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トニーワイズマン


15で学校から放り出された俺。


テレビを盗んで刑務所に入ったり。

家畜処理場で血まみれになってた。


その頃のことだ。


トニーは上の学校には進まず。

プロのギタリストを目指していた。


見習いとして、板金工場で働いていたんだ。彼はそこで、電気溶接について学んでいたらしい。


電気溶接というのは熟練しないと、大変危険な代物らしい。


紫外線の放射光に、皮膚や目なんかが曝されたら…大変どころじゃ済まされない事態になる。


感電する事だってある。

金属版の錆止めだって。

昔は猛毒を使っていた。


後にトニーが俺に話してくれた話。


トニーは、昼間は溶接の仕事をしながら、夜は自分のバンドでクラブを回り。チャンスを待っていた。


チャック・ベリーや、エディ・コクランなんかのカバーを、毎晩演奏していた。


「他人の曲を死ぬ程やらないと、上手くならない」


トニーはそれを知っていた。

どんどん腕を上げて行った。

彼は才能豊かな人だった。


やがてエージェントの目に止まる日が訪れた。それも至極当然のことだ。


「ドイツでプロとしてやらないか?」


本国イギリスでデビューする前に、ドイツのクラブや劇場で腕を磨く。ビートルズも確かそうだった。


トニーはエージェントと契約を交わし。仕事を辞める決心をした。


「ついにきっかけを掴んだ…俺は天にも昇る気持ちでいたよ!」


トニーは俺と違って仕事も音楽も、とことん真面目にやるタイプだ。


そんな男だから。見習いだけど職場でも慕われ。可愛がられていた。


皆トニーが辞めるのを惜しんだが、彼の未来を祝福してくれた。


工場での最後の勤務の日。


溶接をする前に、金属版をプレスして切断する係のやつがとんだ。


仕事に出て来ないやつの代わりに、トニーがその仕事をやる羽目になった。


正解には何が起きたのか。

俺は詳しくは知らない。


トニーが、機械の使い方を正確に理解していなかったのか。あるいは、機械そのものに故障があったのか。


とにかくでかい。金属のプレス用の機械。そいつが、トニーの右手の中指と、薬指を第2関節の手前から。すべて切断してしまったんだ。


切断したのは彼の指だけじゃない。


トニーは左手利きだから。フレッドを押さえる方の指という事になる。


ギタリストのトニーが。


どれ程恐ろしい光景だったか。

俺には想像すら叶わない。


彼は自分の指を探して。

血溜まりの中を這い回った。


気絶しそうな痛みの中でさえ。


「指を探さなきゃ」


そう自分に言い聞かせていた。


救急外来の医者は彼に言った。


「2度とギターは弾けない」


それから数ヵ月の間。それこそ何十人もの医者に診てもらった。


皆、同じ言葉を口にした。


「他に何かやる事を見つけなさい」


俺が喉を撃たれるようなものだ。


彼は幼い頃からギタリストに憧れ。.

