第6話:付与魔法の限界
街はいつになく慌ただしい空気に包まれていた。
王都から遠征を行っている「王の軍勢」の精鋭部隊が、行軍の途中でこの職人街へ立ち寄ったのだ。
彼らの目的は、傷ついた武具の不調を直すこと。
長旅と強力な魔物との連戦によって、騎士たちの愛用する武具は限界を迎えていた。
街の鍛冶屋や付与師たちが総出で修理にあたったが、すぐに全員が頭を抱え込むことになる。
現在主流の「強力な魔力で上書きする付与」を行おうとすると、
長年使い込まれて金属疲労を起こした剣や防具は、その強いパワーに耐えきれず、
かえってヒビが入ったり割れたりしてしまうのだ。
「ダメだ……上書きの付与じゃ、この武具そのものが壊れてしまう!」
「どうすればいいんだ! このままでは次の遠征に向かえない……!」
騎士団の隊長が焦りの色を濃くする中、
途方に暮れていた街のベテラン職人たちが顔を見合わせ、やがて力強く頷き合った。
「隊長さん。それなら、あそこの『ガルド工房』に行ってみな」
「ガルドの工房だと? 頑固な爺さんがいるという、あの小さな店か?」
「ああ。あそこにいる『ノア』って若い付与師なら……主流の上書きとは違う、道具の力を限界まで引き出す本当の手仕事ができる。あいつの技術なら、俺たちが保証する」
工房の奥で作業をしていた私は、表の賑やかさに様子を見に出て、言葉を失った。
見知らぬ街に来て、まだ間もない自分。
それなのに、街の職人たちが私を信頼し、大切な客を薦めてくれている。
(……私を、信じてくれている)
「効率が悪い」と切り捨てられ、誰にも見向きもされなかったおじい様の教え。
それが今、この街の職人たちに認められ、必要とされている。
胸の奥が温かい光で満たされていくのを感じながら、
私は深く息を吸い込み、王軍の騎士たちの前へと一歩を踏み出した。




