↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピーターと友だち  作者: 六葉翼
バミンガ厶編
PR
17/36

ビル クレイ



「1つだけ、いいかな」


トニーがビルの顔を見て言った。


「ビル、いいか?」


「ああ」


ビルはそう言ったきり黙った。

彼の少年らしさは影をひそめ、

ただ黙って俯く青年の横顔。


「ビルの事なんだが」


「ビルがどうかしたのか?」


トニーの話によると。

ビル•クレイは生まれた時から。

心臓に重大な欠陥があった。


「俺は、この年になるまで、3回手術してるんだ。生まれた時は、10まで。10になった時は、15までしか生きられないと言われたよ」


「ドラムなんて叩いて大丈夫なのかよ!?」


「難しい手術はもうしなくていい。だけど、医者や両親には、心臓に負担をかけるなと言われてるんだ」


「だったら…」


トニーが言った。


「ビルは小さい頃から、自宅のガレージにある、親父さんのドラムキットで練習してたんだ」


「やめないんで。最後《しまい》には、親父がドラムキットを俺が叩かないように、分解してしまったけどね」


ビルはスティックだけ持って。何処でもドラムを叩く練習をしてた。


「両親は、俺をプレイヤーじゃなくて、音楽の教師か何かにしたくて。音大に行く事を進めたんだ。どこのバンドにも入れなかったよ」


子供の頃のビルは、父親の影響で、セロニアス・モンクや、アート・ブレイキーといった、ジャズのレコードを聞いていた。聞き狂っていた。


「その頃学校で、トニーと知り合って。一緒にジャムみたいな事をしてたんだ」


「ビルは昔から上手かったよ。タイム感がとにかく抜群で、何時間演奏しても、テンポが崩れない。常にスイングしてた」


ドラマーとしては、最もそれが重要な才能なのだと。トニーは言う。


「俺とトニーは、将来バンドを組んで、ツアーに出る約束をしてたんだ!」


「だからトニーが「ペンタグラムに入らないか?」と電話をくれた時、本当に嬉しかったな」


「ステージで死ねたら本望だ」


「ビルは俺にそう言ったんだ」


「トニーのせいさ!彼が、昔俺に貸してくれた、ザ・フーのキース・ムーンやビル・ブラッドフォードのドラムを…俺は聞いてしまったんだ」


「あれ聞いちまったらな」


ギークがビルに笑いかけた。


「俺は変人だし、マッドマンはいるし…でもビル!お前が一番クレイジーな男だって認めるよ!」


「ビル、前にも言ったが…俺は、お前を病人扱いなんてしない。バンドや、お前のドラムに影響が出るようなら。すぐに追い出す。自分で自分の体は管理するんだ!少しでも体に異変を感じたら…」


「ありがとうトニー」


「感謝するよ!」


「ビルがステージの上で死ねるように、ステージに棺桶を用意して。それを燃やすパフォーマンスはどうだろう?」


「ありがとうマッド。君は本当にろくでなしだ」


「ビル、曲の途中で死ぬなよ。必ず全曲完奏してからにしてくれ!」


「トニー!君の場合もう清々しいよ」


「それと…ビルは大酒飲みだ。ビールのケースなんて、根こそぎ飲まれちまうから、気をつけろ。車のバンドルも握らせるな…死ぬぞ!」


「典型的なドラム野郎だ」


「以上だ。いや…あと1つ」


「まだあるのか!」

「バンドやろうぜ!」


トニーは髭を取り外し。

ビルの鼻の下につけた。


「これは偽物だ」


「なんでだよ」


「なめられないようにだ」


トニーは穏やかな声で言った。


「だがもう必要ない」


言うまでもないことだが。

ビルはドラムを叩きまくり。

バンドに多大な貢献をした。


彼は昔も今も変わらない。

常に献身的にドラムを叩く。


しかし彼のドラムを聞く度思った。

リハ以外で何気なく叩くビート,

何か倦怠的なムードがあって。


ルーズ、それともレイドバック。

ジャズドラマーの特徴なのか。


それが彼の個性だった。


それが俺たちを不安にさせた。


ビルが仲間の中で一番死に近い。

彼は常にその意識があったのか。


死の影はいつも彼の側を離れず。

子犬のように寄り添っていた。


それを音楽用語で説明出来ない。


トニーはそれを指摘した事はない。ビルの個性と考え、バンドに活かそうとしていたのだと。俺は思う。


トニーのお祈りが効いたか。

俺の子供にブタの蹄はなく。


ビルは結局死ななかった。


それが何より大切なことだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。