Hello, GoodbyeⅡ
玄関のドアをノックする音。
居間のカーテンの隙間から。
俺は外を覗いて見る。
玄関には長髪で髭を生やした、見るからにヤバそうな男が立っていた。
なんだこれ?夢かデジャブか?
今度の男はギークではない。
似ても似つかない。
食いっぱぐれてホームレスになったマフィア。そんな風体だった。
さらにその隣にはもう1人。
やはり長髪の男が立っていた。
背が高い方はまさか…
いや、彼であるはずがない。
2人の後ろには黒の古いバン。
車の横腹には、五芒星のマークと消えかけた文字で「ペンタグラム」と書かれていた。
イカレ車だ。
運転して来た人間もだ。
イカレてるに違いない。
「ピーター玄関に出て!」
「もうビールを飲むのはおやめ!だらしない体になって来てるよ!」
ギボン婆さんに丸めた新聞で頭を叩かれた。
ダウンジング・ボーイズを辞めて2ヶ月。
俺は家で母と婆さんにこき使われていた。
20歳になっていた。
シンガーになるどころか。
求職もままならず。
総て諦めていた。
せめて職を見つけて、親父にPAの金を返したいと思っていた。
店に貼ったバンド募集広告。
外してくれるように頼んだ。
彼らは誰だ?
ギークの知り合いだろうか?
さっぱり心当たりがないまま。玄関の掛け金を外してドアを開けた。
「お前がマッドマン?」
背の高い方の男を見て俺は確信した。
彼も俺が誰だか気づいたようだ。
彼は唸るように言葉を絞り出すと、こう言ったんだ。
「なんてこった!よりによって、お前かよ!?」
うちの玄関に立っていた男。
トニー・ワイズマンだった。
俺の1学年上のハンサムな生徒。
クリスマスに皆の前でギターを弾いた。学校時代の輝かしい英雄。
教師達を激怒させる前に呆然とさせた。
5年以上も見かけた事はなかった。
彼はアストンの伝説になっていた。
若い連中は皆彼が誰だか知っていた。
もしもバンドを組むとしたら…誰もが、真っ先にトニー・ワイズマンの名前を思い浮かべた。
勿論俺だって。
しかし残念ながら、彼は俺に対してそうは思っていなかった。
「帰ろうぜ、ビル」
みすぼらしい格好をした男にトニーは言った。
「トニー、ちょっと待ってくれ!」
ビルと呼ばれた男は、当惑した様子で俺を見た。
「彼は誰なんだ?知り合いなのか?」
「こいつの名前はピータークロス。マッドマン・スターダストじゃない。勿論シンガーでもない。ただの馬鹿さ。分かったら.行こうぜ!」
「待ってくれ」
俺は2人の話に割り込んだ。
「どこで住所を知ったんだ?どうしてマッドマンの事を?」
「こんな俺でも何か出来る事があるはず」
ビルが言った。
「俺は結構じんときたね!」
ビルは人懐こい笑顔で俺を見た。
「もう、あの広告は外してくれって言ったんだ」
「まだ今日も出てたぜ」
「トニー」
ビルがトニーに向かって言った。
「彼にやらせてみたら?」
「やらせてみるだと?」
トニーは明らかに、俺にも、ビルに対しても苛立っていた。
「よく聞けよビル。こいつを馬鹿だと言ったが、馬鹿と言っても、こいつは並の馬鹿じゃないぞ。学校中の笑いものだったんだ。こんな馬鹿を試せなんて!お前も馬鹿が感染したのか、ビル!」
俺は何も頭に浮かぶ言葉がなくて。ただ自分の足元を見つめる。
それしか出来なかった。
「お前さあ…えり好みしてられる身分じゃないんだぜ!」
ビルは囁いた。
聞こえてるって。
「だから俺たち今こうしてここに… トニー!おい!話しを聞けよ!」
トニーの足は車の方に向かっていた。
「馬鹿にするな!」
そう背中が語っていた。
ビルは首をやれやれと振り。
「すまなかったね、その…いきなり押し掛けたりしてさ」
俺に向かって肩を竦めた。
俺は立ち去るトニーを見て。
ふと違和感を感じた。
彼の右手。
片方の右手にだけ。
黒い手袋がはめられていた。
「トニー…お前その右手」
「どうかしたのか!?」
彼は無駄足を踏まされたと。
それでたいそう憤慨してた。
けれど、その右手の指が握りしめられることは、一度もなかった。
彼の右手には指がなかった




