第5話:頑固爺の工房と、失われた付与魔法
東の領地を離れ、たどり着いた見知らぬ街で
古びた看板を掲げる鍛冶工房を見つけた。
そこでで働くことになった私は
過去の自分と決別するため、「ノア」と名乗ることにした。
店主であるガルドは、無愛想で一見すると近寄りがたい頑固親父だった。
けれど、ガルドの作る武具には、使い手への深い優しさと職人としての確かな誇りが宿っていた。
現代の付与魔法は、元の道具に新たな魔力パワーを「上書き」するやり方が主流だ。
効率が良く、一定以上の性能も確実に保証されるため、世の中のほとんどの付与師がこの方法を採用している。
一方で、もう一つ——昔ながらの付与方法が存在した。
道具が元から持っている固有の力を読み取り、
使う人の個性にぴったり合わせて引き出し、補強していく方法だ。
だが、このやり方はとんでもなく手間と時間がかかる。
効率があまりにも悪いため、現代では廃れ、誰も使わなくなっていた。
けれど、私が使っているのは、まさにその時代遅れの失われつつある技術だった。
おじい様から「付与魔法の真髄」として教わったものだ。
「……おい、ノア」
ある日の夕方、私が仕上げた剣を手にとったガルドが、ぶっきらぼうに声をかけてきた。
「この剣、上書きの魔法じゃねぇな。
元々の鉄の癖を読み込んで、使うやつの手に馴染むよう魔力を編み直してやがる……
お前、こんな効率の悪い手間のかかる古臭いやり方をどこで覚えた?」
私は一瞬身構えた。
また「無駄なことをするな」「効率を上げろ」と怒られるのではないかと、肩が跳ねる。
「あのう……それは…」
ガルドの手に握られた剣の刃は、夕日を受けてどこか誇らしげに輝いていた。
「……上等だ。
最近の付与師は上書きばかりで、道具の悲鳴にも気づかねぇ。
効率ばかり追いかけて、道具と使うやつの命を軽視する奴ばかりだ。
だが、うちは違う。
そういう細かい気配りと手仕事を求めてる客が来るんだ」
ガルドはフッと鼻を鳴らし、私の頭をゴシゴシと力強く撫でた。
「お前のやり方でどんどんやれ、ノア。
ここは、職人が誇りを捨てずに済む場所だ」
かつての実家や領主館では、「効率が悪い」「可愛げがない」と切り捨てられてきた私の技術。
だが、この工房ではそれが最高の「本物の手仕事」として認められた。
誰かの都合の良い道具としてすり減らされていた日々とは違う。
ここは、私が職人として誇りを持って生きられる、確かな居場所だった。




