03. 50分の1
聖都市警察署内。
先輩警察官たちが談笑する中、その中央でタカセとジョウは向かい合っていた。
「で」
ジョウが書類を軽く叩く。
「今回の任務、ちゃんと聞いとけよ」
「コード・リーパーの作戦支援だろ? 資料には目を通した」
タカセの声に、ジョウは満足そうに笑った。
「さすが俺の後輩」
ジョウの一言にタカセの口元がわずかに緩む。それを悟られまいとすぐに表情を引き締め、無理やり話題を変えた。
「──今回のコード・リーパーはどんな奴なんだ?」
ジョウは顎に手を当て、天井に視線を向けた。
「そもそも、コード・リーパーが何をしてるか、分かるか?」
タカセの視線が止まる。
「知っている。簡単に言うと殺し屋だろ?」
「言い方はそれで合ってる」
ジョウは肩をすくめる。
「コード・リーパーについておさらいするか。奴らはただの裏稼業とは違う……国家管理だ」
タカセは無言で続きを待つ。ジョウは机に腰を預けるようにして続けた。
「この国で処理できない案件は、全部そいつらがやる」
「警察の上位互換か?」
「違う。別枠だ」
タカセは少しだけ目を細める。
「別枠?」
「コード・リーパーは今じゃあポピュラーな仕事だ。......しかし人を殺す権限を持った奴らだ。だからこそ、好き勝手は許されない」
タカセが眉をひそめる。
「……それは分かる。ライセンス制なのも、無法な殺人と区別するためなんだろ?」
「そうだな。コード・リーパーは法の外じゃない。国家が管理してる以上、全部に理由と記録が必要になる」
ジョウは肩をすくめた。
「怪しいから消しました、じゃ市民は納得しない。今じゃコード・リーパーはダークヒーロー扱いだからな」
タカセとジョウの話を聞いていた先輩警官の一人が笑う。
「新聞や配信で人気出る奴までいるしな。特に若い連中は」
「だからそこ、証拠を取る。警察が裏付ける。コード・リーパーは、その上で処理する──それが、この国のルールだ」
タカセの喉が鳴る。その表情を見て、ジョウは短く笑う。
「コード・リーパーは、五十人っていう枠で管理されていることは知ってるだろ?」
その言葉に、タカセは頷く。
「人殺しに最適化された人間を放っておけるほど、この国は優しくない。五十人っていう人数が、国としては管理しやすいんだろ」
「もし、一人でも辞めたら?」
「この仕事は降りられない。辞めたら危険因子として殺される」
タカセはゆっくり瞬きをする。
「もし、減ったら?」
ジョウは一瞬だけ間を置いた。
「きっちり五十人。死ぬまで使い続ける。一人死ねば、一人補充される。ただそれだけだ」
タカセは黙る。その沈黙に、ジョウは続けた。
「選抜は全部試験だそうだ。詳しくは知らんが──適性、戦闘、判断力……」
「エリート部隊ってやつか」
「そんな綺麗なもんじゃない」
ジョウは短く笑う。
「何度も言うがな。人を殺すことに“躊躇がないやつ”じゃなきゃ、コード・リーパーの仕事は続かない」
タカセの指先が、わずかに止まる。呼吸が浅くなるのを、自分でもうまく誤魔化せなかった。
「……それ、必要なのか」
ジョウはすぐには答えなかった。少し視線を落としてから言う。
「......この街は綺麗に見えるだろ。汚れ仕事を全部押し付ける場所が必要なんだよ」
軽く肩をすくめる。
「──そういう“枠”がな」
・
その日の午後。コード・リーパーの一人である男が、聖都市の警察署へやってきた。
「失礼」
黒いロングコート姿で穏やかな声を出すその男は、メインホールの空気を確かめるように一度だけ視線を流す。
「来たか」
ジョウの声に、コード・リーパーの作戦支援に参加する警官たちがその場に集まる。その中にタカセもいた。
「今回、作戦支援を行うコード・リーパーだ。名前は……」
ジョウの声に続けるように、男は軽く頭を下げた。
「マービンだ。よろしく」
短い自己紹介と穏やかな声に、空気が少し軽くなる。タカセはマービンを見た。
「……思ったより普通だな」
マービンは少しだけ笑った。
「よく言われるよ。よろしく、若い警官さん」
軽い声なのに、静かな圧を感じる。彼の笑顔の中に戦場と死の影が落ちているのを、タカセは見逃さなかった。
マービンは続けた。
「貴方たち警察部隊の仕事は、僕の支援と、終了の報告。それだけでいい」
「──それだけでいいのか?」
戸惑うタカセに、ジョウは補足する。
「コード・リーパーは処理の専門だ。臨機応変な支援と報告は、俺たち警察の仕事になる」
必要な情報だけを落としてそれ以上は切り捨てているような、簡単な説明だった。
先輩警官の一人が、タカセを見て肩をすくめた。
「ルーキーは頬に傷ひとつ作らなきゃ上出来だよ」
「やめてやれよ」
別の声が続く。
「コード・リーパーと一緒なんて、運がいいのか悪いのか分からんな」
そのやり取りを聞きながら、マービンは小さく笑った。
「安心していい。僕がいれば楽勝だ」
軽い声だった。まるで仕事の話ではなく、散歩の段取りでもしているような調子で緊張感がない。
タカセは一瞬だけ、その軽さに救われた気がした。
(……こんなものなのか)
コード・リーパーという言葉に抱いていた重さが、少しだけほどける。
ジョウがタカセの肩を軽く叩いた。
「まぁ、肩肘張るなよルーキー。今回は支援の延長だ」
(……本当に、ただの護衛任務か)
そう思ってしまったことが。
後になって、喉の奥を焼くことになる。
【continue…】




