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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第七章 最終章

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月は見ている。

子龍は一人腕組みをしていた。

山の頂からは戦場の様子がよく見える。

「完全に逃げ場が無くなったな…。」

子龍が呟いた声は、風に掻き消される。


太陽が西の空を赤く染めている。


兵の一人が声をかける。

「子龍さん、篝火を焚きますよ。」

子龍は頷く。

「戦場でいうことではないですが、ここ数日食べないし、寝てない。倒れますよ。」

兵は、心配そうな顔をする。


「民の苦しみは、こんなもんじゃない。」

子龍は、山間の村へと視線を移す。

人の気配はない。

避難は完了しているようだ。


「雲長さん、俺はやはり間違っているのだろうか。」

子龍は篝火を見つめる。


二日前のことだ。

子龍は、雷国の隊長の前でひざまづいていた。

「このまま、都へ侵攻する。あなたには、先鋒を務めてもらう。」

通訳の男が喋る。

漆黒の鎧を纏った金髪、碧眼の隊長はミカエルと名乗った。

子龍を見下すように、一段高いところに立って腕組みをしている。


すでに技王の国の主要な部分は抑え、その勢いで都まで攻め込む決断をしたようだ。

「民の命は保証してくれるのだな。」

子龍の問いに、ミカエルは頷く。

「あなたの働き次第だそうです。」

通訳の男が、ミカエルの言葉を伝える。


子龍は、あえて都への最短距離の直線を進路に選んだ。従ってきた兵たちの損耗を少しでも抑えるためだ。

街道での全面対決を避けるためだ。

ミカエルには、一刻も早く都へ侵攻し虚をつくためだと伝えた。

ミカエルからの返答はない。


最小限の犠牲とはいえ、目の前の村を巻き込むことになってしまった。


背後にはミカエルが率いる軍。

退路を断たれた形になっている。


…子龍は近くにいる兵に声をかける。

「皆、交代で休め。夜襲の警戒を怠るなよ。」

兵は、命令を伝えるために駆け出す。


子龍は、一人戦場を照らす満月を見つめていた。


その頃鍋蔵は志願してきた十名ほどの兵士を連れ、険しい山道を歩いていた。


少し前へと遡る。

物見の兵からの報告を受けた佐之助は、鍋蔵を呼んだ。

「子龍の軍は背後に敵国の軍。逃げ場がないようだ。陣形から見ると兵の損耗を嫌っているようだ。」

佐之助の言葉に鍋蔵は頷く。


「お前の見立て通り、人の命を粗末に扱えぬ男のようだな、子龍という男は。」

佐之助は、鍋蔵から視線を近くの副官へ移す。

「兵を十名ほどの選んでこい。腕自慢で身軽なやつだ。」

副官は短く返事をし、兵たちの方へ走り出す。


佐之助は、鍋蔵へ向けて地図を指し示す。

「敵の陣形はこの形だ。小さくまとまる方陣の形をとっている。鍋蔵は、南側から迂回して背後の軍に当たってくれ。北側からは武虎の軍。挟撃の形になる。」

「武虎が軍を率いているのか?」

佐之助は頷く。

「あいつは、お前と違って軍人の素質がある。」

佐之助は言葉を続ける。

「俺は、主力を率いて子龍の軍と対峙し、注意を引きつけておく。背後の敵を追い払えば状況を変えることができるはずだ。」


満月が鍋蔵の顔を照らす。

汗に塗れながら山道を進むその顔には、固い決意が宿っていた。

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