7. ひざ枕?
海斗とは駅で別れてひとりになった。
ひとりになると、また、
タキガワくんのことを想い出していた。
ひざ枕・・・。
そういえば、タキガワくんの地元メンバーとの飲み会を無理やりセットされて
出かけていったとき・・・。
-10年前-
2軒目にカラオケに行って歌っていると
最初は4人だったのに
だんだん人数が増えていった。
誰かが来るたびにタキガワくんが
紹介してくれた。
人が増えるたびに、
こっちに座って。と
私の座る場所を決めてた。
彼の右側か左側に。
最後は7~8人になってたような気がする。
もう誰が誰なんだか、わからなくなってた。
私は疲れて、部屋を出た。
少し休んでからまた戻って、
目立たないようにいちばん端の席に
そうっと座って、誰かの歌を聴きながら
おとなしくしていた。
しばらくそうしていたら、
隣で何か食べていたはずのタキガワくんが
食べ終わったのか、
いきなりゴロンと、私のひざに横になった。
まるでいつもそうしているみたいに
とても自然にあたりまえのようにしていた。
わたしはひどく驚いて、
頭の中は、ほとんどパニック状態だったけど
しばらく黙ってそうしていた。
ひざ枕・・・?
彼はそのまま眠ってしまったみたいだった。
私はひざの上の彼の髪を撫でてあげようと 手が動いたけど
どうしようかと迷って、やめておいた。
海斗のひざ枕の話を聞いたら
忘れていた疑問が次々に思い出されてきて 止まらなくなってしまった。
タキガワくんにいつか、
問いただしてみたかったことが
次々と、うかんできて
私の頭の中は、
疑問でいっぱいになってしまった。
さっき、別れたばかりの海斗から
メールが来た。
次はあねごから誘ってね。
というようなメールだった。
次回は、アミタイツで誘惑してね。って
アミタイツ?
いったい何を考えてるんだか・・。
電車の中で、笑いそうになるのをおさえて、メールを読んだ。
別れ際の海斗は満足そうな笑顔だった。
その笑顔になぜだかほっとした。
悲しそうな声を聞かされたり、
寂しそうな顔をされると
気になってしまう。
翌日の私は、会うという約束を果たせて
すっきりした気持ちだった。
海斗との出会いを不思議には思ったけど
それより不思議だったのは、
自分の大胆な行動だった。
最初は会うつもりなんてなかったのに
なぜだか会ってしまった。
飲みに出かけて
声をかけられるなんてことは
若いときにはたまにはあったけど
若いころだって、
ノリで電話番号を交換しても
実際に会うなんてことはなかった。
電話で話せば相手のいいかげんさや
軽さがすぐにわかって
夕べは飲みすぎてたからあまり覚えてない。といって終わらせてたと思う。
ごめんね。
と言って電話を切るだけでいいのに
海斗には、それができなかった。
海斗の話は作り話みたいにも思ったけど
軽さやいいかげんさは感じなかった。
それに、あまりにも熱心に誘ったり、
悲しそうな声を聞かせるから
こちらの調子がすっかりくるってしまった。
タキガワくんと結びつけて
考えてしまったからなのかもしれない。
と思った。
ある朝の通勤電車の中で、恵比寿での夜、
海斗が言ったことを思い出していた。
自分がホームレスになったらどうしよう。
というような、不安を口にしてた。
ホームレスになるかもしれないと
考えてしまうなんて。
その時は何の話かあまり理解できず、
冗談にも聞こえず。返事に困ったけど
20代の若さで会社を経営していたら
普通の同世代のみんなが感じている
プレッシャーとは比べものにならないほどのプレッシャーを感じているだろうな。
と思った。
もしかしたら、ずっとがんばり続けてきて 少し疲れてしまっているのかも。
と思った。
私は、タキガワくんのことを
毎日思い出していた。
忘れていたことまで思い出した。
彼のことはこれまでも、
時々思い出してはいたけど、
連絡はしなっかた。
何か用があれば、彼のほうから
連絡してくれると思っていたから。
私はタキガワくんのことと、
海斗のことを
交互に考えるようになっていた。
見た目は違うふたりだけど、
言うことや、行動が、よく似ていた。
私の話を聞いているのかいないのか
わからないところもよく似ていた。
タキガワくんのことを思い出していると
海斗が現れ、
海斗のことを考えていると
タキガワくんが現れる。
といった感じだった。
海斗という人はいったい、何なんだろう?
私は少し困惑気味で
頭を整理しなくちゃいけないな。
と考えていた。
タキガワくんのこと、海斗のこと、
ひざ枕のことをくり返し考えていた。
そうして、5月は過ぎていった。
(つづく)