ギターを弾くこと。それだけに。

人生の全てを費やして来た。


彼は長い間酷い鬱に苛まれた。


彼が朝を迎え。どうやってベッドから起き出して。1日1日を過ごしていたかなんて。俺には分からない。


ある日の午後。トニーの以前の職場の主任が彼を訪ねて来た。


彼に1枚のアルバムを渡したんだ。


ジャンゴ・ラインハルト。


ベルギーのジプシー系のギタリスト。若い頃に手に酷い火傷を負った。


使える指は2本だけになってしまったが。彼は使える指だけで、フレッドを押さえ。見事なソロを弾いたんだ。


トニーは言う。


「あの主任は…ジャズにもギターにも興味なんてない人だった。多分、探してくれたんだと思う。指を負傷しても。立派に活躍してるギタリストを…俺のために!」


主任がくれたレコード。まだ針も落としてない。傷1つない新品で…袋から出すと塩化ビニールの香りがした。


トニーはジャンゴのように。自在にギターを弾く方法を模索し始めた。


右利きで弾いてみたり。


2本の指でフレットを押さえようと試みた。


どれも上手く行かなかった。


出来ない事はないが。


自分の求める演奏には程遠かった。


しかし彼はある日その方法を見い出した。


トニーはギタリストで溶接工でもあった。どちらも一流になったはず。


でもギタリストがいい。


ギタリストになるため。

新たな指を作り溶接した。


洗剤のボトルを溶かし。怪我した指にはめる指抜きを作ってみた。


失った指先と同じ多きさになるまで、サンドペーパーで削り。弦をしっかり押さえるために。指を入れる方の端に、小さな皮のパッドを糊付けした。


演奏中に指ぬきが破損しないように。弦の張りも少し弛めた。


彼は失った指への未練と一緒に、

今までのスタイルを全て捨てた。


1からギターを再構築したんだ。


それでも俺は、彼がどうやってるのか分からない。


どこに行くにも、彼は手製の指ぬきと、皮のパッドを大量に入れた袋を持ち歩き.。はんだごてで常に調整を 欠かさない。


俺はいつもステージの1番右端に立つ。そこにマイクを置いて歌うんだ。


ボーカルは真ん中に立つもんだ。

フロントマンと言うくらいだから。


それは奇妙に見えたはず。


けど俺はその位置が好きだった。


ドラムのビルもギターのトニーも、俺の立ち位置から見えるからだ。


トニーの横にいて。ギターを弾く彼を見る度に。俺は彼の乗り越えて来たもの。その大きさに胸を打たれた。


トニーは俺にとって、昔も今も尊敬と畏怖を抱かずにいられない。そんな存在なんだ。


彼はギターの弾き方を学び直して、

他の誰にも真似出来ない演奏方。


やがて独自のスタイルに辿り着く。

そしてそれは俺たちのバンド。


NIDで完成した。


ビートルズが破格の大成功をおさめた時。彼らを発掘、獲得出来なかった他のレコード会社。彼らは第2第3のビートルズを作ろうとした。


リバプールサウンドとか。マージービートとか。ビートルズは関係ない。彼らはあくまでも彼ら。


唯一無二の存在だ。


モット・ザ・フープルとか。ムーディ・ブルースとか。リバプール以外の地域のバンドが成功をおさめる。


ブラム・ビートなんて呼び方で彼らを呼ぶ。ムーブメントを起こして。十把一絡げで売ろうとするんだ。


トニー・ワイズマンは賢明な男だ。

そんな風潮にはのりたくなかった。


カーライルを拠点に活動するペンタグラムも.そんな風潮におもねるバンドではなかった。


トニーはそのバンドのオオーデイションを受け.メンバーに迎えられた。


数ヵ月後、ペンタグラムのドラマーが辞めたので、アストンから旧友のビル・クレイを呼んだんだ。


俺はペンタグラムのライブを見た事はない。


でも行く先々で大受けしている。

そんな噂は耳にしていた。


彼らは骨太で湿り気のあるブルースバンドだった。


レコード契約もオリジナル曲も未だなかった。


バッファロー・スプリング・フィールドやジミ・ヘンドリックス、ヤード・バーズを辞めて、エリック・クラプトンが加入したジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズのカバーを得意にしていた。


彼らは、あっという間にカンバーランド地方に熱心なファンの基盤を築き上げ。クラブを次々に満員にした。


バンドの活動は順調そのものだった。しかし彼らは深刻な問題に巻き込まれた。


ペンタグラムのメンバーは、マリファナをやっていた。それ自体、別に珍しい話ではなかった。警察も、いちいちバンドマンを見つけて、ポケットの中身を全部出させるような真似はしない。


そんな事をしてたら。イギリス中の刑務所や留置所。ミュージシャンでたちまち一杯になっちまう。


でも、彼らにマリファナを売っていた売人が捕まった。その売人の顧客リストには、ペンタグラムのバンド名。メンバーの名前が書いてあった。


売人をしていたのは大学生。

ペンタグラムのファンだった。


警察は捜査令状を取り。カーライルにある、バンドが共有していたアパートを強制捜査した。


バンドにとって致命的だった。


罰則なんて大したもんじゃない。

罰金15ポンド程度だ。


麻薬をやって逮捕されたバンドは、もうライブなんて出来ない。


警察の裁量1つで、すぐに営業許可証を取り消されてしまう。そんな人達が彼らを使うはずがなかった。


大物のミュージシャンが、ドラッグをやっても捕まらない?彼らはレコード会社に守られていたからだ。


レコード会社の連中は、金の生る木を守るため。彼らを、居心地のいい、別荘のような場所に彼放り込んで、ドラッグや酒を与えたんだ。


大物ミュージシャンたちは喜んで、そこで曲を書いた。レコード会社は、彼らが曲を書いてツアーをしてればいい。それで満足だった。


ドラッグは大概売人ではなく、別ルートから仕入れた、足が付かない代物だった。


どうせバンドが稼いで。それも本来彼らが受け取るべき金だ。レコード会社は痛くも痒くもなかった。


そんな時代だ。


しかしそんな後ろ楯などない。ペンタグラムのメンバーは、たちまち干され。一文無しになってしまった。


食べる物にも事欠くほど困窮した。


トニーとビルを除くメンバーはバンドを諦めて。地元で職を探し始めた。


トニーとビルは、アストンに戻り。体制を立て直そうと考えた。


食うや食わずで地元に戻り。


楽器屋の広告に希望の光を見た。


開かれた扉の先に立っていた男が、湯たんぽをぶら下げた俺だったら…


トニーが落胆して、怒りを抑えられなかったのも。無理はない話だ。


俺は思う。


心から同情する。

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