NID
ステージでは何くわぬ顔。
「あの娘はどうだ?」
そう聞いて来るトニー。
でも最近ちょっと違う。
「もっとやれよマッド!」
「なんかやらかせマッド!」
そう囁くようになった。
名前も忘れてしまったが。
何処かの会場に呼ばれた。
出迎えてくれた、会場の責任者の人の身なりがとても立派で。いつもと違う感じがした。
1曲目にNIBをやったら。
20秒で止められた。
責任者の人がステージに上がって。俺達はステージから下ろされた。
「なんだその曲は?!君達は…花のサンフランシスコや、メローイエローをやる、トップ40のバンド。バーミンガム・ウィザードじゃないのか?」
「俺達はバーミンガム・ウィザードだけど、そんな曲はやらない!」
「くそくらえだ!」
「君らのマネージャーからは、トップ40のカバーバンドと聞いてた、だから呼んだんだ」
「ジム・シンプソンか?」
「あの野郎!今から事務所に行ってしめようぜ!」
「マッド…少し黙れ」
「ジム・シンプソン?そんな男は知らないな」
勘違いしていたのは男の方だと。
気がついたのはトニーだった。
「他にも同じバンドの名前がいるんだ」
調べたら、無名バンドのツアーリストに、俺達と同じバンドの名前が載っていた。ついでに同名の地元サッカーチームもしっかり存在した。
どちらも俺たちより古い。
版権や利権が絡む。
かなりやっかいだ。
「トニー」
「ああ…マッド分かってるよ!」
トニーと違って、俺の考える事は皆にすぐ分かるらしい。
「別の名前…考えよう」
「Nativeti In Black」
生まれついての暗闇。
この曲に誇りを持っていた。
俺達の本質を現す言葉だ。
「異論はない」
「議論の余地も」
「もう変わらないよね」
今度は全員一致。
バンド名はNativeti In Blackに決まった。
もう変わることはない。
「交通費20ポンドやるから。さっさと出てってくれ!そこの間抜けがいい事を言ったな。お前らは名前を変えるべきだよ。まあ変えたとこで、あんなクソみたいな曲を聞きたがるのは?正気の人間じゃないと思うがね!」
会場の責任者の追い出し文句。
それも祝福に聞こえて仕方ない。
この世界は俺達も含めて。
正気じゃない人間ばかり。
ごろごろしてるからだ。
100万枚売れるかもしれねえな。
だから俺達は何を言われようと。
このバンドには未来がある。
そう信じていたんだ。
新しいバンド名に決まったが。
ジムは良い顔をしなかった。
俺たちはいくつかのライブ会場で、黒人バンドと勘違いされたからだ。
ブッキングミスが続いた理由。
Nativeti In Blackー生まれついての黒人ーそんな意味もあるらしい。
ソウルやファンクのバンドと思われた。いっそのこと親父の好きなアル・ジョンソンみたいにするか。
「靴墨で顔を黒く塗って」
「却下」
「ならBlackをDarkに変えるか」
Nativeti In Dark
漆黒の黒よりも尚昏く。
生まれついての暗黒。
生まれてこの方暗闇。
俺たちはそこから歩き出す。
ギークの発案でそうなった。
そちらの方がしっくり来る。
「曲のタイトルもそうするか」
「まだリリース前だしな」
トニーの言葉に皆が頷いた。
ビルが考えた、バーミンガムの魔術師のバンド名。それからもバンドの愛称となり。ファンに親しまれた。
俺たちのバンド名はNID。
もうそれで決まりだった。
「やっぱり変わったじゃん!」
「豚肉よりはましだ!」
まだ言うか。
略でもフルネームでも。
豚肉でも構わないさ。
最高の曲と演奏を聞かせる。
世界最高のバンドになる。
ただそれだけだ。




