽を壊すのか…向こう側へ突き抜けろって…向こう側って…どっち側だジム?」
「終わりが来ると…青いバスが迎えに来て…バスは満員で…ハイウェイが60マイルの蛇になって…蛇の皮は冷たいのか!厨ニだな!ビル!」
俺は、ヒッピーやヒッピーの好む音楽や、文化を敵視する事で。自らを鼓舞して。彼らを敵視して。
「あいつらをぶっ飛ばす!」
ひたすら前に進もうとしていた。
でも今はそんな必要はない。
過去に俺に酷い事をした人はいた。それにばかり囚われていたら。
前に進めないんだ。
ジム・モリソンは、メスカリンなんかのドラッグの力を借りて。
知覚の扉を開き。
向こう側へと。
彼は呪術師で。
彼幻視者だった。
それがドアーズというバンド。
水晶の船という曲を聞いた。
俺は1人で部屋で泣いた。
この曲を聞くと。彼が本当に境界線を飛び越えてしまい。あちら側に行ってしまったのが分かる。
俺は今バンドの仲間にも恵まれて。1人になるのがすごく怖かった。
バンドを辞めて1人になった時。
俺はドアーズのコンピレーション・アルバムで歌うよう誘われた。
俺のイメージからか、ロード・ハウス・ブルースを勧められた。
俺は水晶の船を歌ったんだ。
ジュライザがとても喜んで。
聞いてくれたのを覚えてる。
彼女はジム・モリソンのファンだったから。後に彼女から聞いた。
実はジム・モリソンが、俺と同じビートルズの大ファンで、終生リスペクトしていてたことを知った。
あと1曲カバーしたんだが。
さて今は思い出せないな。
この頃になると、やたら記憶が飛んでる事が多くてね。
「私が生まれて、母はすぐに病院から私を置いて、家から出て行ったの」
いつかジュライザが俺に話した。
「お母さんは…どうして」
「さあね、父と居たら、いつまでも切ったお腹の傷が治らないとか…思ったのかも」
あの日ジュライザは別れ際。
俺達に向かってこう言った。
「父とは契約しないで」
「けつの毛まで抜かれるわ!」
俺はジュライザに逢いたい。
いつもそう思うようになった。
だけど彼女に近づく事はそのまま、
バンドの危機を意味していた。
ビルの外に出ると外は雪。
雪は次第に強く降り続き。
俺達の視界を曇らせた。




