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ピーターと友だち  作者: 六葉翼
バミンガ厶編
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14/36

メシア再び


あの日の俺という存在の一体何が、

トニーの気持ちを変えたのか.。


何故、彼が俺みたいな野郎に。


「チャンスを与えてみよう」


そんな気持ちになったのか。

正直俺にはわからなかった。


ただ俺がPAを持っていたから。

理由はそれだけかも知れない。


少なくとも、学校を出た俺にも色々あって。俺は、2度と以前の仕事に戻りたくない。警察絡みなんかで、面倒に巻き込まれるのも嫌だった。


それはトニーも同じだったはずだ。


彼の実家は、昔からそれなりの暮らしをしていた。市内で、小さな雑貨屋を営んでいた。


でも俺にしろトニーにしろ。未来に希望なんて感じる事なく。学校から外の世界に飛び出した。


つまり音楽がなければ。

俺たちは何者どころか。


どうしようもない存在だったんだ。


ビルがトニーをなだめて。

彼を説得してくれたんだ。


ビルクレイ。


俺がこれまで出会った人達の中で、最も優しい人かも知れない。


彼は俺たちよりも小柄で。

とても華奢な体に見えた。


やや癖のある栗毛《オーバン》。

この国の男は赤毛が多い。

アイリッシュ系だろうか。


まだ戯けない笑顔は少年のよう。

俺は初見で楽器が持てるのかと。

つい彼を見ていて心配になった。

しかしその杞憂はすぐに消えた。


ビルは素晴らしいドラマーだった。


彼の父親は、ジャズのセミプロで、本業は公務員をしていた。彼は幼い頃から、ずっと父親の側にいて。


ジャズに触れて育ったんだ。


とても地に足がついた性格。

しっかりしたリズムを刻む。

そのキープ力は正確無比。


ドラムプレイは彼の性格そのもの。


服装はギークと正反対。

執着がまるでないんだ。


俺たちのバンドが、初めて飛行機で移動した時も。彼は、飛行場にお父さんのお下がりのセーターを着て現れた。


両手に、皆の分の飲み物や、菓子が入ったビニール袋をぶら下げて。


彼は昔から.そういう人だった。


トニーが少し打ち解けてくれた。

それは彼のおかげでもあった。


俺達3人はバンの後部座席に座り、

タバコを吸いながら話した。


色々な話をして夜を過ごした。


刑務所のこと、マリファナでバンドがだめになったこと、指を切断したこと。学校にいた嫌な先生のこと、牛の殺し方、最近聞いたレコード。


今後の俺達について。


「まず、俺達に必要なのは…バンドの名前とベースが弾けるやつだ!」


トニーが言った。


「ベースの知り合いはいないな…」


ビルに心当たりがあるなら。

とっくに提案してるはずだ。


俺はトニーに提案した。


「リズム・ギターを弾くやつで、ギークってやつなら知ってるぜ!」


トニーとビルは顔を見合せ。

そしてほぼ同時に叫んだ。


「あのギーク・チェスターか!?」


2人の様子から「あのギーク」あのはけして良い意味ではないようだ。


「あいつは…どうかしてるよ」


ビルが首を振る。


「俺が最後に見た時、催眠光線に合わせて、なんか変な踊りを踊ってた…サイン会もやってたな」


「彼は…頭の中では既にロック・スターなんだ」


俺は言った。


そしてひとつも成功はしてないが。

バンドマンが皆知ってる業界人だ。


「いいことだと思う。彼は、ベジタリアンだから金がかからないし。会計士の資格も持っているんだ!」


トニーが深く頷いた。


「ピーターの言う通りかもな!お前の事…マッドって呼んていいか?」


「その方がいい」


「マッドの言う通りなら」


「ギークはいいやつだよ!」


「明日にでも、俺がギークの家に行って!彼にやる気があるか聞いてみる!」


うちには電話がない。


「俺たちが連絡していいか?」

「マッドの友達と伝えるさ!」


「ベースを覚えるのに、多少時間はかかるかも知れないが…ギターが弾けるなら問題ない。弦は4本しかないんだ」


手袋をはめた自分の右手を見て。

トニーは俺たちにそう言った。


指を無くして。

目的に縋りつき。


心まで無くしかけた。


彼の背中が呟いている。

俺はそんな気がした。


受難のキリストに電話して。

カフェで会う約束をした。

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