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ピーターと友だち  作者: 六葉翼
バミンガ厶編
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31/36

1stアルバム



俺たちのバンド名はMID。

たとえBがDに変わっても。

ジムは納得しなかった。


しかし、俺達がDA丁から録音した新曲。その何曲か録音したテープを聞かせると。イギリス中のレコード会社に売り込みをかけてくれた。


世間では凄惨な事件が起きていた。


映画監督ロマン・ポランスキー。

妻は女優のシャロン・テイト。


チャールズ・マンスン率いる、カルト教団の連中に、自宅で友人たちと居るところを襲われ。惨殺された。


ポランスキー監督は、ハリウッドでアイラ・レビンの「ローズ・マリーの赤ちゃん」を撮影中だった。


シャロン・テイトは妊娠していた。

連日そのニュースが報道された。。


「ビートルズの、ヘルタースケルターを聞いて啓示を受けた」


マンソンはそう供述したらしい。

その曲の歌詞は意味不明だった。


俺は本は読まないが、デニス・ウィトリーという作家の本が、立て続けにベストセラーリストに名を連ねていた。


ハマープロのホラーが映画界を席巻していた。


暗い世相の中で、人々は自分たちをけして傷つけない。恐怖を求めていた。これはトニーの受売りだけど。


だからなのかジム・シンプソンは、俺達の音楽にも理解を示した。


必ず需要があると言ったんだ。


俺達は音楽の力だけで。

成功出来ると信じていた。


でも世の中の流れに上手く合わず。契約を逃してしまうバンドもいた。


俺達がプロとしてデビューするタイミング。今をおいて他になかった。


ジムは、当時イギリスにあった、13の大小様々なレコード会社に自ら出向き。俺達のデモを売り込んでくれた。


音楽関係の有力者を招いて。

俺達のライブを彼らに見せた。


結果は惨敗。


「興味深いバンドだ」


皆がそう言ってくれた。

レコード契約になると。

どこも二の足を踏んだ。


俺達の音楽はそれくらい極端で、

まったくもって妥協がなかった。


「ラジオ向けの曲がない」


それも大きな妨げになった。


「しかしまだ手はあるさ」


ジムは俺達に言った。


「自分たちでレコードを作るんだ。レコーディングして、ジャケットもこちらで作ればいい…レコード会社に一切負担はかからない」


「これは強力な宣材になるぞ!」


費用はジムのマネージメントで負担してくれる。


「それならば販売してもいい」


そう言ってくれた会社があるらしい。


ジェット・レコードという会社が最近立ち上げた。アンダーグラウンド専門のレーベルで、名前はバーティゴ。そこからならという話だ。


レコード会社の配給が見込めれば、最悪ジムが投資した分くらいなら、

その売り上げから回収出来る。


願ってもない話だった。


ロンドンのスタジオに出向いて。アルバム用に用意した8曲を演奏した。


24時間でレコーディングは終了。


そのまま慌ただしくスタジオを出て。夕方にはライブをやっていた。


俺達にはレコーディングの経験はなかった。


だけどライブの数だけは何処のバンドにも負けない。


ヨーロッパ・ツアーの最後には、ドイツのハンブルグにある。スタークラブで演奏したんだ。


8年前にビートルズも、アマチュア時代にそこで演奏した。


彼らと同じように、ステージの上にある、ハンモックを吊るしたネズミの巣になってる部屋に、俺たちは寝泊まりした。


ただで泊めてもらえる代わりに、11時から夜中の2時まで、短い休憩を挟んで、7公演を2ヶ月続けたんだ。スタークラブはもうその時は、外観も経営も傾きかけていたけど。


俺達が帰国した翌年に焼失した。


俺達は、ピンク・フロイドやジェネシスみたいに、スタジオに半年も籠るようなバンドではなかった。


あのディープ・パープルだって、全盛期に出したアルバムは、スタジオの廊下で録音したんだ。


他のバンドがスタジオを使用してて、彼らは忙しかった。


だから廊下に機材を並べて。一発録りでレコーディングを済ませた。


俺達もそんなかんじ…金がないので。プロデューサーと助手にかかる人件費を安く済ませたかった。それが1番の理由だ。


しばらくしてジムに呼ばれて。完成したアルバムのジャケットを見せられた。


アルバムタイトルやバンド名だけ書かれた。ごくシンプルなものを想像していた。


アルバムのジャケットには、写真が使われていて。全体的に薄い煉瓦色の色調で統一されている。


痩せたフードを被った女性が1人。


ただ佇んている。


どこか魔女を連想させるその女性。背後には小さな黒い教会があった。


「エジンバラの山間部にある、廃墟らしい。誰が、何時の時代に建てたものかは…分からないらしいね」


ジムは俺たちに説明した。


「教会の十字架はこちらでつけた」


「この女性の表情!」


「素晴らしいだろ?撮影は夕方だったんで、彼女本気で怖かったらしい。背後の建物のドアが…今にも開くんじゃないかって思ってたらしいよ」


見開きのジャケットを開くと。真黒な中に白い逆さ十字が描かれていた。


ヨブ記の黙示録的な言葉。

十字架に書かれていた。


俺達はアルバムのアート・ワークについて。何1つ口を挟んでいない。


逆さ十字にしろ黒い教会にしろ。

誰にどんな影響を及ぼすか。

そんな事についてもだった。


こういったものが、悪魔主義を象徴するものであると。深くは理解はしていなかった。


エジンバラの建物を建てた。

そうした人々は実在する。


ロンドンは昔からサバトの街と呼ばれていた。


俺達みたいな若者でさえ。魔法や魔術に対する受容体みたいなのはある。


イギリスのミュージシャンは、音楽で錬金術めいた事をするのが好きだ。ドラッグだけでなく。


そうした儀式も、ミュージシャンの間で流行した。ロックの蜿蜒《えんえん》とした蜿《うね》り。黒魔術や呪詛に委ねたのか。


正直俺には理解出来ない。


この時代本気で黒魔術に傾倒する、ミュージシャンは確かにいた。


ドラッグや黒魔術が音楽に某かの力をもたらす。そう信じている人は確かにいた。それは別に大したことじゃない。個人の問題と流行だ。


しかし時代が進み、ビルが建ち並ぶ世の中になっても。


見えない場所で、中世の時代の儀式を続ける連中がいて。彼らは俺達をお気に召さなかった。


それはまた後の話だ。


俺達がこのアルバムのアート・ワークを気に入らなかった。なんて言えばそれは嘘になる。


圧倒されたし。何より初めて発売されるアルバムを目にした喜び。何物にも代えがたいものだった。


俺達は、ジムからアルバムを1枚ずつ受け取ると。自宅に持ち帰った。


「聞いてくれ!」


「俺たちレコードを出せたんだ!」


家族の前でレコードをかけた。


「マッド」


黙ってアルバムに耳を傾けていた、親父が言った。


「レコードの回転数がおかしい」


「父さん、これでいいんだ」


「プリントミスがあるぞ」


「どこに?」


「十字架が逆さまだ」

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