ピータと才能Ⅱ
彼の顔には見覚えがあった。
「ライブを見た事がある。凄い声のシンガーがいたから。よく覚えてる」
「ありがとう」
男でも見とれてしまう。
魅力的な笑顔だった。
「で、今なにしてるんだ?」
「実は…プロのバンドに声をかけられてるんだ!」
「お前なら当然だよ。どのバンドだ?」
「ヤード・バーズ」
「ヤードバーズだって!?おめでとう!!でかい話だ」
「彼らはジェフ・ベックが脱退して解散するんじゃないのか?」
「まだ、あのバンドにはジミーペイジがいて…知ってるだろ?ギタリストのジミーペイジ。あとベースのやつも。彼らはまだ契約が残っていて。残り1枚はアルバムを出さないといけないんだ」
お金を払わなければ見られない人たち。金を払ってでも見たい!そんなギタリストやバンドの名前が頭の上を飛び越えて行く。
「何れにしろ凄い話だ!」
「正直迷ってるんだ」
プラントは肩をすくめた。
「俺は、新しいバンドを立ち上げたばかりで、こっちも結構いいかんじなんだよね」
「なんて名前だ」
「ホップストゥイードル」
プラントは答えた。
「ペイジじゃなくて、ジェフ・ベックかクラプトンなら即決なんだけどね!」
「あいつ.ばかなのか?」
プラントが去った後。
俺はギークに尋ねた。
「本気で、ポップスなんとかのために?ペイジの話を断るつもりかな?」
「向こうが名前を変えれば入ってもいい…と言ってたな」
「やけに名前を変えるのに拘っていたな」
「彼はやるさ。向こうが名前を変えればね。でも、いつまでもヤード・バーズを名乗るのもな。ベックも、クラプトンも辞めたバンドだし」
「ポップス何とかよりましだろ」
「確かに」
ギークは驚くほど物知りで顔が広い。
彼と一緒にいて、ロバート・プラントみたいな人と出会すのは、実はそんなに珍しい事ではなかった。
彼は常にいけてる連中の仲間だった。
その中に自分が含まれているのが、誇らしくて嬉しかった。
しかし、問題は俺たちのバンドダウンジング・ボーイズが、実に最低だって事だ。
今日出会った、プラントのような人を目の当たりにすると。俺がボーカルとして成功する確率なんて。100万に1つもない事が分かる。
「ギーク、俺は…もう充分だよ」
ギークは俺の隣で下を向いたまま。
黙って聞いていた。
「マッド、俺は仕事で昇進出来るかも知れないんだ」
ギークはグラマースクールを卒業して。会計士の資格を持っている。
今は工場で会計士について。
見習いの仕事をしている。
「経理部門の、上から3番目に就けてくれるって。そんな話があって」
「なら決まりじゃないか!」
「そうだな」
ギークは俺を見て言った。
「プラントは凄いシンガーだ。声域も、声量も、表現力も並外れてる」
俺は頷いた。
「見た目だってあの通りだ」
「認めるよ」
「声域も声量も…見た目も、お前はプラントには及ばない」
ギークの分析はいつも的確だ。
「認める」
そんな俺に彼は言った。
「認めなくていい!お前にはプラントに負けてないところがあるんだ!」
「そんなのあるのか?」
皆目見当もつかない。
「今は声の魅力だけ…お前の声は面白いよ!」
「ありがとう」
「焦りは禁物だぞ、マッドマン・スターダスト!」
俺とギークは互いに握手して。
その日の夜に別れた。




