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8. タキガワくんとあかりちゃん




タキガワくんが5月10日に亡くなったと

連絡を受けてからは、

毎日、彼のことを思い出していた。


思い出すというよりは次から次へと

現れてくる感じがした。

初めて彼を見かけた時のことや

初めて話したときのこと


-10年前-


初めて彼を見かけたのは、

桜の花の見頃もそろそろ終わりで、

花びらが、いくつも舞い散る

ある春の朝だった。


私はその春から勤務先が変わった。


色々な事があって、とても傷ついていて、

自信をなくし、全く元気の出ない

憂鬱な春だった。 


元気を出さなきゃ。

と、毎日自分に言い聞かせていた。

でも、あまり上手くいかなかった。


毎日の通勤で、電車を降りて、

会社まで歩いた。


もう春だというのに 黒い冬物のコートを着て とてもダルそうに歩く若い男の人が

目にとまった。


ダルそうだなぁ・・・。 と思った。


私の少し前を歩いていた。

人波にすぐに見えなくなった。


次の日も、また次の日も、同じ位の時間に

私の少し前を黒いコートで

ダルそうに歩いていた。


きっと、同じ電車なんだなぁ。と思った。


毎朝見かけるせいなのか、 


いくつくらいなのかなぁ・・・。


どんな仕事をしてるのかなぁ・・・。


元気なさそうだなぁ・・・。


何か悩んでるのかなぁ・・・。と


見かけるたびに

何かイメージさせる人だった。


何日もそうして過ぎたある朝、

いつもの黒いコートから

春っぽいグレーのコートに変わり、

少し長めだった髪も短くなって

さっぱりして見えた。


なんとなく、いつもより元気そうに見えて 


何か、いいことあったのかなぁ・・・。 と思った。


その頃にはもう、

桜の花はすっかりなくなって

若い緑が朝日に光ってた。


ある日、休日出勤か何かで、

人波が無くて、

前を歩く彼を見失わないでいたら

私の職場のある建物に入っていった。


同じビルで働く人だと知った。


職場の後輩のあかりちゃんが、

時々、他部所の友達との飲み会の様子を

楽しそうに話してくれた。


どこのお店に行ったとか、

何が美味しかったとか、

飲みすぎたとか・・・。


楽しそうだね。とその話を聞いていた。


そのうちに、

その仲間たちの飲み会に誘われた。




私は皆より、ずいぶん年上だった。

若者たちの飲み会に付き合わされるのは

疲れそうだったから、


行かない。皆で行っておいでよ。


と言ったのに、何度も誘うので、

きっと気を使ってくれているんだ。

と思って、

その気持ちに応えるために最初だけでも

顔を出そうと決めた。



当日になって、行ってみたら、案の定、

私だけ浮いてしまっているように感じた。


あまり居心地がよくない気分だったので、

少し後悔していた。


先に帰る上手な理由はないかと考えていたら 遅れてやって来た人がいた。


桜の頃、毎朝見かけてたあの彼だった。


彼は、遅れてしまったことと、

たぶん一番後輩ということなのか、

すっかり盛り上がっていたその場に、

なかなかなじめないでいるように見えた。


何か話しかけてあげなくちゃ。 

と思ったけど、何も言えないままでいた。


みんなが盛り上がってる中、

私と彼が微妙に浮いてしまっているように

感じていた。


突然、彼は大きな声で 


遅れてすいませんでした。


と、謝って、頭を下げた。


タキガワ イツキ


と名乗った。


いつもだるそうに・・。 とか 

元気がなさそうに・・。と、

見えていた彼がとても元気よく、

潔く、礼儀正しいあいさつをしたことが、

意外に思えて

もう少し彼を見ていたくなった。


帰る理由も思いつかなかったから 

結局、最後まで付き合うことにした。


彼と同期入社で部所も同じのカナちゃんが

彼の話をした。 


(つづく)

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