6. ご褒美型·馬人参型·ヒロイン型
恵比寿にお気に入りのお店があるという。
改札で待っていると、ものすごい人の数で 会えないかも・・・。
と思った。
正直にいうと、私は、海斗の顔を
全く思い出せないでいた。
彼とすれ違っても気づけないから
見つけてほしかった。
だから、会ったときにわかりやすいように
黒っぽい服を選んだ。
あの夜と同じ色。
顔もわからないし・・・。
改札から出てくる人の流れを見ていると、
人が多すぎるから交番まで来て。
と電話があった。
交番に向かって歩いていくと、
道も混んでいて、本当に会えるかどうか
わからなかった。
交番の前を通り過ぎようとした時、
声をかけてくれた。
はじめて会うような印象だった。
海斗は仕事帰りで少し疲れて見えたけど、
私の前に立つと、
混んでるから早く行こう
と言って、こっち、と指差した。
ふたりで横断歩道を渡って、
お店に向かった。
信号が変わりそうだったから、少し急いだ。
それにしても、この人と、これから
いったい何を話せばいいんだろう・・・。
少し戸惑い気味だったけど、
私に会いたい。
という理由を聞きに来たことを
思い出して、落ちつこうとしていた。
お店に入って、席に案内された。
大きな水槽のある、
とても素敵なお店だった。
仕事でたまに使うお店だと説明してくれた。
向かい合って座り、あらためて彼を見ると まだ危うさを残す若者だった。
いくつなの?
27 いや 8 。 と、
答えた。
昔、タキガワくんと久しぶりに会ったとき、
いくつになったの? と、
聞いたときの返事のしかたと
全く同じだった。
それで、私に何の御用ですか?
といったら
動揺したみたいだった。
どうしてそんなことをいうの。
と少し怒ったように見えた。
ただ話してみたかった。
というようなことをいった。
同世代の人はまわりにたくさんいるから
違う世代の人と話がしたい。
というような説明だった。
だけど、声をかけて来たのは
別の人だったじゃないの。
といったら
自分が声をかけるより、
外国人の彼が声をかけたほうが
応えてもらいやすいから頼んだ。
といったから、
弱気なのね。と思った。
私はまだ警戒していた。
ビールが運ばれてきて
飲みはじめてみたら
海斗は、あまりお酒が飲めない
ということを知った。
半分も飲んだら、
残ったビールを私によこして
コーラを頼んだ。
いろいろな話をした。
彼とのおしゃべりは、多少、
支離滅裂ではあったけど、
想像していたよりは楽しかった。
買い物心理の法則の話もおもしろかった。
可哀想な自分をなぐさめる為に
買い物をする。 ヒロイン型。
目標達成のためにあらかじめ
買い物をすると決めている。馬にんじん型。
よく頑張った自分に与えるための
買い物をする。ご褒美型。
の三つあるけど、どれ?
と聞かれたから
ご褒美かなぁ・・。
とこたえた。
16歳でアメリカに留学した話や、
21歳で会社をつくった話をしていた。
20代のうちに、本を出したいという
夢も話した。
どんな本?
と聞いてみたら
書きたいことは決まっていて、
自分のやってきた仕事の
ノウハウを書きたい。
というので
ビジネス書のようなもの?
と聞いたら、
日本の
本のジャンルがよくわからないけど
多分そう。
と答えた。
途中で彼に電話が入ったみたいだった。
同じ人から何度も着信があったみたいで、
いつもはこんなことないんだけど・・・
と少し不愉快そうにいった。
金曜日の夜なのに・・・。と私を見たから
もしかして
私に気を使ってるのかと思って
金曜日の夜だけど・・・。
かけてきてる人は電話を待ってるんだから かけなおしてあげたほうがいいんじゃない?といった。
彼は、席をはずした。
待っている間、
まさかとは思うけど
このあと、この前の人たちが来て
人数が増えたりしないよね。
みんなに囲まれて高額な契約書に
サインをせまられたりしないよね。
と少し怖くなって、席にもどった彼に
もう帰る?
と言った。
え? 今来たばかりなのに
もう? まだ いいでしょう?
少し彼を驚かせてしまったみたいだった。
電話が長くなったことを謝った。
その顔をみたら、
もう少し話を聞いてみたくなった。
色々と話題は移り変わり、
彼は、出会ったばかりの見ず知らずの私に ひざ枕への憧れを話し始めた。
ひざ枕?
その話を熱心にしているので、
あきれながら聞いていた。
そして、その相手は若い女性ではなく
40代とか、50代がいいというので、
ちょっと警戒した。
いったいどういう人なんだろう?
と思った。
海斗は、年上の女性に対するイメージや
ひざ枕への憧れを熱心に話すから
本気で話しているのか
冗談で話しているのかよくわからず
それにこたえられるような間柄でもないので 笑って聞き流していた。
お店を出て、駅に向かう道でもまた、
ひざ枕の話をしている。
飲みすぎた時に
ひざ枕で介抱してもらうのが憧れ。
とか言っている、、。
私は、飲めないお酒を飲んだせいで、
そんなこと言ってるのかと思って、
心のなかでは、
はいはい、帰りますよ、もう。
と思っていた。
駅で別れるとき、Suicaのチャージのやり方がよくわからないと言った。
それを手伝ってあげたら、
何だかすごく感謝されたから、
アメリカに住んでるというのは、
もしかしたらほんとなのかもと、思った。
別れ際、彼は、ハグのポーズをした。
私はハグなんてしたことないから、
どうしていいかわからなかったけど、
海斗が、広げた腕の手の先に、少しだけ、体を寄せた。
(つづく)




