スピンオフ第2話・エミリは会いたい。
聖都市の街は、今日も賑やかだ。
子どもたちの笑い声。商人たちの活気ある呼び声。
石畳に囲まれた花壇では、色とりどりの花が風に揺れている。
古びた木の扉に、小さな看板。
バー喫茶Dickeybird は、そんな街の一角にひっそりと佇んでいた。
「──はぁ」
エミリはカウンターに腰掛け、窓の外を眺めながら、ため息をひとつこぼした。
Dickeybird。
どこかの国の言葉で、「小鳥」という意味らしい。
子どもに語りかけるとき、大人たちが使う呼び方。そんな話を、昔聞いたことがある。
窓の向こうには、ゴシック様式の建物が並ぶ穏やかな街並み。
その先には、この街にあって異質な、白い建物が見える。
ラボ。
知らない者はいない。
コード・リーパーと選ばれた研究者、そして、ごく一部の人間だけが足を踏み入れることのできる特別な場所。
今日の彼は、何をしているんだろう。
また危ないことをしているのだろうか。
それとも、研究の仕事で忙しくしているのだろうか。
助けてもらったあの日から、エミリはレインのことが気になっていた。
けれど、それは怪我の具合が気になるだけ。
そう。それだけ。
「──気軽に、会いにいけないよね」
エミリは、もう一度ため息をこぼした。
・
「まず、感謝の気持ちを伝えるには、誠意が必要だ」
タカセは真剣な顔で言った。
「……ああ」
「次に、相手に喜んでもらえるものを考える」
「……そうだな」
「最後に、相手が今後も安心して生活できるよう、継続的な支援を提案する」
「待て。最後のは何だ」
「困ったことがあれば、いつでも相談してほしいと伝えるんだ」
「……普通だな」
「俺なら、警備体制の確認と緊急時の連絡手段も整えるが」
「タカセ。また脱線してる」
「悪い」
タカセは素直に謝ると、手元のティーンズ雑誌に視線を戻した。
「……『女性の話を聞くときは、相手の目を見て、共感を示しましょう』だそうだ」
「それくらい普通にやるだろ」
「『相手の髪型や服装の変化に気づき、褒めることも効果的』」
「……髪型?」
レインは、ふとエミリの顔を思い浮かべた。
柔らかくまとめられた髪。笑うと細くなる目。店内の絵を眺めるときの横顔。
(……褒めたらいいんだな)
「……可愛い」
「レイン。心の声が漏れてるぞ」
「……」
レインは黙り込んだ。
しばらくして、タカセが雑誌を畳む。
「こうして考えるより、先に行動したほうがなんとかなることも多い。レイン、お礼の品を探しに行くぞ」
「珍しくまともだな」
「任せてくれ」
タカセは自信満々に立ち上がった。
そんな彼の顔を見て、レインはほんの少しだけ眉をひそめる。
──やっぱり、嫌な予感しかしない。
二人は街へと繰り出した。
(つづく)




