サーカスとトニーワイズマン
ライブ会場はどんどんでかくなり。
演奏も日を追う毎に良くなった。
それまで見向きもしなかった。地元のマネージャー連中。彼らが周囲をうろつくようになった。
中でも特に俺達に興味を示した男、それがジム・シンプソンだった。
彼はバーミンガム出身で、かなり知られたバンドの元メンバーだった。
現在は高級クラブの経営者。
町の名士でもあった。
確かクラブの名前はヘンリーズ・ブルース・ハウス。
あのロバート・プラントが、ドラムのジョン・ボーナムとセッションした事でも知られる。伝説的なクラブだ。
ビックベア。シンプソンはかつてそう呼ばれた。自分の渾名から取ったマネージメントと会社を持っていた。そこから、様々なバンドを世に送り出していたんだ。
その年の12月になったばかりのある日。俺とビルは、彼の経営する、クラブのオフィスに呼ばれた。
「君らと、正式にマネージメント契約を結びたい!」
彼から契約の申し出を受けた。
地元でジムの悪い噂は聞かない。
俺達の他にも、地元の有力なバンド2つと…後に「アイム ノット イン ラブ」を世界中で大ヒットさせる、テン・イヤーズ・アフターとも契約していた。
願ってもない話だ。彼と契約すれば、ヨーロッパ公演だって。ロンドンのマーキーでだって。ライブが出来る。
俺とビルは、早く他の2人にこの話を聞かせたくて。すぐ皆を集めた。
「聞いてくれ!」
「素晴らしいニュースがある!」
俺とビルは顔を見合わせて笑った。
トニーの顔には覇気がなかった。
マネージメントが決まった。
そんな話をしてるんだぜ。
なぜ浮かない顔をしている。
「どうした…トニー元気がないぞ。どこか具合でも悪いのか?」
「実は…昨日イアン・アンダーソンから家に電話があって…」
それはサンタクロースの別名か。
イアンのヒゲはサンタに似てた。
「ギタリストが辞めたから、ジェスロ・タルに入らないかって話だ」
それは俺たちの朗報を吹き飛ばす。
トニーに訪れた幸運の報せだった。
客席から、イアンアンダーソンは熱心に見ていた。それは俺たちじゃなくて。トニーの弾くギターだった。
「断れなかった」
「ごめん」
沈黙がどれくらいの長さだったか、なんて分からない。でも俺がどうにか最初に口を開いて。話した言葉。
その言葉に嘘偽りはなかった。
「断われるわけないだろ!?」
「マッド」
「そんないい話!」
おめでとう。
ビルが言った
「トニーには、それだけの価値があるんだ。俺は別に驚かないさ!」
ギークは肩からべースを下ろした。
膝を掴んだまま動かない。
俯いたトニーの肩を叩いた。
「ジェスロ・タルのメンバー達が、一体どれ程の幸運を手に入れたのか…分かってくれるといいんだが」
「おめでとうトニー!」
トニーは、最近あるリフを思いついていた。それは俺たちを驚かせた。
とんでもなくヘヴィなリフだった。
それにギークが歌詞をつけていた。
規制のブルースから抜け出して。
皆を驚かせる準備が出来ていた。
「このバンドは必ず成功するさ」
「俺がいなくても」
トニーは目に涙を溜めていた。
それには俺は同意出来ないが。
トニーの将来を考えたら。
黙って送り出すべきだ。
俺たちはこの半年間。
皆で困難を乗り越えて来た。
だから全員がそう思うんだ。
彼の成功を祈らずにはいられない。
しかしバンドが受けたダメージ。
それは壊滅的なものだった。




