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12. つないだ手



勤務先が変わって

少し経ったある休日の朝、

タキガワくんに


おはよー。 


と、メールした。


異動の挨拶で、連絡をしたときに、

また、メールして、と言われてたから。


組合関係の集まりがあって


休日扱いの出勤だよ。


とトーンの低い返事がきた。


その日は、私が休日と知って、

メールをよこした。


彼は、確か品川の方にいて 


私の家から近い? とか 


今 何してるの? とか 


お出かけしてるの?とか


細切れに、時々メールが入った。


なんだか、かわいいメールを

よこすんだなぁ。と思った。


夕方になって、またメールがきた。


今度はお誘いだった。


仲のいい同期と久しぶりに会ったから、

これから飲みに行くけど、


ふたりだけだから来ない?って


私は、久しぶりに飲むんだったら

さしでじっくり話せばいいのに、

と思って、そう返した。


同期同士のふたりの間で自分がどんな話しをしていいのかもわからなかったから。


それに女の子を誘うんだったら、

同期のかわいい女子たちを誘えばいいのに。


組合で集まっているなら、女子たちも

たくさんいるでしょう?


と付け加えた。 


断ったつもりでいた。




だけど、


今、品川駅だよ。とか 


店にはいったよ。とか 


ビールが来た。とか


今どこ? とか 


近いから来て。って

何度も何度もメールが来る。


途中で無視もできないし、

その都度、返信するのにも疲れてきて、


根負けして、出かけることにした。




品川駅で電車を降りて  


着いたよー。ってメールした。


春の風がとても強くて、ビル風が怖かった。


怖いよー。ってメールした。


メールの返信を待ちながら、

どの辺のお店かなぁ・・・。


あのビルかなぁ?と少し遠くに見えた

ある建物を見ていたら 


彼が出てきて、

階段をダッシュで降りて来るのが見えた。    


速い・・・。だけど飲んでたんじゃ・・・

走らないほうが・・・と


近づいてくる彼を見ながら 


もしかして怖いよー。ってメールしたから?


まさか、私のためにダッシュなの?

嘘でしょ?


と考えていた。


私を見つけた彼は  


大丈夫? すごい風だね。早く行こう。


と言って、ふたりでお店にむかった。


歩きながら私は 


タキガワくんと同期っていったら

タキガワくんと同じ歳でしょう?


こんなに年上の私みたいなのが行ったら

驚くんじゃないの?


何を話せばいいのかもわからないし・・・。


といった。


大丈夫だよ、そんなこと心配してるの?  いつも俺と話してるじゃん。


と心配しないでというふうに

私を見て笑った。


それに、歳が・・・。

違いすぎるし。というと。


歳なんか、関係ないじゃん。

そんなこと別にいいでしょう?と


私を見つめて


いいから早く行こう。待たせてるから。

と言って、


前を見て少し先に行った。



タキナガワくんの同期という彼が

ひとりで待っていた。


あいさつをして


同期の女の子たちとかは誘わないの? 


同期会みたいにしたらよかったのに。

と話しはじめた。


ふたりは顔を見合わせて、

同期の女子たちとはあまり話が合わないし、


というようなことを言った。


それに、誘っても相手にされないよ。

といったから


情けない・・・。がんばりなよ。

と笑った。




同期の彼は今日の組合の集まりで、

何か研修のようなことがあって

そのなかで代表してタキガワくんが

何か発表したと言った。


その発表した内容がとてもよくて

その場にいたみんなを感動させた・・・。


というようなことを私に話した。


私は、


すごいじゃない。何て言ったの? 


とタキガワくんに聞いたけど、


彼は照れてるのか、ニヤニヤしながら


いいよ。


といって話さなかった。


同期の彼にもう一度、


何て? 


って聞いたら


今日の研修会のテーマは、

色々な差別問題を考える。

というようなことで、


講義を聞いたり、

みんなで話し合ったりしたらしい。


最後にグループごとの発表で、

代表でタキガワくんが話しをした。


ということだった。


タキガワくんは、その日は休日だったので

スーツではなく、少しカジュアルな服装で

出かけたら、ほかの人たちは

みんなスーツで来ていて、失敗したらしい。


周りのみんなからもじろじろ見られて

とても居心地が悪かった。と話した。


見られてるときの嫌な気持や

失敗してしまって沈んだ気持ち、

自分だけが仲間はずれで

ひとりぼっちの孤独な気持ちなど


その時に感じていた気持ちを

差別を受けている人の気持ちにたとえて

発表したら、みんなが感動して

拍手が起こった。


というような話だった。


ふたりがそのときの様子を代わる代わる

話してくれた。


ふたりともなんだか、

まだ幼いこどもみたいに目を輝かせて

その日の出来事を夢中で話すから、


私は、その輝いてる、瞳の光を眺めていた。




しばらく話してお店を出た。


すると、今度はカラオケに行こうと

言いだしている。


ふたりで行っておいでよ。


と言って帰ろうとしたけど


ふたりとも、


一緒に行くでしょう?


と、さみしそうな不思議そうな

顔になってしまったから

そのまま、すぐに帰ることができなかった。


世代の違う男子とカラオケに行くなんて

本当に大変・・・。


お互いに歌う曲だってわかるのかしら?

という私の心配をよそに


ふたりはどのお店にするか相談していた。 はしゃいでいるように見えた。


お店が決まったみたいで

少し離れた場所に立って、

何て言って帰ろうか考えていた私に


タキガワくんが近づいてきて  


行こう。

  

と言った。そのとき、


彼の右手が優しくそっと私の左手を包んだ。


手を引かれて歩くうちに


私は穏やかで優しい気持ちになっていた。


春の夜に、心地よい風が通り過ぎていった。


私は、優しくて温かい何かに包まれて

心の中にもそれが広がった。


あの感覚はいったい何だったんだろう? 


不思議な感覚だった。


ずっと閉ざしていた心が、素直な自分を

思い出したのかもしれなかった。


硬くなってしまっていた心が

やわらかくなって、優しい気持ちを

思い出したのかもしれない。 


だからあの時、春の夜の風があんなに

心地よかったんだんだろうか。



それから、少しして、電話がかかってきた。



(つづく)

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