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鍋侍と、弟子たち〜戦う前に、飯を食え〜  作者: now here man
第七章 最終章

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戦の前。

佐之助は指が白くなるほど、手綱を握りしめている。


自分の指示で動く数万の軍勢。

風にはためく軍旗。

見渡す限り、人ばかりだ。


敗北は国家的損失になる。

泰山の顔が浮かぶ。


長年かけて築き上げた、現在の地位。

妻と子供には苦労をかけた。

この一戦が終われば。

…今は考えるのをよそう。


隣には鍋蔵。

かつて共に戦った仲間。

ある戦で、村を守れなかった。

その時から、二人は別の道を歩くことになった。


武虎は別動隊を率いている。

鍋蔵の弟であり、佐之助も目をかけていた。

この戦で武功を立てれば、出世の足がかりとなる。

生かせるかどうかは武虎次第だ。


子供達は避難させた。

戦さは大人達がすればいい。

子供達がすくすくと育てる環境を作るのが大人の役割だ。

自分の子供や小太朗達の顔を思い浮かべる。


雲海や夏樹は泰山の元にいる。

戦に出ても大して役に立つまい。

後方でしてもらうこともある。


夏の暑い風が佐之助の背中を押す。


さぁ、戦の時間だ。

佐之助は剣を掲げ、鬨の声を上げる。

数万の軍勢が、一斉に答える。

もう、後戻りは出来ない。



岩之助は額の汗を拭っていた。

その頃、岩之助と小太朗、桜は馬を走らせていた。

桜が馬を駆る姿に見惚れて、小太朗につつかれる。

「岩之助さん、しっかりしてくれないと、僕ごと馬から落っこちちゃうよ。」

岩之助は、苦笑いする。


佐之助には、避難しろと言われた。

桜の

「私たちにも何かできることがあるんじゃない?」

の一言で、小太朗、岩之助は頷く。


大軍の進路とは別の山間の道を通って、戦場へと向かっている。

「岩之助さん、危なくなったら助けてよね。」

小太朗の言葉に、岩之助は胸を張って答える。

「桜さんは、命に変えても守る!」

「命を軽く扱わないで。」

桜は呆れ顔。


鍋蔵から聞いていた戦場には、山間の寂れた村があるはずだ。

都への道中で立ち寄った村。

世話になった人たちがいる。


「一人でも多く逃さなきゃ。」

桜は逸る心を抑えながら、手綱を握りしめる。


馬を風のように駆けさせ、予定より早く昼頃には村へと辿り着いた。

馬は全身汗まみれ。

小太朗は、村人に頼んで馬に水を飲ませる。


「この村は戦場になるわ。」

桜は村長に掛け合う。

その真剣な様子に、村長は嘘や冗談ではないことを確信する。

「荷物なんかどうでもいい。命あっての物種だ。みんな山に隠れろ!」

動ける者たちが、一軒一軒回って逃げ遅れる者がいないか確認をしていく。

小太朗と桜、岩之助も手分けして逃げ遅れた者がいないか見て回る。

普段は静かな村が、騒然とする。


訳もわからずになく赤子。

紙のように白い顔をした女。

家畜を置いていくのは嫌だと駄々を捏ねる老人。

「生きてりゃまた飼えるだろ!」

言いながら岩之助は老人を担ぎ上げる。


若い男たちが逃げ遅れた者がいないか確認をすると同時に、山へと村人たちの避難を始めた。


夕陽が入道雲を照らす頃、最後の一人の避難が終わった。

三人とも汗まみれだが、やるべきことをやり遂げた顔で笑顔を交わしたその時。

遠くから地響きと共に、山間の村へ両軍が迫っていた。

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