メリークリスマス!Mr.ウィザード!
全身が魂の脱け殻になっちまった。
この世界にトニーワイズマンというギタリスト。彼1人しかいない。
俺たちにはそれが分かっていた。
彼だからこそ上手くいっていた。
彼がいないバンドをどうするか。
もはやイメージすら湧かない。
家でベッドの上に仰向けになって、
ごろごろしながら考えていた時。
親父が俺の隣に座った。
手に10シリングの金を握らせ。
「友達と飲んでこい」
自分が思ってる以上に周囲には、
俺はへこんで見えたに違いない。
いつもキッチンのテーブル上には、
未払いの請求書が山積みされて。
母が頭を抱えていたというのに。
「彼だけが…ギタリストじゃないさ」
親父は俺に言った。
失恋したみたいだ。
死ぬまでの間に、俺を本気で愛してくれる女だって、1人や2人はいるかもしれない。
でも、トニーのようなギタリストなんて。他に誰もいないんだ。
もはや楽しみは、トニーの勇姿を…テレビで見る事しかなかった。
しかし、その年BBCがロックンロール・サーカスを放送する事はなかった。
噂ではあのミック・ジャガー様が、ライブの時の音がお気に召さなかったようだ。音なんて。
アンプにプラグを突っ込んで。
さっさと演奏すりゃいいんだよ!
下手くそなやつに限って、サウンドがどうこうとか。ぬかしたがるんだ。トニーの初舞台が見れない。
局のスタッフがジョン・レノンに事前に電話して。こう聞いたらしい。
「使用する機材を教えて下さい」
ジョン・レノンは言った。
「音が出るやつ」
それだけだ。
それでいい。
御蔵入りになったロックンロール・サーカス。ようやく封印が解かれたのは、1996年のニューヨーク映画蔡での事だった。
トニーは彼のステージ・カラーの黒でなく。白い帽子と衣装を着ていた。可愛いらしい感じがした。
ソング・フォー・ジュピリーというタルの名曲が演奏され。彼のギターは新しい命を吹き込んでいた。
ただ、イアン・アンダーソンとの絡みは一切なかった。
「あの娘はどうだ?」
彼には聞けないだろうな。
見てすぐに分かったよ。
クリスマスの晩のことだった。
「一杯奢らせてくれ」
トニーから皆に連絡があった。
全員スケジュールは白紙だった。




