16. おにぎりとシャンディガフとアミタイツ
海斗から連絡がきた。
仕事がひと段落ついたらしい。
仕事のあと、品川で待ち合わせした。
恵比寿ではご馳走になってしまったから
今度は、
私がたまに行くお店に連れて行って
この前のお礼をするつもりでいた。
早めに着いたから、少し歩いた。
昔、タキガワくんに、ビル風が怖いよと、
メールしたあの春の日を思い出していた。
街の様子はすっかり変わってしまった。
彼がダッシュで降りてきたビルの階段も、
今は、もう無くなってた。
待ち合わせ場所に現れた海斗は
アミタイツじゃないの?
と真顔でがっかりしてた。
本気で言ってたの?
じゃ、今度またね。
といって笑った。
今日の服にはアミタイツ合わないから、
今度、黒いワンピースとかに合わせるね。
とテキトーに、言った。
黒いワンピース。
黒いワンピースにアミタイツ!
なんだか、1人で盛り上がってる?
それがいい。セクシー。今度はそうして。
と言った。
私は、
セクシーにはならないと思うけどね。
と心の中でつぶやきながら。
今日は、ひざ枕じゃなくて、
アミタイツなんだ。
と、あきれていた。
アメリカンジョークとか、
そういうのなのかな?
よくわからないことを言う人だと思った。
お母さんは元気? 大丈夫?
席について最初に彼はそう言った。
ひざ枕やアミタイツの話をする
よくわからない人だと思っていたのに
まともで意外なことを言うから少し驚いた。
恵比寿で会ったとき、
私の母が体調をくずしてる話を
少しだけした。
それを覚えてた。
大丈夫だよ。
とこたえた。
よかった。大丈夫だね。
安心したように私を見たから、
ありがとう。といった。
まさか、海斗が
私の母のことを
気にかけていて、くれただなんて
思いもしなかったからなのか、
突然、心の中にあたたかい何かが広がった。
胸の奥に広がるこのあたたかいものは、
いつかの、春の夜、
タキガワくんに、
手を引かれて、歩いたときに感じた
あの時のものと
同じなんじゃないかと思った。
それを、思い出して、考えようとしたけど、
海斗が話し始めたから、
考えるのはやめて話を聞いた。
連絡できなかったのは、
オフィスの引越しがあって
忙しかったと説明した。
飲み始めると、なにやら今度は
アミタイツの魅力について話し始めた。
留学したての頃の苦労話もした。
ホームステイ先の食事が少なくて
ひもじい思いをしたらしい。
ホームステイ先で出る食事が
豆のホットドッグばかりで
ソーセージのホットドッグが
食べたかったと話した。
そういえば、恵比寿でもソーセージを
美味しそうに食べてた。
その時も、日本のシャウエッセンは
サイコーで、こっちにいるときは
毎朝、食べる。と話していた。
彼はひもじくて、その家から
逃げ出すことばかり考えていたらしい。
でも、日本にいる家族には言えなかった。
帰ってくるように言われると、困るから。
と話した
ひもじくても留学先で頑張るという気持ちは変わらなかったんだと思った。
彼は、そうやって自分の人生を
切り開いて来た人なんだと。
海斗は、たまに、弱々しい声で話して、
とても弱く見える時があるけど
本当は強い人なのかもしれないと思った。
弱くみえたり、強くみえたりする
不思議な人だと思った。
色々な話をした。
お酒は、あまり飲めないけど
仕事で飲むことが多いから
ビールカクテルをお客さんに教えてもらったと言い、
シャンディガフを頼んだ。
ビールを飲んでいた私が、
それは飲んだことがない。といったら
飲んでみる?と私にグラスを手渡した。
ひと口飲んだら、
すぐに私の手から取り上げて
もうダメ。っていった。
グラスを渡しておきながら、
すぐに取り上げられたのが面白くて、
そんなに飲んでないよ。と笑った。
飲みたかったら、もう一つ頼んで。
と言った。
その言い方が、
おにぎりの、のりを半分ちぎって食べた
タキガワくんにそっくりだった。
あの時は、私が
ご飯もひと口、ちょうだいよ。
と言ったけど・・・。
彼は、タキガワくんのことを私に聞いた。
亡くなった人は恋人?
私は何てこたえていいのかわからなくて、
恋人ではない・・・友達・・・・
と言ったまま、
何もいえないでいた。
話してみたかったけど、
どう説明したらいいのか、わからなかった。
手短かに話すのも難しそうだし、
長くなってしまいそうだったし、
海斗に話すことでもないし、
海斗もそれ以上は、何も言わなかった。
話題を変えようと思って、
飲み物を注文した。
白ワインを頼んだ。
6月は、白ワインがいい。
6月の、さくらんぼとよく合うんだよね。
白ワインを飲んでいると
海斗が、カリフォルニアワインはどう?
と私に聞いた。
そうだ、確か、
カリフォルニアに住んでいるって
言ってたっけね。
カリフォルニアワインは
白が特に美味しいよね。って言ったら
気を良くしたみたいだった。
向こうでワインカーヴに
行った話をしてくれた。
色々飲むから、すごい酔っ払っらっちゃって大変だった。と言ったから
そうでしょうね。 と笑った。
彼が、私の左手を見ていた。
人差し指にしていた指輪の石を
ダイアモンド?
と聞いた。
これはイエロークオーツという
黄色い水晶だよ。
この指輪はツメのところが LOVE と文字になってるの、可愛いでしょう?
とはずして渡して見せた。
少し見て、
別に・・・よくわからない。
といって、指輪を私に返した。
私の左手を見てた。
聞かれたから、興味があるのかと思って、
説明したのに
別に。って・・。
おかしなひと。
テキトーに、可愛い。とか、
言ったりしない人なんだなぁ。と思った。
タキガワくんと
スパイダーマンを見た日のことを
思い出していた。
腕時計の黄色いベルトを どうお?
と聞いたときも、
よくわからないと言った。
海斗はいつも。
タキガワくんと同じようなことを言う。
海斗はタキガワくんなのかもしれない。
いや、そんなこと、いくらなんでも、、
性格や考え方が似てると
同じようなことを言ったりするのだろうか。
平静を装ってはいたけど、
私の頭は混乱しはじめていた。
来週から東北と九州にいって、
仕事が片付いたら一度アメリかに帰ると、
スケジュールを私に話した。
お店を出て、駅に向かった。
別れ際、海斗は、ハグのポーズをした。
恵比寿でもそうだった。
あの時は、少しだけ、彼に近づいた。
だけど、品川での別れ際では、
海斗の話しを色々聞いて、
少し気持ちが近づいてしまったせいなのか
そうすることをためらった。
彼のハグのポーズを
少しおどけて真似しただけで
かわして帰ろうとした。
彼は、それを許さなかった。
ありえなというふうな強い視線で
私をその胸に誘導した。
私はその視線の強さに抵抗できなかった。
何かわからないけど、
見えない力を感じていた。
彼は片手にビジネスバッグを持ったまま、
空いてる片手で軽く私の背中に触れた。
ひとりになって、また、
タキガワくんに話しかけた。
ハグとか、ちょっと、困るんだけど~。
私の頭の中は混乱していた。
タキガワくんの言葉と
海斗の言葉が重なって・・・。
タキガワくんは、
仕事を終えて、そろそろ旅立つ準備を
はじめたのかもしれない。
(つづく)




