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ピーターと友だち  作者: 六葉翼
バミンガ厶編
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32/36

招待



「13日の金曜日に発売しよう」


それはギークのアイデアだった。


アメリカでマスクをつけた怪人が、

暴れまわる記念日になる前の話だ。


ちなみにギークは実家を出た。

1人暮らしする余裕などない。


彼の家は敬虔なクリスチャン一家。


「もし親父に、このアルバムを見られたら…即殺されると思ったんだ」


それで逃げたのか。

親父は怖いらしい。


アルバムは発売初日に5000枚売れた。


月曜日には50万枚に達した。英国チャートの4位にランクインした。


翌月にはアメリカで発売されたが、爆発的な売れ行きだと聞かされた。


一刻も早く。


ツアーに出なくては。

やることはひとつだ。


英国のマーケットは小さなものだ。


次に俺たちが目指すべきはアメリカ。アメリカツアーをしなくては。


アルバムレビューが、英国のローリング・ストーン誌に掲載された。


目まぐるしく過ぎて行く日々。

それはすでに始まっていた。


それでも、俺達はまだ、廃屋のリハーサル場を根城にしていた。


皆で集まって、買ったばかりのローリング・ストーン誌のレビューが載っているページを開いた。


『タイタニック号楽団の船出』


レビューはそれだけだった。


帆船の追い風にもならない。

むしろ逆風だし氷壁だった。


「英国のマスコミは…とりあえず、何でも貶《けな》すものだから」


ギークは大人だった。

でもお父さんは怖い。


「貶して、皮肉を言う、それが格好いいと思ってるんだよね!」


ビルも。


「アルバムは売れてるんだし、まあそう気にする事は…」


「記事を書いたやつの名前は覚えたからな!」


トニーは拳を震わせながら言った。


ビートルズのアルバムだって。彼らは褒めた事はないんだよ、トニー。


あのクイーンのアルバムレビューに彼らが何と書いたか。


バケツ一杯の小便。


こんなバンドが売れたら。

俺は帽子を食ってやる。


帽子のフルコースが必要だ。


「タイタニックに乗った楽団か…洒落た事を言うよな。俺達の音に合ってるよ!」


俺が言うとギークが。


「確かに的を得ている」


「これ褒めてんだ」


トニーも顔を上げて笑いだした。


「だが記者の名前は忘れん」


レッド・ツェッペリンは、デビュー以来、マスコミの取材には一切応じなかった。シングルのリリースさえしないから。テレビにも出ない。


イギリスのマスコミに。


「マスコミを無視する事で、結局はマスコミを利用しているのでは?」


そう批判された。彼らは段ボールにくるまれた、バンド名も、タイトルすら書かれていないアルバムをリリースした。


解散するまで発売したアルバムは、その作品も含め、全てが全英全米チャートで1位を獲得している。


彼らとビートルズだけだ。


トニーはロンドンで記事を書いた記者に会うなり。殴りかかっていた。



アルバムが発売されて8ヶ月が経った頃。


俺たちは、ロンドンに向かうロールスロイスの中にいた。生まれて初めてだ。ロールスロイスに乗った。


新しいアルバムの準備も出来ていた。しかし、アメリカでもアルバムがよく売れていた。発売を遅らせなくてはならなかった。


アメリカツアーは未だに実現していない。


ビル・シンプソンが契約の解消を申し出て来た。


彼にとって俺たちはの存在は既に、ストレスの種となっていたからだ。


アルバムを100万売るバンドの、マネージメントなど想定外だった。手掛けた事がなかった。


友好的な別れだった。

何の問題もなかった。


俺たちは、次のアルバムをリリースして。アメリカ・ツアーをブッキング出来る。新しいマネージメントを選らばなければならなかった。


靴底を減らし探すのではなく。

選べる存在にはなっていた。


今日、俺たちは現在俺達のアルバムを発売している、ジェット・レコードの社長である。ドン・アーデンという人物に会いにロンドンまで行く。


ロールスロイスも彼が手配した。


ジム・シンプソンは、最後に俺達に有難い忠告をしてくれた。


「金の支払いの件だけ伝えるだけでいい。今後は彼に関わるな!」


音楽業界に疎い。かけ出し俺達の耳にさえ。ドンの悪い噂は届いていた。彼の渾名はミスター・ビッグ。


アーティストを酷い契約で縛りつけ。その上に金を払わない。


交渉に来た人間の額に火のついた葉巻を押しつけた。


足を縛り、オフィスの窓から放りだして逆さに吊るした。


にわかには信じ難い話ばかりだが、

それは事実らしい。


ジムが、ドンの会社から俺達のレコードを出したのは苦肉の策だった。


俺達は、ドンと正式に契約を交わした訳ではない。それが救いだった。


依頼したのはアルバムの販売委託だけ。彼のオフィスには手数料しか入らない。


そんな僅かな金にも飛びつく男だった。


しかし、俺達のアルバムが万単位で売れ始めると。ジムを通じて性急に契約を迫って来た。


未だに俺達がアルバムを売った金、ドンから受け取っていないのに。


新たな契約交渉などする気など、

俺たちには更々なかった。


ただ払うべき金を支払わなければ、交渉の席にも着けないのだと。

.

やつのオフィスに行って。

伝えさえすればよかった。


今回に限って言えば俺達が上位だ。


優雅なるかなその車体と賓客。

タイヤが火を吹くこともない。


運転手がロールスロイスを停めた。


カーナビー・ストリートにある。

彼のオフィスビルの前に着いた。

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