並び立つもの。
鍋蔵は、静かに歩を進めていた。
子龍の軍の篝火は、はるか後方。
月が中天に昇る頃が、決行の時だ。
音を立てないように、従う兵たちは鎧を脱いできている。
それでもみんな汗まみれだ。
「予定より早く目的地に着いた。今のうちに腹ごしらえをしておけ。」
さすがに鍋というわけにもいかず、皆黙って干し肉を齧る。
鍋蔵は兵たちを見回した。
皆、汗まみれだった。
佐之助が兵を出さなければ、
武虎が北を受け持たなければ、
小太朗が違和感に気づかなければ、
今ここには立っていなかっただろう。
鍋蔵は干し肉を噛みしめる。
固い。
噛み締めるほど旨みが出てくる。
不思議と一人ではない気がした。
月が中天に昇る頃。
鍋蔵たちは静かに敵国の軍へと近づく。
月明かりに照らされる敵軍は全身を覆う鎧が白く光っている。
全身に金属の鎧を纏っているのか。
鍋蔵は眉をひそめ、兵たちに小声で伝える。
「殴った方がよさそうだ。」
兵たちは足元から手頃な石や木を拾う。
一際目立つ軍旗が目に止まる。
敵将の位置はあそこで間違いあるまい。
それを確認した鍋蔵は、静かに告げる。
「行くぞ。」
兵たちは無言で頷いた。
暗闇に乗じての奇襲。
敵軍は慌てる。
しかも、僅か十名ほどの兵とは思うはずもなく、散々に乱れた兵たちは同士討ちを始める。
その隙をつき、鍋蔵は敵の大将と思しき黒い鎧の男へと迫る。
鍋蔵の木刀が唸る。
しかし、男は自らの剣で綺麗に捌く。
鍋蔵の耳には、周りの喧騒は届かない。
黒い鎧の男と鍋蔵の二人だけ、互いの剣だけが存在する世界。
数十合打ち合った。
鍋蔵の剣はまだ届かない。
鍋蔵が大きく息を吐く。
男は一旦間合いを開く。
そして、腰にぶら下げた小袋から黒い何かを取り出す。
戦場に響き渡る轟音と硝煙の匂い。
鍋蔵の左腕に、熱が走る。
遅れて滴る、温かいもの。
左手は使えんな。
鍋蔵は右手で木刀を持ち、半身に構え直す。
静寂。
風さえも止んでいる。
その時、北の方から鬨の声。
蹄鉄の音が遅れてやってくる。
「兄上、助太刀いたす!」
武虎を先頭に数十騎の馬が雪崩れ込んでくる。
武虎は、ヒラリと馬から飛び降り鍋蔵と並び立つ。
月が二人を照らしていた。
「遅いぞ。」
鍋蔵の言葉に、武虎はニヤリと笑う。
「狙って来たんだ。」
武虎の言葉に、鍋蔵もニヤリと笑う。
男は劣勢を悟ったのかじりじりと後退する。
敵軍の兵が男を馬に乗せ、一陣の風のように去っていく。
「追わずとも良い。」
武虎は短く言い、雄叫びをあげる。
味方の兵たちは、夜空に響き渡るほどの雄叫びをあげた。




